焦点:米パイプラインで頻発する大規模ガス漏れ、温暖化の隠れた脅威に

Nichola Groom

[8日 ロイター] - 昨年10月、米アイダホ州のある農家が重機を運転中、誤って農地の下に埋設されていた直径56cmのパイプラインに穴を開けてしまった。そして、5100万立方フィート(約144万立方メートル)を超える天然ガスが大気中に漏出した。

事故が起きたのは、パイプライン運営会社ウィリアムズ・カンパニーズが運用するノースウェスト・パイプライン。漏出規模は大きかったが、米国を縦横に走る約480万kmの天然ガスパイプライン網では、この種の事故は実は珍しくない。

公開されているデータと規制当局の文書をロイターが分析したところ、穴あきや腐食、荒天や機器の故障などの原因で生じたパイプラインからの偶発的なガス漏れは日常的に発生し、米国の公式の温室効果ガス排出量には計上されないが、温暖化の脅威となっている。

パイプラインの事故により意図せずして大気中に漏れた天然ガスは、2019年から2023年末までの間に、97億立方フィート近くに達した。米運輸省パイプライン・有害物質安全庁(PHMSA)が管理している事故報告書をロイターが検証した。

非政府組織(NGO)の環境防衛基金(EDF)がオンラインで提供するツールで計算すると、これは温室効果ガスとして、平均的規模の石炭火力発電所4基を1年間稼働させた量に相当する。

米環境保護局(EPA)によれば、こうした排出分は国の公式の温室効果ガスの集計には含まれていない。連邦政府による取りまとめは主として通常の操業による排出量だけを対象としており、予想外の大規模漏出は含まないためだ。

バイデン政権は、来年にもこうした現状を改めようとしている。EPAは石油・ガス部門からのメタンガス排出を取り締まるための規則を提案しており、これが施行されれば、業者が一定基準を超える量を漏出した場合は1トンあたり900─1500ドル(約13ー22万円)の罰金が科されることになる。漏出分の天然ガスがが公式の排出量統計に上積みされるだけでなく、事業者の潜在的コストを増大させる可能性がある。

「国民も規制当局も、パイプラインのインフラからどれほどの量のメタンガスが失われているかを理解していないのではないか」と語るのは、パイプライン事業を監視する非営利団体(NPO)「パイプライン・セーフティ・トラスト」の広報担当者ケネス・クラークソン氏。「最近の調査で実際の排出量が見えるようになりつつあり、政策担当者も関心を寄せ始めている」

PHMSAによれば、5大パイプラインで2018年から22年に生した偶発的な漏出事件を加算すれば、パイプライン設備全体からの排出量報告は大幅に増えていた可能性がある。また、現行案による罰金が科されれば最大4000万ドルにも達しかねない。

主要5大パイプラインの運営事業者には、投資会社バークシャー・ハサウェイ、石油・天然ガス業務のTCエナジー、キンダー・モルガンが含まれる。

たとえばバークシャー・ハサウェイが運営する1万4000マイル(約2万2500キロ)に及ぶノーザン・ナチュラルガス・パイプラインは、PHMSAに対しこの5年で複数回の意図せぬガス漏出を報告しており、その量は同パイプラインがEPAに報告したメタンガス排出量の約30%に相当する。

昨年10月にアイダホ州で漏出事故を起こしたパイプラインを保有するウィリアムズは、事故による意図せぬ漏出として、EPAに報告するメタンガス排出量の約15%に相当する量を報告している。

<大きな不整合>

12月にドバイで開催された第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)で、バイデン政権は、ガス排出の抑制に向けた国際的な取り組みの一環として、米国の石油・ガス業界によるメタンガス排出の抑制をめざす一連の最終規制案を公表した。

パイプラインで運ばれる天然ガスは、通常その約90%をメタンガスが占める。メタンガスは大気中の滞留時間は比較的短いものの、その間に二酸化炭素よりも数倍高い地球温暖化効果を発揮する。

米国の新たな規制策では、新規掘削分の油井で発生する天然ガスの日常的なフレアリング(余剰ガスの焼却処分)を禁止し、油井やコンプレッサー拠点における石油会社による漏出監視を義務付け、メタンガスの大規模漏出を検知するために第三者による遠隔検知を導入する体制が導入される。

一方EPAによると、大規模漏出に関する新たな報告義務は今年後半に最終決定され、2025年に施行される可能性が高いという。

この規制案では、事業者は来年以降、パイプラインから約50万立方フィート以上のガスが異常漏出した場合に報告が義務づけられる。これはPHMSAが現在求めている基準よりかなり厳しいものだ。

EPAでは、油井掘削事業など石油・ガス業界における他の部門からの想定外の大量漏出にも、この新たな報告ルールが適用されるとしている。

大規模なメタンガス漏出のうち、米国の温室効果ガス排出量に計上されていない分があるという事実は、「化石燃料業界からの排出が大幅に過小評価されているのではないか」という環境保護団体や科学者の懸念を裏付けるものになっている。

たとえば昨年のEDFの分析では、米国のパイプラインからは年間120万─260万トンのメタンガスが漏出しているとみられ、これはEPAによる試算値の3.75─8倍に相当する。

EDFの分析には、大規模な漏出事故だけではなく、小規模な輸送ライン上で起きた小規模の漏出事例も含まれている。

EDFで石油・ガス産業に対する規制を専門としているエドウィン・ラメーア弁護士は「EPAはこうした大規模な漏出事故を含めていないため、非常に大きな不整合が生じている」と指摘する。

パイプライン業界の業界団体である米国州際天然ガス協会は、PHMSAに報告される事故の大部分は、安全システムが正常に稼働して検知された結果として報告されたものだとしている。

また同協会は、大半のガス輸送・貯蔵施設では、メタンガス漏出に対する罰金の対象となる、二酸化炭素換算で年間2万5000トンという排出量基準に満たない可能性があるとEPAが分析していると指摘した。

ただしEPAの分析は、「報告される排出量の規模と、それをどの施設が報告することになるのか」を厳密に推定することはまだ不可能だとしている。

またパイプライン業界は、新たな報告義務についてEPAが募集したパブリックコメントの中で、こうしたルールが一部の排出量の二重計上につながる恐れがあると述べている。

(翻訳:エァクレーレン)

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