タイアイドル界唯一の日本人は、ギャル精神で道を切り開く「まえのめり」インタビュー

グループ結成からわずか半年で日本武道館に立ったタイのアイドルグループ「いきなりテルミー」には、タイのライブアイドル界唯一の日本人メンバーがいます。

ハッピーでポジティブなギャルマインドで、自らの進む道を切り開いていくまえのめりさん。彼女の“前のめり”な日々に迫ってみました。

インタビューしていると思わず元気がもらえる、ステージでは前のめりな勢いとアツさに目が離せなくなる。ギャルマインドで世界を渡っていく姿が要注目のアイドルです。

取材・文:カレー当番

まえのめり「タイでアイドルはじめてみた!」

人気アイドルグループを多数有するFreeK-Laboratoryが2023年6月、タイに姉妹グループ・いきなりテルミー(IKINARI TELL ME)を結成。

2024年1月には初来日を果たし、日本武道館や日比谷野外音楽堂など日本でのステージに立つなど、新人グループとは思えない目覚ましい活躍を見せています。

そんなグループを熱く牽引しフロアを沸かせているのが、日本人アイドル・まえのめり(タイでの活動名:Meri)さん。

タイでは近年、日本式のライブアイドルが現地アイドルシーンで定着。年齢問わず人気を集めています。

──タイでの生活はいかがですか?

まえのめり 2023年の1月後半から移住して、あっという間に1年以上が経ちました。もう慣れたので、だいたいのことは1人でできちゃいますね。

──なぜタイに活動拠点を移そうと思ったんですか?

まえのめり 所属している日本の事務所が、タイで新しくアイドルグループを立ち上げるにあたって、オーディションをするという話がありました。

当時の私は、日本でアイドルとしての経験があったんですが、ちょうどグループに所属していなかったし、入りたいなと思うアイドルグループが日本になかったんです。

タイどころか東南アジアへ行ったこともなかったけど、漠然と「いつかは海外に移住したい」という夢があったので「これはチャンスかも!」って。海外で仕事ができる良い機会かなと思って、タイ行きを決めました。

──タイでのアイドル活動を発表した時、周囲の反応はいかがでしたか?

まえのめり よく「すごい行動力だね」と言われるんですが、自分にとっては普通なんです。やりたいことをやるのは当たり前っていうか「いや、普通じゃん?」みたいな(笑)。

家族は私が突拍子もないことをする子ってわかっていたから、驚きもせず「良いんじゃない?」「応援するよ!」って前向きでしたね。友人も私の自由さを知っているので「だろうね」って。

近しい人たちは、みんな私のアクティブさをわかってくれていました。

まえのめり ファンの方にも、発表前の段階で「タイで新しいアイドルグループが立ち上がるって、もしかしてめりちゃんが行くんじゃないの?」ってむしろ予想されていました。

以前にアイドル活動をしていた頃から、海外に興味があるという話をしていたので。やっぱりそういう気があるって思われていたのかな。

ギャルとしての葛藤を経て、アイドルの道へ

──そもそもなぜアイドルになろうと思ったんでしょうか?

まえのめり 音楽がすごく好きで、元々はバンドをやりたいと思っていたけど、なかなかうまくいかなかったんです。そんな学生時代にアイドルブームが起きて、私もアイドルが好きになりました。

自分もやってみようと、ダンス部を自ら創設したんです。周りの人たちを巻き込んで、学校の文化祭でステージに立ちました。ステージは大成功、当時の先生にすごく評価してもらえて、「自分から物事を始めてみるのは良いことなんだ」って学べたし、さらにアイドルに興味を持ちました。

今振り返ると、この時の成功体験が後のアイドルとしての活動に繋がっていたと思います。

──そんな成功体験を経て、本格的にアイドルを目指した経緯を教えてください。

まえのめり 学生時代に、次々と同級生が進学を決めていく中で、自分が何をやりたいのかわからなくなってしまって。内向的になった時期がありました。

元々見た目が派手で周りと違うように見られていたので、外見だけの印象で「変わった子」だと思われてしまって。自分の中で「もしかして普通じゃないことは良くないことなのかな。でも自分の好きなことをしたいし……」という葛藤もありました。

まえのめり そんな時、当時の先生に「自分のやりたいようにやればいいんだよ」「枠組みに囚われず好きなことを自由にやっていいんだよ」と前向きになる言葉をかけてもらえて。

その言葉が背中を押してくれたんです。今の自分が自由に表現できる進路を考えて「じゃあ芸能界で頑張ってみるか!」とアイドルを目指すことにしました。

──芸能界という進路に対して、親御さんはどのような反応でしたか?

