芸風は真逆も…テツandトモ、切磋琢磨した「ラーメンズ」今も続く“戦友関係”

テツandトモ 撮影/向後真孝

赤と青のジャージ、ギター片手に「なんでだろう♪」で一世を風靡したテツandトモ。2003年の大ブレイクからしばらく後、テレビ出演の機会が減って「消えた一発屋」と呼ばれるも、実は全国各地で年間約200本のイベントに出演する「隠れ売れっ子」として現在も活躍していることは、つとに知られている。結成から25年を超えた彼らの「THE CHANGE」とは――。【第3回/全5回】

1990年代末期、若手芸人がテレビでネタを披露する機会はごく限られていた。それゆえ1999年3月に始まった『爆笑オンエアバトル』(NHK)は貴重なチャンスであり、コンビ結成2年目のテツandトモもここに全精力を注いだ。

第2回放送で初出場初オンエアを勝ち取って以降、8月に開催された第1回チャンピオン大会までの4カ月に3度挑戦(すべてオンエア)。これは周囲と比べてかなりのハイペースだったという。

テツ「“ここは頑張らないと”って気持ちの現われでしょうね。とにかく『なんでだろう』を世の中に知ってほしい、それだけが信念でした」
トモ「全国の方に知っていただける絶好の機会でしたから。チャンピオン大会出場を目標にひたすらネタをつくってましたね。『オンバト』がなければ多分こんなにつくらなかったんじゃないかな」

ネタをつくっては稽古し、合間にアルバイトに行く毎日を送る。ただ、その稽古はいわゆるネタ合わせとは少し違っていた。

トモ「カラオケボックスで電気を消して真っ暗にして、僕が“さぁ、続いては!”ってアナウンサーさんの真似をするんですよ。出囃子の音を真似しながら“テツandトモ~~!”って呼び込んで、廊下から“どうも~~!”って入ってくる」
テツ「お互い舞台人だから、そういう稽古の仕方になるんですよね。でもこれが大事でした」
トモ「本番と同じような緊張感を持って稽古をしたかったんです。それと、“俺たちはここまでやったんだから大丈夫だ”って自信にもつなげたかった。自分たちの実力を出して負けるならいいけど失敗して負けるのは嫌でしたね」

年下のライバルたちに「絶対に負けたくない」

二人にとって『オンバト』の現場はある種のアウェイだった。日頃から交流を持って切磋琢磨しあっている他事務所の芸人たちの輪には入れず、個人的に親しくなるようなこともなかったという。

テツ「年齢も離れてましたからね」
トモ「デビューが27歳だったんで、先輩がみんな年下なんですよ。それに、みんなライバルだったから。ニコニコはしてましたけど“ぜっっったい負けたくない”って気持ちはありました」

「絶対」の言葉に力を込める。当時から目指していたのは「子どもからお年寄りまで、たくさんの方に笑っていただける芸をする」こと。若手芸人は各々が「自分がいちばん面白い」と信じてそれを証明すべく競い合うのが常だ。『オンバト』に集まっていた面々もそうだっただろう。

「俺、自分が面白いと思ったこと、一回もないですよ」というテツさんのようなタイプは稀だっただろうし、「幅広い層に笑ってほしい」と考えている芸人も少なかったはずだ。そんな真逆のスタンスでありながら、負けたくない気持ちは人一倍強かった。

トモ「ネタをやる前から“この人たちは受かるだろうな”って人がいるわけですよ。“やばい、今日はアンタッチャブルさんが一緒か”“オーバードライブさんと一緒か……”」
テツ「“ツインカムさんの後の出番、嫌だな”“ますだおかださんいるんだ、じゃあもう一枠は潰れたな”とかね。懐かしいねぇ」

そこで「そうだ、思い出した」とトモさんが記憶の扉の蓋を開ける。

トモ「ラーメンズさんとは一緒にライブもやって、仲良かったですね。99年にインディーズで『なんでだろう』のCDを出したときに小林(賢太郎)さんにジャケットを描いてもらったんです」
テツ「そうだそうだ。合同でネタやったり、ラーメンズさんのライブを見に行ったりもしてましたね」

まるで正反対の芸風の二組が若き日に交流を持っていた事実は、今や意外に感じる人もいるかもしれない。しかもそのつながりは現在も続いているのだ。

トモ「実はこの間、神奈川で営業をしていたときに小林さんから“今見てるよ”ってメールが来たんですよ。びっくりして“何やってんの! 会いたいんだけど!”って連絡して楽屋に来てもらって、“久しぶり~~!”“今度メシ行きましょう”なんて盛り上がりました。うれしかったですね」

テツandトモ
●中本哲也(なかもと・てつや)
1970年5月9日生まれ。滋賀県出身。
●石澤智幸(いしざわ・ともゆき)
1970年5月10日生まれ。山形県出身。
日本大学藝術学部演劇学科の同級生同士で1998年に結成。1999年の放送開始と同時に『爆笑オンエアバトル』(NHK)に出演し、常連に。『M-1グランプリ』2002年ファイナリスト。2003年に『テツandトモのなんでだろう~両さんバージョン~』などをきっかけにブレイク。現在もお笑いと歌で全国各地のイベント等に出演を重ねる。レギュラー番組に『テツandトモのなんでだラジオ!』(山形放送)がある。

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