スターダム退団秒読みのジュリア、最後に残される大仕事。最高のライバル、中野たむに放った「そうだな、やんなきゃな」に込められた想い

いよいよ“その時”が近づいてきた。

スターダムのトップ選手であるジュリア。スポーツ紙で退団確実と報じられ、団体としての公式発表はされていないものの、本人も試合後のコメントで「スターダム所属の残り期間は短い」としている。当然、ファンもそれを意識して試合を見ることになった。

3月で契約満了と言われており、現在は“カウントダウン”とも言える状況。そんな中で組まれたのが、3.10後楽園ホール大会でのSTRONG女子王座防衛戦だ。

新日本プロレスのアメリカ版タイトルであるSTRONG女子王座を、ジュリアはこれまで9度防衛。アメリカでの防衛戦も刺激になっており、今後もベルトを保持し続けると意気込んでいた。STRONG王座はスターダム管轄ではないから、確かにそれも可能だ。ただ、その野望が実現することはなかった。王座陥落である。

V10戦の挑戦者はステファニー・バッケル。チリの選手でメキシコ・CMLLのベルトを保持。アメリカでも活躍している。日本ではアイスリボンで、2022年に当時チャンピオンだった安納サオリと熱戦を展開した。

ジュリアとバッケルの初シングルは、流れるような技の攻防ではなく、噛み合わない中にゴツゴツとしたぶつかり合いがある展開。頭突きの打ち合いなどタフな勝負になったが、そこから一転してバッケルが丸め込み。瞬間的な隙を突いての勝利で王座移動となった。ベルト海外流出、いや本来の形に戻ったと言うほうが正しいか。

バッケルも実力者だけに、この勝利は不思議なものではない。ただ観客は、ジュリアの敗北そのものに呆然というムードではあった。

これでジュリアは“丸腰”に。スターダムでなすべき役目がなくなったと受け取ることもできる。試合後に乱入したヒールユニット・大江戸隊の刀羅ナツコの言葉を借りれば「ベルトも落としたし、もう用なしだな」となるわけだ。

だが、ジュリアがスターダムで最後にやるべきことはまだ残されていた。大江戸隊に襲撃されたジュリアを救出した選手たちの中には、中野たむの姿も。両者はリングを降りても互いの目を見て対峙。さらにインタビュースペースでも同席した。

「アンタがどこに行こうと知ったこっちゃない。でも私にとってアンタは唯一無二のライバルだし、アンタ以上に本気で殴り合える相手はいない。アンタにとってもそうなはず。どっか行って私以上のライバル作るとか許さない! 中野たむを一生、引きずって生きろ。最後に私が呪いをかけてあげる。1対1で闘って」 たむが言うように、2人は白いベルトことワンダー・オブ・スターダム王座を巡って激しい抗争を繰り広げてきた。日本武道館大会のメインでは敗者髪切りマッチで対戦。昨年、ジュリアから“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダム王座を奪ったのもたむだ。レスラーとして、また人間としてのタイプは真逆。だからこそ最高のライバルでもある。
たむの言葉に、ジュリアはこう返した。
「そうだな、やんなきゃな。今この瞬間、スターダムに私と中野たむがいるってことは、やらなきゃいけないよね」

プロレスの世界は「どこかでつながっている」と言われる。選手として試合を続ける限り、いつか“再会”があるかもしれない。だから、中野たむvsジュリアも、これが最後だとは誰にも言えない。

とはいえ、今のタイミングが、スターダムでの両者の対戦の“区切り”、あるいは“集大成”と言うことはできる。

3月12日の時点で対戦は正式発表されていないが、組まれるのは確定的。3.16姫路大会ではジュリア&たむ&鈴季すずのチーム結成が決まった。

激しく、感情むき出しとしか言いようがないジュリアとたむのライバル抗争は、スターダムの歴史に刻まれるもの。今回はとりわけメモリアルな対戦となるからこそ、正式決定を心して待ちたい。

取材・文●橋本宗洋

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