まえのめり 元々はステレオタイプな考え方の親だったので、他の人と違うアイドルという道を心配していました。最初は「何故?」「大丈夫?」「本当にできるの?」って半信半疑で。

でも、前にいたアイドルグループに所属する際のオーディションで、親にもライブステージを観てもらう機会があったんですが、それを観てからは「この子はアイドルでやっていけるな」って安心してもらえたみたいで、応援してくれるようになりました。

日本でもタイでも、貫くギャルマインド

──日本でのアイドル経験を経て、次のステップとしてタイへ移住。現地でアイドル活動をする中で、日本との違いを感じたことはありますか?

まえのめり 文化が全く違いますね。タイでは、アイドルを職業として考えている人がまだ少ないのが現状です。

──以前にタイのアイドルにインタビューした時も、同じことを指摘していました。

まえのめり 日本は「アイドル一本でやっていこう!」って人生をかけている子が多いけど、タイでは文化的な違いもあって、私生活を優先するアイドルが多い印象です。

最初はそのギャップに苦労しました。その時に、そんな状況で周りが自分にどうやったら着いてきてくれるか? を考えました。

──現在所属しているグループ・いきなりテルミーのメンバーには、アイドル経験の無い人もいたと思いますが、どのようにグループをまとめ、アイドルとしての姿勢をレクチャーしたんでしょうか?

まえのめり 態度で示してきました。以前所属していたアイドルグループは超体育会系だったので、そのスタンスを曲げずに、自分だけでも頑張ろうって、ひたすらストロングスタイルを貫きました(笑)。

そしたら周りのメンバーも変わり始めて、「こういう時はもっと練習をしなきゃいけないんだ」とか、徐々にアイドル活動に対して熱心に取り組んでくれるようになりました。

いきなりテルミーのメンバーは、そんな姿勢の私についてきてくれて、ストイックに練習を重ねてきました。だから、ライブパフォーマンスはどのタイアイドルにも負けてないと思います!

──アイドルとしての姿勢を、言葉よりも自らの行動で見せてきたんですね。

まえのめり わからなくても、何語でもいいからとにかくひたすらしゃべって乗り切ったり、コミニュケーションをとって伝えようとしました。

移住し始めた頃はタイ語も挨拶くらいしか知らず、言葉の壁を感じました。限られた手段で話そうとしても、相手もニュアンスがなかなか汲み取れないし。

メンバーに伝えたいことも伝えられず、翻訳アプリを使ってみましたが、訳された言葉をよくよく調べてみると、かなり強い表現になってしまっていることも多くて。

芸能活動の経験が浅い子たちに、そういった言葉の行き違いでアイドル活動を嫌になってほしくないので、そこは気をつけていたし、伝えることが難しい面では言うのをやめるようになりました。

なのでダンスレッスンなどでは、言葉よりもまずは態度や姿勢を見せるところからスタートしました。

──コミュニケーション能力の高さが、言語以外にも活かされているんですね。共演したアイドルさんともすぐ友達になっていますし、どこでも誰とでもすぐに仲良くなれるような印象があります。

まえのめり タイに移住してからラオスへの一人旅の中で、バックパッカーのドイツ人女性と仲良くなりました。お互い共通してわかり合える言語が無い状態でしたが、一緒に観光して、今でも連絡は取り合っていて仲良しです。

どんな手段でも意思疎通はできるんだなって感じました。「私は知りたいです!」「こうしたいです!」って前のめりな精神で乗り切りました。そういうことが海外では大事だなって、日々の生活からも感じますね。

まえのめり タイでは日本のカルチャーを発信する「JAPAN EXPO」などの大きなイベントが度々あって、世界中からファンの方々が集まります。

インドネシア、マレーシア、香港、台湾、インド、オーストラリア......そんな様々な国の人たちに楽しんでもらうためには、自分から積極的にコミュニケーションをとろうとする努力が必要だって実感しました。

ちなみにドイツ人の友達にはアイドルって明かしていません。ライブを見たらびっくりするかも。

アイドルのセカンドキャリアへの試みも

── 一緒に活動しているいきなりテルミーのメンバーで、特に成長を感じたメンバーはいますか?

