「ここはゆっくり過ごすところ」患者の生きる希望をつなげる ALS患者がつくった“居場所”【現場から、】

静岡県富士宮市に住む女性は、全身の筋肉が徐々に痩せ、力がなくなっていく難病「ALS」と闘いながら、自らグループホームを立ち上げました。コロナ禍を乗り越え、軌道にのってきた施設は、患者と家族の生きる希望をつないでいます。

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「これから新規入居者のカンファレンスを始めたいと思います」

<看護師>
「今度入る方なんですけど、麻痺も進んでいて、ポータブルトイレでの移動は無理だということなので、ほぼ寝たきりの状態だそうです」

富士宮市にあるグループホーム「ケアサポート志保」。立ち上げたのは、清しお子さんです。清さんは、全身の筋肉が徐々に痩せていき、力がなくなっていく難病・ALS・筋萎縮性側索硬化症の患者です。全国に1万人の患者がいますが、原因は不明で、根本的な治療法はまだみつかっていません。

清さんは、病気になったことで、医療的ケアが必要な人や難病患者を受け入れてくれる施設がほとんどないことを知り、「ないなら作ろう」と、自らこのグループホームを立ち上げました。

<清しお子さん>
「これが成功すれば、必ず誰かがどこかで同じような施設を作ってくれる。それが私の一番の願い」

立ち上げから、まもなく3年。入居者も徐々に増え、7床中、5床が埋まろうとしています。

<スタッフ>
「私、体持ちます、頭をお願いします。いちにのさんっ!」

沼津市から来た、一杉京さん(40)。正常な筋肉が作られなくなり、筋力が低下していく難病・筋ジストロフィーの患者です。知的障害がありますが、入居する4か月前までは話すことも歩くことも、できていたといいます。

<京さんの母>
「リハビリもしたんですけど、今度は食事が喉を通らなくなっちゃって、最終的にこんな体になっちゃった」

気管切開によって声を失った我が子に、両親は現実を受け止め切れずにいました。

<京さんの両親>
母)「ちょっと衝撃…」
父)「これが現実なんだよ」
母)「喉を切ったあとに集中治療室から一般病棟に移るときに、私たちはなんてことをしちゃったんだろうと一瞬思いました」
父)「でも、命をつなぐにはそれしかない。娘には一番この施設が合っているんじゃないかと思った」

<清しお子さん>
「みやちゃんがここに来るって聞いたときから、しおばぁは楽しみにしていたの」

<京さんの父>
「オーナーさんが同じ病気で、娘をすごく理解していると思うので、決め手の1つでもありました」

<スタッフ>
「何でここに来たのかなって思った?病院はいろいろ治すところだけど、ここはゆっくり過ごすところなの。だからここでみやちゃんがゆっくり過ごせるようにお引越ししてきた」

口の動きだけで患者の訴えを理解することは難しいものの、スタッフは諦めずに患者の意思を読み取ろうとします。

京さんは、車いすに乗れるよう、週2回のリハビリに励んでいます。

<京さんの母>
「痛い痛い痛い…頑張って。ちょっとは痛いよ京。少し我慢しなきゃ」

病院にいた際は叶わなかった友人たちとの再会も実現できました。

<京さんの母>
「こういう施設がたくさん増えて、娘はあと何年生きられるかわからないけど、そのあとの残りの人生を明るく楽しく生きていけることができれば」

患者と家族の生きる希望をつなぐグループホームです。

<清しお子さん>
「何とか私が頑張って少しでもそういう人たちのお役に立てれば、ここを開いた甲斐があるということよね」

<植田麻瑚記者>
京さんの両親はいくつか施設を見学したそうですが、断られてしまったところもあったそうです。ただ、清さんのもとには同じような施設をつくりたいと相談や見学に訪れる事業者も出てきています。

支援の輪が広がり、患者と家族が安心して生きられる世の中になることを願います。

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