プロジェクトの現場はいつも「想定外」「トラブル」と隣り合わせです。予算や人員的に無理なプロジェクト、そもそも現実的ではないプロジェクトがふってきた場合、どのように対応すればいいのでしょうか。孫正義氏のもとで〈プロマネ〉を務めた三木雄信氏が解説します。※本連載は、三木雄信氏の書籍『孫社長のプロジェクトを最短で達成した 仕事が速いチームのすごい仕組み』(PHP新書)より一部を抜粋・再編集したものです。
相手の説得は「熱意・懇願」ではなく「数字(実数)」で行う
Q
オーナーである社長にチャーターを提示したが、そもそも最初から無理な予算や人手でやらせようとして、こちらが提案する内容を承認しようとしない場合は?
A
社長の責任にすること。プロマネだけが責任を負うのは回避しましょう。
まずは社長を説得するための客観的事実を揃えます。
プロジェクトの工程を細かく分けて、どのプロセスにどれだけのリソースが必要なのかを数字で明らかにしてください。
相手を説得するには、熱意や懇願(こんがん)ではなく、「数字(実数)で示す」ことが不可欠です。過去の同様の事例などを参考にすれば、具体的な実績値が出せるでしょう。
さらに、プロマネが1人で説得するのではなく、予算や人手が不足する原因となっている機能部門のトップも交えて、オーナーと状況を共有することが重要です。
営業が無理な納期で受注を受けてきてしまったのなら、営業部門のトップも同席して、用意した数字を示しながら「何がどれだけ足りないか」を客観的事実として伝えます。
そして営業部門のトップの前で、「このままでは納期が遅れて、発注先から訴訟を起こされるリスクも想定できます。追加のリソースをもらわないと、そのリスクは回避できませんが、社長はどう判断されますか」と意思決定を促しましょう。
それでも社長がリソースの追加を拒むなら、訴訟が起きた時の責任は社長が負うことになります。プロマネの責任にはなりません。
もしプロマネと営業部門のトップの間だけで対応を決めてしまったら、失敗してしまった時にプロマネがすべての責任を押し付けられることになります。
「受注しちゃったんだから、何とか頼むよ」と営業部門にプロマネが押し切られ、予算や人手が不足したままプロジェクトに突入することはよくありますが、下の者同士だけで解決しようとするのは絶対にやめましょう。
「明らかに成功しそうにないプロジェクト」が下りてくる理由
Q
明らかに成功しそうにないプロジェクトが上からふってきた。どうすればいい?
A
上の人間も事情をよくわかっていないので、プロマネがボトムアップで情報を伝えましょう。
どう考えても成功しそうにないプロジェクトの話がきた場合、たいていは上の人間も事情がよくわかっていません。
組織の中で立場が上になるほど現場に関する情報が不足するため、コストやリスクがどれだけあるのかを理解していないことがほとんどです。
そこで、プロマネの出番です。
現場をよく知る人間がボトムアップで情報を上に伝え、「品質・納期・コスト」のちょうどよい落とし所を提案してください。
まずは手順通りにオーナーを明らかにした上で、チャーターを作成しましょう。
そして、プロジェクトの目標として、いくつかの選択肢を記載します。
「(A)大手システム開発会社に外注した場合:納期1年、予算3億円」
「(B)自社開発した場合:納期1年半、予算2億円」
あとはオーナーにどちらを選ぶか、意思決定させればいいだけです。
あるいは、正しい情報を知れば、「そもそもこれだけの予算をかけてプロジェクトをやる必要があるのか再検討する」と言い出すかもしれません。
いずれにしても、まずは現実的な情報を文字に書き起こし、オーナーに正しく理解してもらうことが先決です。
また、プロジェクトの「品質」についてすり合わせることも大事です。
3つの要素のうち、どうしても納期とコストに意識が向きがちなので、品質についてオーナーと合意しないままスタートしてしまうことがよくあります。
しかし、納期やコストを優先したいのであれば、なおさら品質でどうバランスをとるかが重要になります。
例えば、新しい事業拠点を立ち上げるプロジェクトで物件探しを始めたものの、なかなか条件の良い場所が見つからなかったとします。
どんな物件が市場に出るかは運みたいなものなので、なかなか場所が決まらないまま、時間はどんどん過ぎていきます。このままでは、拠点オープンの予定に間に合わなくなってしまいます。
この場合、担当者がやるべきなのは、オーナーと品質についてすり合わせることです。
「期日を優先するなら、物件のグレードを少し落としてもいいですか」
「機能性の高いシェアオフィスを見つけたので、まずはそちらで仮オープンにしてはいかがですか」
このように、品質について交渉すれば、「とにかく今回は期日優先だから、どちらでもいいよ」と意外とあっさりOKが出ることはよくあります。
あるいは、より具体的な情報とともに新たな選択肢を提示すれば、オーナーも考えを変える可能性があります。
「山手線沿線で探すようにとのご指示でしたが、中央線沿線の乗降客数を調べたところ、山手線と同等の駅がいくつか見つかりました。中央線沿線ならいくつか良い物件の候補もあるのですが、エリアを変更してもよろしいですか」
そう言われれば、オーナーも「だったら中央線沿線も悪くない」と判断するかもしれません。
繰り返しになりますが、プロマネは上からふってきたことを何でもその通りに引き受けるのが仕事ではありません。
プロマネの役目は、あくまでプロジェクトを円滑に回すこと。そのためには、現場が実行可能な条件をオーナーから引き出すことが重要だと理解してください。
三木 雄信
トライズ株式会社 代表取締役社長