『ブギウギ』スズ子の唯一の弱点は“家族” 趣里がステージ外で見せるさまざまな側面

『ブギウギ』(NHK総合)第115話では、世田谷署刑事の高橋(内藤剛志)の指揮のもと犯人逮捕の大捕り物が行われた。

「今日午後3時、3万円を巾着袋に入れて日帝劇場に持ってこい」

小田島(水澤紳吾)からの電話で受け渡し役に指名されたのはマネージャーのタケシ(三浦獠太)。劇場のロビーで緊張しながらその時を待つ。不審な人影を認めると犯人の方から駆け寄ってきた。タケシは小田島に金を奪われまいと必死に抵抗する。離れたところで監視していた高橋たちに取り押さえられ、小田島はお縄となった。

朝ドラに突如出現した刑事ドラマ風の展開は、取調室でカツ丼の出前を取る既視感のある光景で一件落着。といっても、注文したカツ丼を高橋が自身の口に運び、一瞬「えっ」と思わせてから、小田島のために特上を用意するというひねりの効いた演出だった。

後日、スズ子(趣里)の家を訪れた高橋は、小田島の息子の一(井上一輝)が愛子(このか)と同じ小学校に通っていると話す。男手一つで子どもを育てていた小田島は、愛子の誕生パーティーで花田邸を訪れていた。愛子のためを思うスズ子の親心が災難を招いたことになる。小田島が収監されている間、一は親戚が預かることになった。

このところの『ブギウギ』は、スズ子の横顔に様々な角度から光を当てている。第22週では、新任マネージャー・タケシの姿を通して、芸能界で後進を育てる立場となったスズ子の変化を描いた。第24週で描かれたエピソードは、実際に起きた事件がベースになっている。人気歌手の娘に対する誘拐を口実にした脅迫行為は、結果的に母娘の関係を浮き彫りにした。

スズ子は愛子に対して見るからに過保護だ。スズ子と愛子の関係はうまくいっておらず、その原因がスズ子の過干渉にあることは明らかである。愛子がいなくなったと知ってオロオロし、あわててしまうのは親なら当然の反応だが、一人娘を溺愛するスズ子にはこの世の終わりのように響いた。家族はスズ子の泣きどころで、あっけらかんとしたスズ子も家族の話になるととことん煩悩をさらけ出す。

有名人の子どもというスズ子が経験したことのない苦労を愛子は抱えていて、親子の間には感情的な断絶がある。愛子は普通に友達がほしいと思っているだけなのに、スズ子が心配しておせっかいを焼くことで、かえって関係がこじれてしまう。そこに起きたのが脅迫事件だった。小田島とスズ子の境遇は対照的だが、盲目的な親心が事件を引き起こした点は共通している。高橋が加害者と被害者にかけた言葉が、親の心情を代弁していた。
(文=石河コウヘイ)

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