聞こえるのに聞き取れない 聞き取り困難の症状で周囲に理解されにくい悩みを抱える APD=聴覚情報処理障害

聞こえるけれど聞き取れない、聞き取り困難という症状によって周囲に理解されにくい悩みを抱えながら生活している人たちがいます。

仙台市に住む真壁詩織さん(26)が抱えているのは、APD=聴覚情報処理障害です。近年は、LiD=聞き取り困難症とも呼ばれています。
真壁詩織さん「換気扇とかエアコンとかずっとブーって鳴ってる音があって外から車とか飛行かの音があって、人の声があってみたいなのが全部同じ割合で入ってくるというか」

聞き取り困難症は、聴力検査を受けても聞こえ自体に異常はありません。音声を言葉として情報処理する過程で脳に何らかの不具合が生じ、聞き取りが困難になると考えられています。音は聞こえているのに、それを言葉として聞き取ることができない症状です。
東北大学耳鼻咽喉・頭頸部外科本藏陽平講師「診断基準というのが実はまだはっきりと決まっていないというのがこの疾患の難しいところ。症状を訴えている方の中でもその背景、脳の中で起きていることは人それぞれ違う」

聞き取りが困難な症状

放課後デイサービスの児童支援員をしている真壁さんは、静かな場所での会話は問題ありませんが、騒がしい環境では症状が出やすいと言います。真壁さんの職場は拡張工事中で、子どもたちの食育活動のための資料作りをしていると。
真壁詩織さん「もう駄目だ。私が何も分からない。ガサガサしてますね。自分でも自分が何言ってるか聞こえないみたいな。ドアも閉めたいな、閉めていいかな」

真壁さんが、自分の聞き取りに違和感を抱いたのは小学校低学年の頃でした。
真壁詩織さん「授業中とか帰りの会とかで先生が言ったこと、私だけ聞こえてないなみたいな。1人だけ忘れ物をしちゃうことがあって、何か耳が悪いのかなと思ってて」

耳鼻科に行って検査を受けても、異常は見つかりませんでした。周囲の理解を得られず苦しむこともありました。
真壁詩織さん「何回も聞き返しちゃって、もういいよって言われるのもすごくつらかったなとか、ちゃんと聞いてって言われるのがすごいつらかったかな」

真壁さんは自分と同じように悩みを抱える子どもたちを支える仕事がしたいと、宮城教育大学の聴覚・言語障害教育コースに進学しました。大学で聴覚障害について学ぶ中で、自分の聞き取り困難も何かの障害ではないかと考え、大学1年生の時にAPD=聴覚情報処理障害の疑いありと診断されました。

大学の支援室に相談して授業で使う資料を事前に印刷してもらったり、聞こえを補助する送受信機を使ったりして周囲の協力を得るようになりました。
真壁詩織さん「授業の先生にお願いしますって渡して先生に首からかけてもらって話をしてもらうと、私が受信機を耳につけていると声が届くっていうような機器になります」

真壁さんは、大学生の時に自分の症状を周囲に伝えるため説明書を作りました。
「聞きたい音声だけ聞こえるように雑音をカットして処理できない」「話者以外に注意が向いている時に音声は聞こえるが意味の理解はできない」
真壁詩織さん「これを読んでもらったり、これを一緒に見ながらお話しすることで分かってもらえるかな」

聞こえるけど聞き取れない悩みを抱え、検査を受ける人は近年増加傾向にあります。
宮城県で唯一、APD/LiDの検査を行う東北大学病院では年間40人から50人が聞き取りに困難を感じ耳鼻科を受診していて、約8割がAPDと診断されています。
東北大学耳鼻咽喉・頭頸部外科本藏陽平講師「就職して間もない方とか進学して間もない方とか生活環境が変わった時に、実際自分が聞き取りにくくて困っているということを自覚されて来る方が多いかなと思います」

検査は増加傾向

APD/LiDの専門家らによる調査では、国内の子どもの約1%に聞き取り困難症の症状があることが分かりました。
仙台市の野口雄平さんも真壁さんと同じくAPDと診断され悩みを抱える1人です。
野口雄平さん「バスの音、車の音でだいぶ左耳が消耗というか」
記者「私が今話しかけたら、聞き取りづらいですか」
野口雄平さん「今のバイクの音でちょっと流されました」

野口さんは以前、精神障害のある人たちの就労支援員として働いていた時、相談者の話がうまく聞き取れずトラブルになった経験があります。
野口雄平さん「仕事をやる上で相談を受けないといけないのに、相談の内容がよく分からないまま破綻してしまう。難しいことを知ってほしいわけではなくて、APDというのがあってそれで困っている人が実際にいるんだよという、少人数かもしれないけど知ってほしい」

当事者を悩ませる見た目では分からない聞き取り困難症は、周囲の理解とサポートが不可欠です。
東北大学耳鼻咽喉・頭頸部外科本藏陽平講師「周りの人たちのサポートや支援が大事なので、そういった方々に自分の状態、自分の特性をうまく伝えるようにしていただくのが重要だと思う」
真壁詩織さん「本人にとってはすごく大変なことで、周りの人からしたらそんなに支援は難しくないことと正しく理解されれば、みんな困らずに生きていけるんじゃないか」

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