舞台『千と千尋の神隠し』2024年公演開幕! 新キャスト・福地桃子が全身で千尋を表現

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3月11日(月)、東京・帝国劇場にて幕を開けた舞台『千と千尋の神隠し』2024年公演。クアトロキャストの千尋役をはじめ、新キャストとともにさらなる成長をとげようとする本公演のゲネプロレポートをお届けする。

舞台に広がるのは、青い空。左右を見れば、古びた鳥居や小さな祠。そこへ主人公・千尋が現れる。どこか不安そうな彼女の表情と、手にした花束が印象的だ。舞台『千と千尋の神隠し』は、そうして幕を開ける――。

日本はもとより世界各地で高い人気を誇る、宮崎駿監督作品『千と千尋の神隠し』(2001年)。ジョン・ケアードの翻案・演出による舞台版初演(2022年)も大きな反響を呼んだことは、記憶に新しい。上白石萌音・橋本環奈のダブルキャストによる主人公・千尋をはじめ、キャスト陣も高い評価を得た。

千尋=上白石萌音
千尋=橋本環奈

そして2024年公演は、帝国劇場に続いて名古屋・福岡・大阪・札幌、さらにはロンドン公演も行われる。千尋役は上白石・橋本に川栄李奈・福地桃子が加わり、クアトロキャストに。ハク役も初演の醍醐虎太朗・三浦宏規に加えて増子敦貴が抜擢された。本公演初日の前日である3月10日に行われた公開ゲネプロから、帝国劇場デビューとなる福地千尋・増子ハクを中心にレポートしたい。

千尋=福地桃子

映画同様、千尋と両親が車で転居先に向かう場面から物語は始まる。神々の世界に迷い込み、両親が勝手に神々のための食物を食べて豚になってしまうまで、恐る恐るついて行く千尋の姿が印象的だ。必死に「戻ろうよ」と訴える福地の千尋は全身で、震える声で、不安を伝えてくる。その姿は、映画を観ている観客であれば「千尋がそこにいる!」と嬉しく思うに違いない。未見の観客にも、「この子は怖がりなんだな」と彼女の性質が自然に伝わったはず。福地の千尋はアニメ的な表情の豊かさを見せるというよりも、ぶっきらぼうな表情が印象的。だが細やかな声色や体の動き全体で千尋の心を表現しているかのようで、いたいけで愛くるしい千尋がそこにいる。

そして千尋の前に現れ、神々が集う「油屋」で働けるように計らうなど何かと彼女を助けるハク。増子のハクは一見して「端正」という印象を受けた。それは彼の容姿や硬質な響きをもつ声質からくるものだが、それが終盤で明かされる彼の正体にも絶妙にはまり、キラリと光る存在感につながっているのではないだろうか。千尋への思いやりや周囲への警戒心といった彼の心情がにじむと透明な光が淡い色合いを帯び、自然と惹きつけられる。公演を重ねるごとにさらに濃く、深みを増していく予感がする、魅力的なハクの誕生だ。

ハク=増子敦貴
ハク=増子敦貴

初出演組も既に安定感すらある活躍ぶり

この日ゲネプロに登場したプリンシパルキャストは、カオナシ・中川賢、リン/千尋の母・実咲凛音、釜爺・宮崎吐夢、湯婆婆/銭婆・羽野晶紀、青蛙・元木聖也、頭・奥山ばらば、坊・坂口杏奈と、初出演組がずらり。それぞれに自身の役どころをしっかり務めているように見受けられ、すでに安定感すら覚えるほど。その中でも、個人的には実咲凛音のリン、羽野晶紀の湯婆婆/銭婆、そして元木聖也の青蛙が特に印象的だった。

リン=実咲凛音

リンは油屋で働き始めた千尋の面倒を見る姉御肌なキャラクター。さばさばとした口跡の良さをはじめ、実咲は小気味よく演じている。一日の務めを終えた後に従業員部屋から出て夜空の下で千と共に握り飯を食べ、そのまま横たわる場面での風情も心にしみる。

