全方位で質感が向上。“走り”を徹底的に磨き上げたスポーツコンパクト/スズキ・スイフト試乗

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が『スズキ・スイフト』に試乗する。新型スイフトは2023年12月6日に発表。CVT車は同年12月13日より、5MT車は2024年1月17日から発売を開始している。今回の試乗は最上級グレード『HYBRID MZ』のCVTモデル。最新の国産スポーツコンパクト、新型スイフトの魅力を深掘りしていこう。

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 乗用車を開発する場合は、往々にして相反する要素を満足させなければならない。それは運動性能と快適性であったり、エンジン性能と燃費であったり、機能とコストであったりする。低いレベルで手を打つのではなく、高いレベルで最適解を見い出したい。

 新型スズキ・スイフトの開発にあたっても、数多くの相反する要件があり、開発者を悩ませた。例えば、スイフトの持ち味とし定着している走りの良さを犠牲にせずに、乗り心地を良くし、燃費も高いレベルで維持したい。タイヤは検討の結果、先代スイフトで履いていたものをそのまま踏襲している。ブリヂストンECOPIA EP150で、185/55R16サイズだ(下位グレードの『XG』は175/65R15)。

試乗車は最上級グレードの『HYBRID MZ(2WD)』。車両価格は216万7000円(税込)。
ボディサイズは全長3860mm、全幅1695mm、全高1500mm、ホイールベース2450mm。最小回転半径は4.8m(FF)〜4.7m(4WD)と小回り性は優秀。
『HYBRID MZ』の足元は16インチアルミホイール(切削加工&ブラック塗装)を装着する。

 タイヤの転がり抵抗を示す指標に、JATMA(一般社団法人日本自動車タイヤ協会)が定めるRRC(Rolling Resistance Coefficient)がある。単位はk/kNで、単位荷重あたりの転がり抵抗を示す。

 RRCが9以下の場合は低燃費タイヤに認定される。スイフトが履く純正タイヤのRRCは7なので、まごうことなき低燃費タイヤだ。等級でいえばAA(6.6≦RRC≦7.7)である。ちなみに最上級の等級はAAAでRRC≦6.5、7.8≦RRC≦9.0のA等級から低燃費タイヤに分類される。

 新型スイフトの開発にあたっては、タイヤサイズを変えずに燃費を頑張るためRRCの数字を小さくすることを検討したという。しかし、転がり抵抗の低減とコーナリングパワーはトレードオフの関係にあり、転がり抵抗を重視すれば、コーナリングパワーは落ちる方向だ。

 コーナリングパワーは単位すべり角あたりのコーナリングフォースを指す。この数値が大きいと、少しステアリングを切っても大きなコーナリングフォースが得られるので、ハンドリングが良く感じられる。

 という関係にあるので、転がり抵抗を重視した結果コーナリングパワーが落ちてしまうと、スイフトの持ち味である走りの良さが失われかねかい。

 タイヤの溝深さを削ることでコーナリングパワーを維持する手法もあるが、そうなると今度はウエット性能が犠牲になってしまう。開発にあたっては各タイヤメーカーと協議したというが、技術的に困難であることが判明し、最終的には先代で履いていたタイヤをキャリーオーバーすることになった。

 さんざん検討した結果、元に戻ったというわけだ。新型スイフトは先代と同じタイヤを履いているが、何も考えずにキャリーオーバーしたわけではない。

 エンジンは先代のK12C型1.2リッター直列4気筒自然吸気から、新開発のZ12E型1.2リッター直列3気筒自然吸気に置き換えた。4気筒から3気筒にして機械抵抗を減らしたのも、ストローク/ボア比を大きくして冷却損失を小さくしたのも、燃費を突き詰めるためだ。最高出力が67kWから60kW、最大トルクが118Nmから108Nmへと、どちらも落ちているのは、燃費を優先した結果である。

パワートレインは、新開発のZ12型エンジンとCVTを採用し、燃費性能と走行性能の両立を実現している。

 WLTCモード燃費は、試乗した最上級グレードの『HYBRID MZ(2WD)』で24.5km/hだ。先代『HYBRID RS』は21.0km/hである。約16.7%の燃費向上は驚異的というほかない。

 にもかかわらず、「走りを犠牲にするわけにはいきませんでした」と、開発に携わる技術者は話す。

「『燃費を優先したから走れません』では、お客様に申し訳ない。出力、トルクのカタログ値は落ちていますが、実際にお客様に使っていただく領域では良くしています。低速のトルクは先代よりもアップさせています」

 最高出力と最大トルクの数値は落ちているが、これは全開全負荷で計測した際の数値である。エンジン以外の条件をすべてそろえた状態でヨーイドンを行えば、軍配は先代スイフトに上がるだろう。

 だが、市街地走行時にちょっと踏み増したときの力強さだとか、交差点を曲がった後の加速シーンでの頼もしさは、先代に劣らないだけの性能を担保している。

 短時間ではあったが試乗した際の感想を述べれば、新型エンジンの実力、何ら不足はない。とくに、常用域でちょっと踏み増したときに反応良く背中を押してくれる加速を披露してくれる点は好印象。

 タイトなセッティングのCVTとの相性もいい(中間グレードの『HYBRID MX』には5MT車の設定があるのも朗報。いずれレポートをお届けしたい)。

 フロントはストラット式、リヤはトーションビーム式のサスペンション形式に変更はない。が、手は加えられている。フロントはスタビライザー(アンチロールバー)を固める方向に変更してロール剛性を高めた。

 従来比でいえば、よりフロントタイヤに仕事をさせる方向(ロールを抑え、応答を高める方向)。開発に携わる技術者によれば、「先代からの走りのレベルアップは度合いを抑え、そのぶん乗り心地に振った」という。

 リヤダンパー(ショックアブソーバー)は下側の取り付け点を低くし、ストロークを伸ばした。また、バンプストッパーを変更している。

 フロント(2WDのみ)はゴム製だったバンプストッパーをウレタン製に変更しつつ長くした。もともとウレタン製だったリヤも長くし、柔らかいウレタンを早めに当てることで、突起乗り上げのような大きな入力があった際の当たりを柔らかくしている。

 プラットフォームはキャリーオーバーだが、ドア開口部などに構造用接着材を採用して剛性を向上。ダッシュパネルの板厚を上げたり、減衰接着材を使ったり、Aピラー内にバッフル(発泡充填剤)を追加したりなど、さまざまな振動騒音対策を施した効果は確実にあり、音と乗り心地の面で進化が感じられる。

 それで大人しいクルマになったかというとそんなことはなく、能動的に走りたい気分にさせるキャラクターは失っていない。エクステリアから「いかにも走りそう」な雰囲気は消えた(意図的に消した)が、相変わらず「走りのスイフト」であることに変わりはない。全方位で質感が上がり、上質なコンパクトカーになっている。

インパネとドアトリムをつなげたスタイリングにより、ドライバーとクルマの一体感を表現している。
スズキ・スイフト
スズキ・スイフト
スズキ・スイフトのフロントシート
スズキ・スイフトのリヤシート
ボディカラーは新色としてフロンティアブルーパールメタリックとクールイエローメタリックを用意。継続色を含め合計9色、13パターンのラインアップとなっている。

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