「繊細さん」と呼ばれる人々の生きづらさ支援 非対面・非接触カフェ 商品を渡すのは“ある動物の手”

壁にぽっかりあいた“小窓”の意味とは?

音楽・ファッション・言葉など、流行りに敏感なZ世代。さまざまな物事に順応力が持ち味といえる彼らですが、その感受性の高さゆえストレスを抱える人も多くいます。SNSを中心に「繊細さん」と呼ばれており、多くの世代から共感を得ています。

そんな繊細さんが集まる場所のひとつ「クマの手カフェ」(大阪市中央区)では、スタッフと対面・接触することなくドリンクやパフェを受け取ることができるとインスタグラムで話題に。さらに従業員は繊細さんを中心に募集しており、社会貢献も担っています。代表取締役・平村さんと店長に詳しく話を聞きました。

【写真】非対面・非接触で商品を手渡す方法とは?

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ーーどうしてこの店をオープンしようと思ったのですか?

【平村さん】そもそも心理学やカウンセラー育成の学校を運営しているのですが、カウンセラーと相談者における“立場の問題”にギャップを感じていました。また、コロナ禍をきっかけにカウンセラーになっても現場に立てない状況……という壁に当たりました。そんな折に「繊細さん」という人々の存在が話題になり、これまでの思いを実現するときだと思い、彼・彼女らでも働ける非対面・非接触の同カフェをオープンさせたのです。

ーー非対面・非接触ということですが、メニュー提供はどのようにしているのですか?

【平村さん】壁に設置した小窓から、“クマの手”だけをにょきっと出して商品をお渡しするスタイルです。スタッフが顔を出すことはありません。これはヨーロッパのとあるバーからヒントを得ました。そこは小窓から飲み物などを提供しているんです。理由は従業員が顔に傷を持っているため。対面式の接客では本人も客も必要以上のストレスを感じてしまうかもしれない……だったら手だけのやりとりでサービス提供をしよう、ということで小窓式を取り入れたそうです。海外におけるメンタル面への関心の高さに感動し、当店でも小窓を導入しました。

ーースタッフは「繊細さん」が中心だと聞きました。

【平村さん】そうです。人より少し緊張しやすかったり、不安に感じやすい方を中心に募集しています。「社会復帰」のために働いてもらうので、基本6か月の期限付き。それ以降は、違う場所でチャレンジしていただいています。現在の店長も繊細さんなのですが、すごく頑張ってくれています。

【店長】人とお話しすることが苦手だったんですが、少しずつ恐怖心がなくなってきました。働く楽しさややりがいも感じてきて、将来は自分のカフェをオープンできたらと思っています。

ーー客層はどんな感じですか?

【平村さん】SNSで話題になったオープン当初は半分ほどが若年層のお客さまでしたね。最近はコンセプトが広まった影響で、繊細さんのお客さまも多いです。皆さん同じ悩みを抱えて来店されるので「気持ちが楽になった」「癒された」という声を聞いています。また、大阪の観光スポットとして欧米で話題になったようで外国人の方の来店も多々あります。海外から来ているにもかかわらず当店のコンセプトを理解してくださっていて、店内に設置している手紙セットに「来れてよかった」「頑張ってね」など、英語で応援メッセージを残してくださったりします。

【店長】当店のコンセプトが日々広まっていることを実感しています。実際クマの手で提供するときに「がんばってね」と声をかけてくださいます。そういう声はとっても嬉しいですね。ほかにも手でハート型を作ったり、握手をしてくれる方、クマの手のふわふ感に安心してくれるお客さまもいらっしゃいます。

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見た目のインパクトから話題になり、徐々に本来のコンセプトが広がったクマの手カフェ。同店のように「誰にとっても生きやすい社会」のきっかけとなる場が、これからの時代は広がりを見せていくのかもしれません。

(取材・文=弘松メイ)

※ラジオ関西『Clip』2024年3月14日放送回より

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