働く女性、美容に目覚める中年男性ーー令和の「美容漫画」 メイクが塗り変える“自己表現”

時代とともに価値観が変遷していくものとして挙げられる中に「美容意識」がある。美容の在り方は何十年もの間、その様相が変わってきた。現代では、性別を問わず幅広い年齢層がメイクに関心を寄せている。

先日SNSで「メイク」と「カードゲーム」は複雑性や構造が似通っている、とのポストを見て、目から鱗が落ちた。それだけ、今の時代で捉えられている「美容」とは一概にただ単純にメイクをするという行為だけに収まらず、自分らしさを表現するためのツールとして、何層ものレイヤーを重ねて出来上がる繊細な技術として解釈されているのだ、という思いに至った。

このポストへの反応として興味深かったのが、「カードゲーム」は趣味だけれど、「メイク」は女性にとって時に義務になりうる、それに違和感を覚える、というものだ。元よりメイクとは女性におけるコミュニケーション上でのマナー、TPOに合わせた装いのひとつとして機能しており、今でもその価値観は引き継がれている。一方で最近では、特に若年層から中年にかけて、男性にも美容への意識が高まりからメイクへの興味を持つ人も増えているようだ。

ルッキズム(外見至上主義)やエチケット、外見的コンプレックスと繋がりのあるメイク。今の時代に読まれるマンガはどのように現象を描いているのだろうか。

働く女性がより自分らしく在るために『だから私はメイクする』

「美」と「仕事」を両立させたいキャリアウーマンがBAの元にやってくるChapter4では、「生活スタイルに合わせて化粧品を選ぶ」ことにフォーカスが当たる。

「自分だけのビューティースタンダード確立のために
罪悪感なくお金を使ったっていい」(Chapter4より引用)

働く女性たちが自分を奮い立たせるためにするもの、それがメイク――より自分らしく在るために、ボーダーを引かないために、いつまでも上を向いていられるためのものとして、社会規範に囚われずのびのびと生きる彼女たちは、きっと新しい時代を闊歩する令和版ニュー・ウーマンなのだろう。

中年男性が美容に挑戦すること『僕はメイクしてみることにした』

本作の魅力はいくつかあるが、そのひとつにVOCEでの連載「メンズメイク入門」を執筆する鎌塚 亮氏が監修しており、ゆえにハウツーとしての情報が豊富なところにある。実際に本作を読んでメンズメイクをしてみたいと思う人の指南書になりうるのと同時に、メイクをすること=セルフケア(自分自身を労り、大切にすること)と説いているところが、現代を忙しなく生きる人々の心に優しく浸透していくのではないかと思う。

前田がメイクの師と慕う女性・タマのポッドキャストで、彼は言う。

「まずは今夜、いつもよりちょっと丁寧に顔を洗ってみるのはどうでしょうか」(第10話より引用)

世間からの評価や偏見に触れながらも、純粋にメイクを楽しみ、「どうしてメイクをするのか」という本質を知っていく前田の姿は、きっと自分に自信が持てない読者を後押ししてくれることだろう。

メイクは「自分を愛するための手段」として描かれる

ふたつのマンガに通じるのは、メイクすることを「自己を愛するための方法」として描いていることだ。世の中がダイバーシティへと遷り変わろうとしている中、メイクで得られるものはより広義的でボーダーレスかつジェンダーレスなものになっていくべきだと思う。

既存の価値観に囚われず、自由な自己表現の一環としてメイクを解釈するこれらの作品は、真に今の時代に必要であり、評価されるべきなのではないだろうか。

明日を生きるため、自分を愛する。そんな風に考えてメイクができたら、きっと何倍も世界が美しく見えてくる。大事なのは世間にどう見られるかではなく、自分が楽しく生きられるかどうか。アイシャドウやマスカラを塗った時の感動、今日、もしかしたら人一倍頑張れるかもと思える力。無敵になれるメソッドが、メイクには備わっているのだ。

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