「おかず、これだけ?」「あと一品なんだよな…」食ハラ夫の無神経な言葉に追い詰められる妻

家庭でのモラハラだけは許せない。夫婦間や親子間の力関係がものをいい、追い詰められやすい。毎日の食卓での些細で無神経な言葉も、ハラスメントになりがちだ。

職場にはいろいろな人がいる。Aさんが言ったら許せないセクハラになり、Bさんが言えばつい笑ってしまう。そんなこともあるだろう。逃げ道を探したり、他の仲間とともに糾弾したりすることも可能だ。 こんな時代になったことは、特に女性にとっては好意的に受け止められている。時代は移り変わっていく。 一方で、家庭におけるモラハラはもっと追いつめられやすい。夫婦における力関係、親子における力関係がものをいい、それはそのままハラスメントになりやすいからだ。

今でも許せない夫のモラハラ

「産休・育休時代の夫の言動を今も忘れられずにいます。この先どんなに夫が家族のために尽くしてくれても、私は心のどこかで許せないままだと思う」 ユミさん(42歳)はそう言う。結婚して12年経ち、長女は10歳、次女は7歳になった。その間、ユミさんは産休と育休をとりながら仕事を続けてきた。 「ふたり目が産まれたとき、上はまだ3歳。幼子と乳飲み子を抱えて、本当にひとりで大変だった。『地域ママ』さんに来てもらったこともあるけど、その人がまた上から目線で……。どうして他人にこんなに叱られないといけないのかと泣いたこともあります。 今思えば、彼女は先輩としてアドバイスをくれただけなんだけど、こっちの心が弱っているから何でも過敏に受け止めてしまうんですよね」 結局、助けてくれたのは近所のママだった。「大丈夫、大丈夫」と彼女に言ってもらったことで、少しずつ平常心を取り戻していった。夫はまるきり役に立たなかったという。

毒夫は私に言った「おかず、これだけ?」

「役に立たないだけならまだしも、夫はあのころ本当に毒夫でした。帰宅して食卓を見ると『おかず、これだけ?』とのたまう。冷凍食品をチンしてと頼んでも『オレがやるの?』と。上の子のめんどうだけでも見てくれればいいのに、子どもがまとわりつくと『オレだって疲れて帰ってきてるんだけど』と。 子どもが懐くのが嫌なのかと思えば、週末は機嫌よく一緒に遊んでいる。当時、彼は転職したばかりで大きなストレスを抱えていたんでしょうね。私もそれを思いやることはできなかった」 ただ、子どもは生きているのだ。仕事は明日まで待ってもできるが、子どもの食事は明日まで待てない。育児は常に待ったなしだということを夫も理解できなかったのだろう。 「ある日夫が『きみはだいたい要領が悪いんじゃないの? 育休だったら暇でしょ。どうして家事がきちんとできないわけ? 稼いでないなら家事くらいちゃんとやってよ』とうんざりしたように言ったんです。 私はショックで固まってしまい、無意識にボロボロ涙がこぼれてきて……。夫も焦ったようですが、謝ることもできなかったようで、自室にこもってしまいました」 それでも子どもたちを寝かしつけて、ひとりリビングでソファに沈み込みながら、ユミさんは真剣に離婚を考えた。ただ、どう考えてもこの状況で離婚したら、子どもたちと3人、路頭に迷うのはわかっている。だから「我慢」した。するしかなかった。

今なら言い返すこともできるけど

その翌朝、さすがに言い過ぎたと思ったのか、夫は「ごめん」と声をかけてきた。そのときユミさんは「何が?」と冷たくあしらった。そしてそれ以来、彼女は夫を心底から信頼はしていない。いつもどこか夫を冷ややかな目で見ている自分がいる。 「夫も転職先で自分の居場所を見つけたのか、本来の明るさが戻ってきました。次女が1歳になる前に保育園にも入れて、私も職場復帰して。夫は周りの人に言われたのか、そのころから子育てに協力的になりました。とはいえ、家事育児の8割は私だと思いますが」 文句を言われなければよしとしようと、夫との関係を考えるようになった。しっかり協力態勢を整えたいという希望もなくなった。夫がやると言ったこと、頼んでもできそうなことだけを頼んだ。 「それでいっぱしのイクメンパパみたいな顔をして、『近所の人に、いいパパだって褒められた』と自慢げに語る夫に、内心うんざりしながら、そうと笑顔を向ける私。 ときどき自分らしく生きてないし、夫の妙な圧に抑えつけられている感覚を抱きながらも、無難な道を歩んできたなと思います。そんな自分があまり好きではないけど、もとを考えれば夫のモラハラ、無神経な言葉から私の自尊心が奪われたんだろうと、最近、思っています」

食事に不満げな夫「あと一品なんだよな」

あのころほどひどいことは言わないが、それでも夫はいまだに食事に不満をもらすことが多い。 「栄養のバランスが悪いんじゃないかとか、あと一品なんだよなとか。だったら自分で作れよと思います。つい先日、つい『自分で作ってみたら?』と言ったら、『なにその反抗的態度』って。私は夫の娘じゃない。 反抗ってどういう意味なんだろうと考えてしまいました。夫は私が反抗できる立場じゃないと思っているわけですよね。やっぱり下に見てるのは明らかで、ずっとモヤモヤしています」 そのうち私が爆発するかもしれないけれど、爆発するなら娘たちが大人になってからにしようとは思っている。ユミさんは最後は冗談めかしてそう言ったが、それこそが本音なのではないだろうか。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。 (文:亀山 早苗(フリーライター))

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