アジア人の透明化? ロバート・ダウニー・Jr.らのオスカー受賞を巡る炎上の経緯

日本時間3月11日に授賞式が開催された第96回アカデミー賞で、受賞結果よりもSNSの話題をさらったのが、ロバート・ダウニー・Jr.とエマ・ストーンの受賞の瞬間の“行い”である。

ことの発端は、まず『オッペンハイマー』でダウニー・Jr.が助演男優賞を受賞したこと。そもそも今回のオスカーは、例年と違って歴代の受賞者が5名プレゼンターとして登壇し、ノミニーの5名にそれぞれノミネートされた作品での演技、これまでの功労について称賛する演出が行われていた。ダウニー・Jr.へのコメントはサム・ロックウェルが担当し、『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』など過去の出演作のネタも交えられ会場の笑いを誘った。しかし、封筒に書かれた受賞者の名前を読み上げ、オスカー像を手渡すのは昨年の受賞者であるキー・ホイ・クァンだ。

第96回アカデミー賞 助演男優賞
ダウニー・Jr.の名前をとても嬉しそうに呼び叫ぶクァン。しかし、ステージに上がったダウニー・Jr.は、クァンと一切のアイコンタクトもせずオスカー像だけ取ると、真っ先にほかのプレゼンターであるティム・ロビンスと握手。その間も、クァンは封筒をダウニー・Jr.に渡そうとしていたが、彼はクァンの横にいたロックウェルとフィストバンプしながら不自然なくらいそれに気づかず、すぐに会場側に体を向けた。このクァンに対するダウニー・Jr.の失礼な態度が、今ネット上で物議を醸している。

第96回アカデミー賞 主演女優賞
一方、『哀れなるものたち』で主演女優賞を受賞したエマ・ストーンでも似たような出来事が起きている。話題の中心にいるのは彼女とジェニファー・ローレンスで、先に述べたクァンの立場にいるのが、昨年の受賞者であるミシェル・ヨーだ。ストーンがステージに上がると、彼女はドレスの後ろが破れていることをプレゼンターに話しながらヨーの元へ行き、彼女の持つオスカー像を手にするとアイコンタクトをとった。すると、ヨーとストーンがお互いオスカー像を手に持ったまま隣にいるジェニファー・ローレンスに近づく。そして、ローレンスがヨーの手からオスカー像を離してストーンに渡したのだ。そんな彼女の隣に立っていたプレゼンターのサリー・フィールドが、ローレンスを引っ張って止めようとしている様子(そして、オスカー像を渡した後もステージの隅に彼女を引っ張っていく様子)が映像に残っている。

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この2つの出来事を受けて、SNS上では「アジア人差別」として炎上。その後、ヨーが自身のInstagramで「エマ、おめでとう! あなたを混乱させてしまったけど、私はオスカー像を受け渡すという美しい瞬間をあなたと親友のジェニファーに味わってほしかったの。彼女は私の親友であるジェイミー・リー・カーティスを彷彿とさせるから。いつもお互い支え合ってね!」とコメントした。このヨーの投稿によると、彼女自身が意図的にローレンスからストーンにオスカー像を渡せるようにしたということになる。

つまり、無理矢理ローレンスがヨーからオスカー像を奪ったわけではないとのことだが、世間からはローレンスやストーン側からの表明より先にヨーが釈明している点が指摘されている。加えて、ローレンスが過去にも度々言動が問題視されて炎上していること、彼女のオスカー像の渡し方が些か乱暴に見えたことが今回の火種となっているように感じる。

一方、ダウニー・Jr.も自身からの表明はないが、バックステージでクァンとハグをしたり、一緒に自撮りを撮ったりする様子が“カメラに捉えられている”。その行動がいかにも「差別的」と言われないようにするための“保険”のようであると、インターネット上ではさらに問題視されているのだ。ダウニー・Jr.の言動に「受賞の喜びで余裕がなかったから」と擁護する意見も飛び交っているが、彼はこれまでのアカデミー賞の前哨戦となるほぼ大体のアワードで助演男優賞を獲得してきていて、メディアも彼の受賞を確実視していたのだから、彼自身今回の受賞をストーンのように“驚く”ことはなかったように感じてしまう。

それに加え、主要部門は他の部門と違ってスピーチ時間を長く用意されている傾向がある。つまり、そこまで急がなくていいし、プレゼンター1人ずつと握手をしたってそんなに大した時間にはならないのだ。あらゆる事情や背景があったと後から説明ができたり、不仲ではないとアピールしたりしても、結局のところステージ上で相手をリスペクトした行動を取れなかった事実は拭えないのではないだろうか。

先に紹介したヨーのInstagramのコメント欄には、「あなたが弁解する必要はない」「あれは典型的な差別」と逆に彼女たちを庇うヨーにも批判的な意見が垣間見える。ストーンは予期せぬ受賞にパニック状態だったものの、ローレンスはそうさせてくれたヨーに「ありがとう」と感謝もできたはず。その気持ちがボディランゲージにも表れていなかったことが、今回の批判に繋がったのではないだろうか。

筆者は個人的に、ローレンスがプレゼンテーターとして『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーンに賞賛コメントを送る際、他のプレゼンターよりもグラッドストーンに対してアイコンタクトが少なくてほぼカメラ目線、言葉も何となく気持ちが感じられない棒読み加減だった点が先に気になっていたのだが……今考えると、親友のストーンに受賞してもらいたい気持ちから、一番のライバルだったグラッドストーンに対して、あのような態度になったのかもしれない。しかし、どんな理由があるにせよ「失礼」なことには変わらないのだ。

本件の真意は誰もわからない。しかし重要なのは、真意が伝わらない状況だからこそどんな言動が他者から見て「失礼」にあたりえるか、それを考えた行動を特にアカデミーのステージ上など公の場では常に意識して取らなければいけないということだろう。
(文=アナイス(ANAIS))

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