まえのめり 特に成長を感じたのはミニーちゃん。ダンス初心者で、初めの頃は振り付けもなかなか覚えられませんでした。それでもストイックに練習についてきてくれて休憩時間中も自主練したり、わからないところは積極的に質問したりする。

すごいなって思うのは、健康に気を使って筋トレを毎日頑張っているので、ダンスにパワフルさや迫力が出てくるようになりました。メンバーたちは皆、ライブを重ねるたびに成長しています!

タイのアイドルの文化的な違いも意識して、誰が休んでもフォーメーションがきれいに見えるように整えて練習しています。ファンに届けるからには、いつでも良いパフォーマンスをしたいので。そういった細かいフォローもできるグループになりました。

──いきなりテルミーには、他にどんな強みがありますか?

まえのめり メンバー仲がとにかく良いです。よくご飯も食べにいきます。今までのアイドル活動ではプライベートを切り分けて考えていたので、メンバーと仲良くするということはあまりなかったんですが、国籍関係無くこんなに仲良くなれるのはいいことだと思いました。

──日本では「Amakara!」というユニットも結成されて、日本とタイを往復するハードな生活を送っていますね。

まえのめり Amakara!は元々仲の良い子たちを集めて始まりました。それぞれアイドルとしてのキャリアから一旦離れた子たちなんです。

日本だと、毎日のようにスケジュールが詰まっているような活動スタイルのアイドルがほとんど。他のキャリアや実現させたいことがあると、アイドルの道を諦めるしかなくて、なかなかアイドルを続けることが難しいんです。

タイだと、ひと月に片手で数えられる回数のライブに出るだけとか、活動の少ないアイドルもいて。日本でもそういう新しい活動スタイルのアイドルがあってもいいんじゃないかなって思ったんです。

アイドルを諦めたくないという気持ちを持つメンバーと、日本でも時々活動したいという私の思いが合致してスタートしました。周りを巻き込んで協力を仰いで始めましたが、「この子は得意な歌を、この子はダンスを活かせればいいな」ってセルフプロデュースしています。

──アイドルのセカンドキャリアとしても面白い試みですね。衣装も女の子らしいスタイルを活かせるスタイリングですが、めりさんプロデュースなのでしょうか?

まえのめり はい。お互いの好みは知っている仲なので、プラトゥーナム(※)で「これはメンバーに合うな」って衣装を探しました。

※プラトゥーナム:バンコクにある衣料品市場。世界中からバイヤーが集まる流行の発信地であり、日本で販売される衣類も買い付けが行われている。

──2つのグループを兼任する中で、切り替えのようなものは意識しているのでしょうか?

まえのめり いきなりテルミーは、自分のキャリアの中で「アイドルとして売れるぞ!」という姿勢で考えています。でも、タイ人のメンバーが頻繁に日本のステージに立つことは、現実的に難しいです。

なので、Amakara!として私が日本でも活動して、絶え間なくファンと交流してステージに立つことが大切だと思っています。Amakara!は日本の友達との息抜きという側面もありますが。

タイのファンダムの雰囲気は数年前と日本と似ている

──どんな壁も乗り越えてきためりさんでもビックリするようなタイでのエピソードはありますか?

まえのめり 日々過ごして感じるのは、時間の概念が日本とまったく違いますね。30分のズレは当たり前。雨が降ると交通機関が麻痺(※)するので、デリバリーを頼んでも来ないこともあります。

※タイの交通渋滞は2016年の調査で世界第1位と言われている。

他にも、例えば日本でのライブは、MCも含めて秒刻みで細かく時間が管理されていますが、タイのライブやフェスは、気づいたら想定していたタイムテーブルからどんどんズレていく……なんてことも日常茶飯事です。

まえのめり でも、いつもみんな気にしていないんです。40分遅れてもお客さんも怒ったりしないしユルい! 自分もギャルなので、そういう面は大らかに見てられるんですが、それでもびっくりしました(笑)。

そういうタイ文化が、ギャルのポジティブで大雑把なノリと合っている気がします。移住してみて、タイの文化は前向きで何でもありで、自分に合っているなって。

──タイのアイドルファンの印象はいかがですか?

