【主張】前年実績踏まえ賃上げを

現在の物価上昇局面に入って、3度目の春を迎える。消費者物価指数(総合)の前年同月比は2022年4月に2%を超え、最新結果でも未だ2%台の伸びを示す。政府による価格転嫁の後押しもあり、昨年以上に“物価上昇を上回る賃上げ”の成否に注目が集まるなか、連合の集計(3月4日現在)では平均要求額が1万7000円を超えた(本号5面参照)。率では30年ぶりに5%を上回っている。

社会的な機運を受け、企業が自ら賃上げをアピールするケースも例年になくめだっている。物価上昇や連合の総額5%以上とする方針を踏まえ、各種メディアにはこれらを超える数字が毎日のように飛び交う。ただし、なかには首を傾げたくなるようなアピールがあるのも否めない。

たとえば平均8%の賃上げを決めたと明らかにしたある外食チェーンは、実際には3%の処遇改善しか行わない。8%のうち2%は定期昇給分であり、残り6%がベースアップとしているものの、そこには手当の吸収分を含む。これまで一律定額を支給してきたインフレ手当(平均3%相当)を廃止して基本給に組み込み、それとは別に平均3%のベースアップを行う。従業員にとっては今春、月給は平均5%(うち定昇分2%)しかアップしない。

時限的に支給するインフレ手当は、確かにベースアップとは言えない。ただし、実質的には2年連続で3%の処遇改善をするのだから、物価上昇分は昨年からきっちりとカバーしていることになる。もし同社に労働組合があれば、「初めてのベア」「8%の賃上げ」といったアピールも変わってきたに違いない。

2%を超える物価上昇局面が二回りすれば、賃金もそれだけ目減りする。21年平均で99.8だった消費者物価指数は、22年平均で102.3、23年平均で105.6と高まり、過去2年で約6%上昇した。従来2年サイクルの要求をしてきた基幹労連の鉄鋼部門では、大手3社の労組が3万円のベアを要求するなどしている。自社の賃上げを考えるに当たっては、前年実績を踏まえ、世間の動向をきっちりと見極めたい。

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