わざわざ食べに行きたい「懐かしホットケーキ」を発見!“あの大作家”も愛した味【ホットケーキ連載1】

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 このおいしそうな看板が目印

【全ての写真】大人気「ホットケーキ&メロンクリームソーダ」

あの大作家が愛したホットケーキ

『鬼平犯科帳』、『仕掛人・藤枝梅安』の著者で知られる池波正太郎。

食べることが好きった池波は、寿司、中華料理、蕎麦、洋食など、人生で出会った思い出深い料理を紹介するエッセイを遺している。

そのひとつが、『むかしの味』(新潮文庫)だ。

同書によれば、池波は子どもの頃からホットケーキが大好きでよく食べていたようだ。

なかでも生涯忘れられなかったホットケーキがある。

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 味は見た目以上。香りも抜群。その香りを伝えられないのが残念

「〔万惣〕のホットケーキは、それまでに口にした、どこのホットケーキともちがっていた」

8歳のとき、父に連れて行ってもらった「万惣」(神田須田町)ではじめて食べたホットケーキを、池波は生涯愛した。

「焼き方にもよるだろうが、万惣のホットケーキは、最高の小麦粉、卵をえらびぬいてつくられる。そこが、ちがう」

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 熱伝導率に優れた銅板でホットケーキを焼いている

「さほどに個性をもった店」だった万惣が、2012年に暖簾をおろした。

池波が愛した万惣のホットケーキは、もう食べることができない。

……と思っていたら、万惣のホットケーキの味を継承する店があった。

封印していたホットケーキを焼くことにした

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 「万惣の味を残したくて、ホットケーキを焼き始めました」

我家我屋と書いて「ガヤガヤ」と読む。

居酒屋のような店名だが、イタリアンだ。

イタリアンでなぜホットケーキなのか、正直いって理解できなかった。

イタリアンであれば、ドルチェと呼ばれるスイーツを出すはずである。

「そう思いますよね」と微笑むのは、オーナーシェフの鈴木孝一さんだ。

「創業当初はモンブランなどのスイーツを提供していました」

ところが、万惣がとじたのをきっかけに、ホットケーキを出すことにしたというのだ。

いったいどういうことか。

ホットケーキの提供をはじめた理由とは?

鈴木さんは24歳のとき(1976年)、万惣に入社。

30歳で退社するまで6年間ホットケーキを焼き続けた。

「加茂さんにホットケーキの焼き方を教えてもらいました」

加茂さんというのは、池波が『むかしの味』につづっている加茂老人のことだ。

「万惣で五十近くもホットケーキを焼きつづけてきた」のが加茂老人、その人。

「自分で、うまく焼けたと思うのは、一日にいくらもありません」

という加茂老人の言葉を池波は同書で紹介している。

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 色を大切にしたいと考え、カステラなどに使われている卵を愛用している

鈴木さんはホットケーキのレジェンドだった加茂さんに、ホットケーキの焼き方を伝授された。

そして1996年 11月、43歳で独立。千葉に『我家我屋本店』をオープン。

創業当初、ホットケーキを封印していた。

世話になった万惣のホットケーキを出すわけにはいかないと思っていたからだ。

ところが、万惣が2012年に閉店。

「修業時代毎日ホットケーキを仕込み、焼いていました。自分で焼いたホットケーキにバターをはさみ、昼飯がわりに食べたあの味が忘れられません。自分がやらないと万惣のホットケーキが消えてしまいます」

という思いがつのり、万惣閉店後しばらくしてからホットケーキをはじめることにした。

万惣のホットケーキ再現のために研究を重ねた

「加茂さんに教えてもらったレシピを忠実に守っています」

けれど、小麦粉、卵、砂糖、ベーキングパウダーなどの材料が、万惣とは異なる。

「限りなく万惣と同じホットケーキを焼けるように研究しました」

小麦粉、卵などで作った生地をひと晩寝かせる。

熟成させることで生地が落ち着くのだそうだ。

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 ホットケーキにかける黒蜜も厨房で仕込んでいる

焼き立てのホットケーキによつ葉バターをのせ、自家製の黒蜜をかける。

この黒蜜も、万惣仕込み。

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 おいいそうな甘い香りにノックアウトされました

焼き立てのホットケーキ(748円/すべて税込)をいただいた。

ホットケーキを切った瞬間、甘い香りが立ち上った。

これほどふくよかで、芳烈な香りのホットケーキを食べるのははじめて。

「バニラエッセンスではなく、バニラオイルを使っています」

耐熱性があり、持久性も高いことからバニラオイルを選んだ。

甘い香りに加え、フワフワすぎず、硬すぎないところもよかった。

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 このおいしそうな看板が目印

そしてもうひとつ。

ホットケーキの表面のザラザラ感が印象的だった。

このザラザラがどこに由来するのかわからない。

けれど、これまで出会ったことがない食感が心地よかった。

ホットケーキとメロンクリームソーダのマリアージュ

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 久しぶりにメロンクリームソーダを飲んだけど、懐かしい味がした

「メロンクリームソーダ(770円)も一緒に召し上がってみませんか」

できあいのものが出てくると思っていたら、そうではなかった。

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 注文ごとにメロンクリームソーダを鈴木シェフが作ってくれる

グラスにシロップを入れ、炭酸水を注ぎ、アイスクリームとサクランボをそえたクリームソーダだった。

池波は、子どもの頃からクリームソーダが好きだったようだ。

「六十近くなったいまも、私はクリーム・ソーダが好きである」

と『むかしの味』に記している。

池波ならば、クリームソーダを飲みながらホットケーキを食べ、「むかしの味がする」と喜んでくれるかもしれない。

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 ホットケーキとメロンクリームソーダの相性をお愉しみください

ホットケーキ単品も注文できる。

けれど、パスタ単品(1485円~)に、トマトサラダと食後の飲み物とホットケーキが付く「Cセット」(825円)を頼む人が圧倒的に多いそうだ。

「週末ともなればホットケーキを120枚焼かせていただきます」

「むかしの味」がするホットケーキを食べるために、千葉へ出かける価値がある。

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】 JR千葉駅、京成千葉駅から徒歩5分程度

【ホットケーキ倶楽部 我家我屋本店】店舗情報

住所/千葉県千葉市中央区富士見2-7-16

電話/043-225-7551

営業時間/11:30~15:30(LO15:00)、土曜11:30~22:00(LO21:00)、日祝11:30~21:00(LO20:00)

(うまいめし/ 中島 茂信)

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