【組織変革】なぜ「戦略」は実行されないのか?「変われる企業、変われない企業」の“実は初歩的”な差

(※写真はイメージです/PIXTA)

企業変革の必要性は高まっているが、既存のアプローチでは実現が難しい。だからこそ、第三のアプローチとして「戦略的組織開発」が必要である――。240社・15,000人以上の成長支援を行った筆者らは、このように指摘します。たとえば、ビジネスの現場では「戦略が先」という考え方が一般的ですが、現実では、コンサルなどが考えた戦略を実行できる現場は少数です。なぜ“従来のやり方”では組織は変われないのか? 西田徹氏・山碕学氏による共著『組織が変われない3つの理由』(松村憲氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、解説します。

戦略が先か、組織が先か

「組織が変われない3つの理由」を見ていく前に、重要な回り道をさせてください。

それは、経営学における古典的なテーマ「戦略が先か、組織が先か」についてです。

1969年に、経営学の名著『組織は戦略に従う』(ダイヤモンド社)が出版されました。この本の影響によって、ビジネスの現場においては、「まず戦略を構築して、それに適合するように組織をつくればいい」という考え方が広まっていきました。

しかし、実はこの書籍のタイトル、チャンドラーが実際に言ったこととは、ニュアンスが異なるのです。厳密に言うと、チャンドラーは次のように言ったとされています。

「Structure follows Strategy」(組織構造は戦略に従うべき)

先の『組織は戦略に従う』は、彼が「組織構造」について限定的に述べているだけであり、組織を構成する人員や組織文化などについてはこの本の議論の外なのです。このことは、一般にはあまり理解されていません。

組織を「構造」に限定せずに、「文化」も含めて考えるとどうなるでしょうか。

経営学の偉人、ドラッカーは次のように述べています。

「culture eats strategy for breakfast」(組織文化は戦略を朝飯のように食べてしまう)

ドラッカーの言葉は、「企業文化は戦略に勝るほど 重要だ」と理解できそうです。いかがでしょうか。安直に「戦略が先」と言えなくなってきました。

「戦略的組織開発」における「戦略」と「組織」

「戦略的組織開発」では、次のように考えます(図表1)。

[図表1]戦略的組織開発における「戦略」と「組織」 出所:西田徹(著)、山碕学(著)、松村憲(監修)『組織が変われない3つの理由』(日本能率協会マネジメントセンター)

まず、外部環境が変化し、企業は何らかの変革に迫られます(図表1①)。ここまでは誰もが合意しますが、ここで2つの異なるアプローチがあり得ます。戦略コンサルタントのアプローチ(図表1②)と戦略的組織開発のアプローチ(図表1③)です。

これらのうち、一般的なものは、戦略コンサルタントがとるアプローチです(図表1②)。つまり、変化した外部環境に適合する新しい戦略を外部のコンサルタントや経営企画部が作成する方法です。そして、この戦略に合うように、組織を変え、戦略を実行していくことで、業績を回復・向上させていこうと考えるのです。

とはいえ、この方法が奏功するのは難しいことは、本書『組織が変われない3つの理由』の序章でも述べた通りです。

著者の一人である西田が、ボストンコンサルティンググループに勤務していた際、パートナー(日本企業の役員に相当)の一人にこんな質問をしたことがあります。

「私たちが提言した戦略は、実際にどの程度実行されているのでしょうか?」

返ってきたのは、次の言葉です。

「はっきりとは言えないが、だいたい3割程度だと思うよ」

驚愕した私は、実行率がそこまで低い理由を尋ねました。

「仕方がないのだよ。彼ら(顧客企業)には、我々が提言した一級品の戦略を実行するようなケイパビリティ(企業の能力)がないからね」

戦略が実行されない理由は、本当に「ケイパビリティの欠如」?

なぜ、ここまで戦略が実行されないのでしょうか。

「戦略が実行されない理由」について、私たちは、ケイパビリティ(企業の能力)の欠如は必ずしも原因ではないと考えます。それ以上に、外部から与えられた戦略に対して、従業員の内発的動機がわかないことが原因ではないでしょうか。その様子が、戦略コンサルタントの視点からは「やる気がない」「能力がない」と見えてしまっているだけなのでしょう。

しかし、ほとんどの組織において、従業員は、本来はやる気と能力に溢れています。そうした本来持っているやる気や能力を引き出せていない「やり方」に問題があると考えるほうが、自然なのです。

組織には「変わりやすい部分」と「変わりづらい部分」がある

先に述べたチャンドラーの例によると、「組織構造」は、戦略に応じて変えやすいものだと言えます。それは、マッキンゼーの7S(図表2)でいうと「ハードS」と呼ばれるものたち(組織構造とシステム)です。

[図表2]マッキンゼーの7S 出所:西田徹(著)、山碕学(著)、松村憲(監修)『組織が変われない3つの理由』(日本能率協会マネジメントセンター)

一方、組織には「ソフトS」と呼ばれる、共通の価値観(組織文化)、スキル、スタイル、スタッフなどがあります。これらは、容易に変更できないものです。組織の「ソフトS」は、戦略に合わせて即座に変わることなどできませんし、今あるものが必ずしも新しい戦略とマッチするとは限らないのです。このように「ソフトS」と「戦略」の整合性がとれていない状況では、戦略が実行されることはないでしょう。

つまり、これまでは「正しい」とされてきた「戦略コンサルタント」のとるアプローチ(図表1②)がうまくいく確率は、低いのです。

[図表1]戦略的組織開発における「戦略」と「組織」(再掲) 出所:西田徹(著)、山碕学(著)、松村憲(監修)『組織が変われない3つの理由』(日本能率協会マネジメントセンター)

戦略は60点でいい ~戦略的組織開発のアプローチ~

では、戦略的組織開発のアプローチ(図表1③)はどのようなものでしょうか。

戦略的組織開発も、外部環境の変化を受けてスタートします。戦略的組織開発に従事する担当者(以下、戦略的組織開発担当者をこのように呼びます *外部コンサルタントが担うこともあれば、社内の担当者が担うこともあります)は、一般的に、経営トップが抱く環境変化に対する危機感を、多くのメンバーにも感じてもらえるような働きかけをしていきます。

また、外部環境の変化をどう捉えるかに関して、異なる考え方を持つ集団間(例:部署間や階層間など)の、健全な対立を促進します。このような働きかけを通じて「私たちが立ち上がらなければ!」と熱を帯びたメンバーたちが、自分たちでつくった戦略を実行し始めます。

社内のメンバーがつくりあげた戦略は100点満点中60点程度かもしれません。

しかし、戦略を実行に移せば、良い点と悪い点が明確になります。ラーニング・バイ・ドゥーイングで体験を通じて知恵を深め、戦略の精度を高めていく─―こうした試行錯誤を通じて、最終的には、変化した外部環境に適合した「戦略」と「組織」の両方が得られるのです。

これが、戦略的組織開発担当者がとるアプローチです。

では、こうしたアプローチをとるために何が必要なのか。次回記事より、戦略的組織開発を検討するうえで欠かせない「組織を見る3つの視点」─―「組織が変われない3つの理由」を見ていきましょう。

【著者】西田 徹

バランスト・グロース・コンサルティング株式会社 取締役

【著者】山碕 学

バランスト・グロース・コンサルティング株式会社 取締役

【監修】松村 憲

バランスト・グロース・コンサルティング株式会社 取締役

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