[社説]石垣住民投票訴訟 自治後退させる判決だ

 石垣島への自衛隊配備計画を巡り、住民投票の実施を求めていた市民たちの声が、またも司法に退けられた。石垣市の自治基本条例にのっとり署名を集めても、市長が住民投票を実施しないのは権利侵害だとして、3人の市民が投票できる地位の確認を求めていた訴訟で、福岡高裁那覇支部は12日、市民側の控訴を棄却した。

 昨年5月の一審那覇地裁判決は、市民が提訴した後の2021年6月、石垣市議会が自治基本条例から住民投票に関する条文を削除したことから「存在し得ない法律上の地位確認で不適法」として却下していた。

 高裁は市民側の訴えの利益については認める一方で、市長が提出した住民投票の実施条例案を市議会が否決していることから、住民投票が行われなかったことは必然だと導いた。

 自治基本条例が要件としていた「有権者の4分の1」をはるかに上回る1万4263筆の署名が集まっても、なお議会の判断が前提になるという判決は納得できるものではない。

 市民側の主張の根拠は、署名が提出されれば市長は「住民投票を実施しなければならない」と明記された自治基本条例の条文だ。議会の判断が必要とは記されていない。

 ところが判決は、署名が提出されてから住民投票を実施するまでの手順が不明確だと指摘。地方自治体の基本は間接民主制だとして、住民投票の可否を決めるのは議会だと結論づけた。

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 看過できないのは、住民投票制度を間接民主制の「例外」と言い切っている点だ。選挙に当選した代表者だけが議会で決める政治には限界もあるとして、住民投票制度は議会制民主主義を補完する役割を担っている。住民の利害に関する重大な決定にさえ、住民が直接的に意思を表明できる機会が奪われることがあってはならない。

 また高裁判決は、署名の提出から住民投票実施までの手順があいまいだとした判断理由の説明で、条例の制定に関わった市職員や審議会委員、市議会議員らの陳述書や意見書に言及。

 条例は、住民投票の実施を義務付ける趣旨で策定したとする訴えに「思惑はともかく、条例の規定からは立法意思を読み取ることができない」と、あえてハードルを高く設定している様子がうかがえて、結論ありきとの印象も拭えない。

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 声を上げても、理不尽な論理で封殺されてしまえば、無力感しか残らない。

 「有事」を想定し、自衛隊の配備を歓迎する声がある一方で、過剰な防衛体制の強化には抵抗が根強い。軍備を整えれば整えるほど、攻撃の対象になるのではないかと懸念する声もある。

 自衛隊配備を巡って南西諸島が揺れている。立場や考え方が違っても、互いの意見に耳を傾け、進む道を探っていく必要がある。

 市民側は上告する。裁判所には、民主主義の一翼を担っているという気概を求めたい。

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