満額回答

 「紙」の辞書が時々楽しいのは、目当ての単語の“ご近所”にある言葉が一緒になって目に飛び込んでくることだ。「言葉との偶然の出会いがある」-と、おしゃれな解説も見つけた▲さて、愛用の紙の辞書-「まんがく」の2つ手前には「まんかい」が載っている。力強い春の足音を聞く思いの人も多いのだろう。まるで競争でもしているかのように大手企業の「満額回答」が相次いだ昨日の2024年春闘集中回答日▲満額どころか、要求額の上を行く回答を出した会社もあった。春闘は言わずと知れた「春季闘争」の略語だが、これが経営側と働く人の“バトル”であることさえ忘れてしまいそうだ▲意欲的な賃上げ姿勢の背景は何だろう。円安メリットが後押しする好業績かも、株価の上昇で企業財務が好転したのかも、人材確保への危機感かも…などと当て推量めいた説明しか思いつけずにいるのは、好況の実感を持てずにいるからだろうか▲〈物価高を反映した実質賃金は低下傾向が続いており、中小が追随できなければ格差が広がる恐れがある〉と記事にある。そうだよね、と心配が先にたつ▲「しゅんとう」の隣の隣で見つけたのは、人の萎(しお)れた様子を形容する「しゅんと」。勢いのいい春闘。どこの国の話か-としょんぼり眺める人の姿が重なる。(智)

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