まえのめり タイのファンダムは、5〜6年前の日本のファンダムと雰囲気が似ていると思います。

今の日本だとファンの間で、最前管理(※)や推し被り敵視(※)、チェキの撮り方も、細かいルールが増えているじゃないですか。今のところタイではそういう謎ルールが無くて、ファン同士の仲が良い。わいわいアットホームな雰囲気です。

※最前管理:席指定のないライブ会場で1番前の列を陣取り、目当ての演者の出演時以外では不躾な態度をとるなど、様々なトラブルの元となり近年問題となっている。
※推し被り敵視:ファンが同じ対象を推すファンを嫌う傾向。

“前のめり”なアイドルの今後「グラビアにも力を」

──お話を聞いてみて、めりさんの前向きさや時には人を巻き込む行動力、その原動力がわかった気がします。「まえのめり」という名前もそういった姿勢からきているんでしょうか?

まえのめり 「まえのめり」は以前所属していたグループのオーディションで、審査の際に使われていた仮の名前なんです。元々オーディションでは合宿を経て最終審査に移るんですが、合宿は自由参加だったので参加しなかったんです。

ところが最終審査の蓋を開けてみたら、合宿に参加したみんなは振り付けもほとんど覚えているし、レッスンも進んでいるしで焦りました。「やばい! 私みんなより遅れている!」って(笑)。

当時はアイドル経験も浅く、まだパフォーマンスも得意じゃなかったので「どうしよう!」って。あまりにも焦りすぎて、その時のダンスレッスンではいつの間にかダンスの先生より前に立って踊っちゃってたんです。

そんな様子を見ていた事務所の社長がつけてくれたのがこの名前「まえのめり」です。受かったら他のメンバーは正式な芸名に変更していましたが、私は自分にぴったりだったのでそのまま使っています。

──そんなめりさんの今後の活動方針を教えてください。

まえのめり 今はグラビア方面にも力を入れていこうかと思っています。

タイは仏教国ということもあって、そこまで肌の露出に対して積極的ではありません。でも、AKB48の姉妹グループであるBNK48さんが、最近水着グラビアを解禁したんです。なので、他のアイドルさんたちも後を追っている感じですね。

元々日本でもキンマー(※)などの撮影会に出ていたし、タイにもいい波が来ているからグラビア方面でも知名度を上げていきたいなって。

※キンマー:近代麻雀水着祭。稼働しない時期のプールを貸し切って開催されるプール撮影会/水着撮影会のひとつ。グラビアアイドルやセクシー女優、アイドル、コスプレイヤーらが被写体として参加する。

まえのめり タイには綺麗なリゾートも多いので、様々なスポットで撮影することによって、日本にタイの魅力を発信できるんじゃないかなと思いました。

私のグラビアがきっかけでタイに来たり、タイを知ってもらえたりしたらといいなと思って、日本にいたら見れないような景色を、グラビアと共に発信しています。先日もパタヤで撮影した写真とメッセージをWeb上で限定販売しました。

──最後に、将来的な展望もうかがえますか?

まえのめり いずれは、自分と同じような立場の人の手助けになるようなことを始めようかなと考えています。

自分自身、10代の頃に漠然と悩んでいた時期があったので「何者かになりたい、でも何をしていいのかわからない」っていう子の気持ちがわかります。「海外移住してみたいな、でもどうしたらいいかわからない」って子もいると思います。

まえのめり 今のアイドル活動で知名度を上げて、まずは私を知ってもらって「自分でも活躍できる世界があるんだ」って姿を見せて、海外でもやりたいことはできると、たくさんの人に知ってもらいたいです。

私の経験からノウハウを伝えたいし、私のアイドル活動が色んな国や文化に触れるきっかけになってもらえたら嬉しいです。

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