羽野の湯婆婆/銭婆は、どすの効いた声から慈愛を感じさせる温かみのある声まで多彩な声色で緩急を利かせる。作中屈指のクセの強いキャラクターを、映画そのままの顔立ちに見せるメイクで演じ切っている。ちょっとした動きからも劇団★新感線で鍛え抜かれた芸達者ぶりが感じられ、「さすが」の一言。

湯婆婆/銭婆=羽野晶紀

動きで言うなら、元木聖也も帝劇では既に『キングダム』でパルクール巧者の身体能力を見せつける殺陣を披露していた。今回は蛙のパペットを操りつつ蛙飛びで移動するなど、身体能力はさりげなく発揮。前面に出るのは、コミカルでありながらも砂金に目がくらんでカオナシに飲み込まれてしまう、がめついキャラクターだ。飲み込まれた後のカオナシとしての声の芝居も、巧みにこなしている。

カオナシ=中川賢

こうしたキャストの好演と、印象的なセリフなど映画のエッセンスを網羅しつつ舞台上での展開として非常にスムーズにアレンジした脚本、そして回り舞台が存在感を放つ舞台美術や、照明、音楽、小道具・大道具。さらにアンサンブルキャスト(「湯屋組」「油屋組」の2班体制)の芝居と舞台転換が巧みに一体化したステージングが加わり、『千と千尋の神隠し』の世界観が見事に “ライブ”として現出している。特に映画でも印象的な千尋とカオナシが電車に乗る場面は、照明の演出効果も相まってこの上なく美しい。

千尋=上白石萌音
千尋=橋本環奈

油屋での日々を通して、千尋は大きな成長をとげる。福地千尋も、増子ハクも、飛躍的な成長をとげるだろう。川栄千尋も鮮やかなデビューを飾り、先輩千尋の上白石・橋本、先輩ハクの醍醐・三浦も深化し続けるだろう。彼らのその姿を観るために、油屋を訪れる客になったような心持ちで何度も劇場を訪れたくなる。とてもとても、幸せな舞台だ。

帝国劇場での公演は3月30日(土)まで。その後、全国公演、ロンドン公演あり。

取材・文:金井まゆみ

<公演情報>
舞台『千と千尋の神隠し』

原作:宮﨑駿
演出・翻案:ジョン・ケアード
共同翻案:今井麻緒子

出演:
千尋:橋本環奈 / 上白石萌音 / 川栄李奈/ 福地桃子
ハク:醍醐虎汰朗 / 三浦宏規(帝劇公演を除く)/ 増子敦貴(GENIC)
カオナシ:森山開次 / 小㞍健太 / 山野光 / 中川賢
リン/千尋の母:妃海風 / 華優希 / 実咲凜音
釜爺:田口トモロヲ / 橋本さとし(帝劇公演を除く)/ 宮崎吐夢
湯婆婆/銭婆:夏木マリ / 朴璐美 / 羽野晶紀 / 春風ひとみ
兄役/千尋の父:大澄賢也 / 堀部圭亮
父役:吉村直 / 伊藤俊彦
青蛙:おばたのお兄さん / 元木聖也
頭:五十嵐結也 / 奥山ばらば
坊:武者真由 / 坂口杏奈

東京公演:2024年3月11日(月)~3月30日(土) 帝国劇場
ロンドン公演:2024年4月30日(火)~8月24日(土) ロンドン・コロシアム
名古屋公演:2024年4月7日(日)~4月20日(土) 愛知・御園座
福岡公演:2024年4月27日(土)~5月19日(日) 博多座
大阪公演:2024年5月27日(月)~6月6日(木) 梅田芸術劇場メインホール
北海道公演:2024年6月15日(土)~6月20日(木) 札幌文化芸術劇場 hitaru

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/spirited-away/

日本公演公式サイト:
https://www.tohostage.com/spirited_away/

海外公演公式サイト:
https://www.spiritedawayuk.com/

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