【田村市の人材育成】近隣にも事業広げて(3月14日)

 地域経済活性化のけん引役を養成する「田村市産業人材育成塾」は第8期が終了し、これまで58人が創業を目指して巣立った。急激な人口減少により、地方では現在の社会モデルが立ち行かなくなると指摘される中、古里の魅力を発信し、暮らしの利便性を高めようとする機運醸成につながっている。培った貴重なノウハウを生かし、周辺自治体を巻き込んだ事業に発展するよう期待したい。

 育成塾は2016(平成28)年度、東京電力福島第1原発事故からの産業再生を目指す復興庁の事業に田村市が主体となって協力する形で始まった。開始当初は市内を中心に川内、三春、小野など近隣町村からも参加を受け入れ、男性41人、女性17人を送り出した。現在は市が事業主体だが、取り組みを継続している背景には、働き盛りの世代が市外に流出している現状への危機感がある。市の生産年齢人口は今後20年間で4割超減少すると試算されている。地域の産業界のリーダーを早急に育てる取り組みは不可欠だ。

 講義は、コンサルティング会社の専門家が受講者に個別指導するのが大きな特徴と言える。半年間に計9回の日程で、事業構想の立て方、経営戦略、マーケティングの方法などを無料で教える。かつて在籍した受講者から助言を受ける機会も設けている。これまで、農業の情報発信、農産品の6次化、地元産品を使った健康食品の提供、森林保全、空き店舗活用など地域密着型のアイデアが多数生まれている。学びの成果を基に店舗を拡張し、売り上げを伸ばした小売業者もいる。

 塾長を務める矢吹光一氏(とうほう地域総研理事長、金融庁地域金融・事業再生シニアアドバイザー)は、育成塾の意義を「受講を通じ、地域に人のネットワークが広がること」と語る。人口規模がさほど多くない地方都市で、本格的な創業支援の取り組みが続くことは評価に価する。新年度は3人程度を受け入れる見通しだが、将来的には増員も検討してほしい。

 さらに、阿武隈地域全体の産業振興を見据え、少子高齢化という同じ悩みを抱える周辺自治体からも受講者を受け入れてはどうか。財源確保などの課題は予想されるが、蓄積した事業手法を有効に生かすべきだ。(菅野龍太)

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