50代女性「長距離介護」で月収の3割が吹き飛ぶ厳しい現実…負担減に向けたFPからの「3つの提案」

<前編のあらすじ>

佐々木満子さん(52歳・仮名)は大阪在住のおふたりさま。夫婦ふたり共働きで暮らしており、子どもはいません。

今回、遠方に住む父親の介護や身の回りの世話が必要になり、その役割を満子さんがメインで担うことになってしまったと言い、筆者の元へ相談に訪れました。

「長女だからって、なんで私ばっかり……」。嘆く満子さんでしたが、夫から「このままでは倒れるよ」と言われたことが転機になって、一緒に負担軽減の方法を探ることになりました。

●前編:【「なんでいつも私ばっかり…」遠方の家族の面倒を押し付けられた「長女の嘆き」】

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満子さんのように仕事をしながら介護をする人を「ビジネスケアラー」と言い、両立の大変さもあって介護離職が問題になっています。そこで、仕事を持ちつつ長距離介護をしている満子さんの負担を減らすべく、筆者から3つの提案をしました。

①負担の中身を「見える化」する

満子さんが負担に感じていたのは帰省の費用。実際どれだけかかっているのか聞いてみると、満子さんの月収約23万円のうち、なんと3分の1を毎月の帰省費用に使っていました。

往復の新幹線代だけでなく、お土産も会社を休んだおわび用と、父がお世話になっている近所の方に毎回準備。これでは負担に思うのも無理ありません。

そこで軽減策の1つとして、飛行機利用を提案しました。大阪から神戸空港まで出向く手間はありますが、割引運賃をうまく利用できれば、半額程度まで旅費を押さえることが可能となります。また、航空チケットをカード購入することで、ポイントにてお土産代を捻出することもできるでしょう。

②家族と話をする

筆者が気になったのは、妹の洋子さんのこと。実家の茨城までは千葉に住む洋子さんの方が、よっぽど近い。父の満さんも「洋子はときどき帰ってくる」と言っていた。なのに、キーパーソンは満子さん。理由は何? 父の満さんだけでなく、洋子さんにも話を聞けたら負担軽減のヒントが得られそうです。

さっそく満子さんが「なぜ私なの?」と父に聞いたところ、驚きの事実が発覚。洋子さんが帰ってくるのはなんとお正月だけ。しかも、お年玉をもらったらさっさと帰ってしまい、普段は電話にもほぼ出ることはないと言います。

「だから、キーパーソンは私なのか……」

それでも役割分担できれば助かると、満子さんから洋子さんに電話をかけてみました。すると、「お姉ちゃんと違って、こっちは子どもがいて大変なのよ!」とキレ気味の返事。どうやら姉妹での介護はかなりハードルが高そうです。

③使える制度を大いに使う

今後も急な呼び出しや突然の電話が続けば、本当に満子さんが倒れることになりかねません。介護離職をしないためにも少し長めの休みを取って、必要な手続きを進める方が良いのでは? とアドバイスしました。

介護休業は育児・介護休業法という法律で定められた制度の1つで、一定の要件を満たす場合は、対象となる家族1人につき通算93日最大3回まで分割して休暇を取得することが可能です。

ケアプランにあった介護事業者を選定したり、実家のリフォームを検討したりと、足の悪い父が暮らしやすくなる体制を作る。また、ケアマネジャーや介護事業者と実際に会うことで、帰省のタイミングやWebシステムを使った連絡など、できる工夫を話しあう機会にもなるでしょう。

介護休業中は無給ですが、一定の要件を満たす場合は介護休業給付金が支給される安心感もあります。

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しばらくして、満子さんから「妹に会って来た」と連絡がありました。電話ではらちが明かず、思いを込めて手紙を書いたのだそうです。

洋子さんも実は気になっていて、「子どもの大学費用のために、慣れないパート勤めで忙しかった」と、お互いホンネで話しあえたと言います。これなら洋子さんの状況が落ち着いたタイミングで、姉妹で役割分担する道も探っていけそうです。

高齢化がますます進む日本。使える制度もうまく利用して、誰か1人に背負わせない介護を目指しましょう。

辻本 由香/つじもとFP事務所代表・一般社団法人WINK理事

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、相続手続カウンセラー、50代からのくらし(医・職・住)と資産を守るファイナンシャルプランナー。おひとりさま・おふたりさま×特有の課題・お金の問題の事例などが得意分野。企業の会計や大手金融機関での営業を経て、2015年に、保険や金融商品を販売しないFP事務所を開業。個別相談の他、企業・病院・大学などでの講演も行っている。

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