漫画『好きな子がめがねを忘れた』は万病に効く尊さを持つラブコメである

某日早朝、人気のまばらな電車の車内。

『好きめが』を読んでいてニヤついてると、いつの間にか目の前に座っていた聡明そうな小学生男子(登校中)に、怪訝な顔で見られていました。マジ失態。

てなわけで、時事とリンクするタイトルを新作・旧作問わず取り上げて、“今読むべき漫画”や“今改めて読むと面白い漫画”を紹介していく本連載「漫画百景」。

第一六景目は、好きめがこと『好きな子がめがねを忘れた』です!

ホワイトデーには甘い物語を読みましょう。中学生の男の子と女の子の純度10000000000000000000000%のラブコメです。この尊さは万病に効く。

藤近小梅による漫画『好きな子がめがねを忘れた』

『好きな子がめがねを忘れた』は、『隣のお姉さんが好き』などでも知られる作者・藤近小梅さんがXで公開していた作品が好評となり、連載へ至った漫画です。

スクウェア・エニックスの漫画誌『月刊ガンガンJOKER』で、2018年11月から連載開始。既刊11巻で、今春刊行の12巻で完結することが11巻の予告で明らかになっています。

2023年7月〜9月にはTVアニメが放送されており、アニソン界のめがねと言えばこの人、オーイシマサヨシさんが主題歌を担当。

アニメの主演声優・伊藤昌弘さんと若山詩音さんとのスペシャルユニット、マサヨシがめがねを忘れたとしてEDテーマ「メガネゴーラウンド」を歌唱しています。

また、堀江晶太さんとDECO*27さんによるOPテーマも軽快なアニメーションと共に印象的でした。現役高校生の歌い手・綴さんによる声が本当に素敵です。

可愛さ重要文化財級のヒロイン・三重さん

『好きめが』の主人公は中学生の男の子・小村楓。2年生の新学期、席が隣になった三重あいこと三重さんに一目惚れ。三重さんがいつも隣にいるもんだから、常時どぎまぎしています。かわいい。

その小村を「小村くん」と呼ぶ三重さんはド近眼で、めがねがないと世界がぼやけてしまう女の子。にも関わらず、かなりの頻度でめがねを家に忘れて教室に現れます(家が近いので登校はできる)。あるいはミラクルを起こしてめがねがどこかへ消える、壊してしまう。

だから三重さん、しょっちゅうめがねをしていません。眉間にしわを寄せて、ちょっぴり目つきが悪い。授業中も教科書の字がうまく読めず、教室の移動も軽い冒険です。

そんな三重さんを気遣って小村くんがあれこれを世話を焼き、三重さんは距離感がつかめない小村くんへ急接近(物理)して彼をあたふたさせてしまう……通称・ゼロ距離ラブコメです。

なお、小村くんに多少遅れて、彼を好きだと自覚した後の三重さんは可愛さ1000倍。えげつないです。重要文化財。

読む度に、尊み溢れ、声にならない声が出る

主役2人にもう少し言及すると、小村くんは自分に自信がなくてあと一歩が踏み出せず、三重さんも彼に告白する勇気が振り絞れません。

故に、ゆっくり、じわじわ、ちょっとずつ距離を縮めていきます。その微笑ましさはいつまでも見守っていたい。甘い関係に身悶えます。

読む度に「ぃ……ぎっゅ!」みたいな、声にならない声が声帯から漏れ出てしまう。だからこそ、公共の場で読んじゃダメなのです。自戒。

変わらないことを願いながら、彼の背は伸びてゆく

ただし、ただ甘いだけではありません。

2人は、もしかすると身体的にも精神的にも、人生で最も変化に富んでいる中学生です。

学生生活という限定的な時間、ともすれば刹那的な時間を生き、一方で社会が少しずつ大人になることを要請しはじめる複雑な時期を過ごしています。

作中では3年生に進級して、卒業後の進路も具体的になってくる。怖いけれど、いつまでも変わらないわけにはいかない時期が来ます。

お互いになんとなく想い合っていることが分かる、温かなまどろみのような関係を変えたくない小村くんは、ある時「もう少しだけこのまま……」と願うのですが、止まらない時間の流れを表すかのように、彼の背はどんどん伸びていきます。

小村くんと三重さんが出会った当初は同じぐらいの背の高さだったのに、いつの間にか目線に差ができている。そうした変化が、2人の関係も押し進めてゆきます。

大人と子どもの間をたゆたいながら、成長していこうとする彼と彼女。完結間近の物語。その行く末に幸あれ。

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