受刑者への選挙権制限「合憲」判決 「受刑者だけの問題ではない」弁護側は内容に憂慮示す

判決後に記者会見する控訴人代理人の加藤雄太郎弁護士(左)と吉田京子弁護士(3月13日都内/榎園哲哉)

「選挙の公正とは何なのか」――。受刑者の選挙権を認めない公職選挙法の規定は、選挙権を保障した憲法第15条などに違反するとして、長野刑務所に服役する男性(38)が国を訴えた裁判の控訴審が3月13日、東京高等裁判所(木納敏和裁判長)で開かれ、一審に引き続いて「合憲」の判断が下され男性の提訴は棄却された。

判決を受け、男性(控訴人)の代理人である弁護士らが会見を開き、上告を表明。上告審に向けて改めて争点などを語った。

判決「選挙に参加する資格・適性がないと疑うに足りる」

控訴棄却の判断の大きな根拠、材料となったのが平成17年9月14日の最高裁大法廷判決(以下、平成17年判決)だ。

「自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されない」とした同判決。

今回の控訴審はその論理、考えを踏襲した上で選挙犯罪ではない一般の犯罪者も「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」の「等」に含まれるという論理の下、合憲とした。

さらに、控訴審では、一般犯罪を行った受刑者について、「公正かつ民主的であるべき国家の意思形成過程である選挙に参加する資格・適性がないと疑うに足りるやむを得ない事由があるというべきであり、そのことをもって、選挙の公正を厳粛に保持すべき必要性が国民の選挙権の保障に優先するとの事情がある」と判断された。

受刑者の選挙参加は選挙の公正を妨げるか

会見で、控訴人代理人の吉田京子弁護士は、受刑者に選挙権を認めないことを「合憲としたことは間違いであり、不当な判決」と述べる一方、上告審での議論に生きる評価すべき点もある」とした。

選挙権は非常に重要な国民の権利であり、その権利を制限するために厳格な基準があるとした平成17年判決。昨年7月20日の一審(東京地裁)は、同判決を引用せず「合憲」とした。

それに対し、控訴審で弁護側は、複数の憲法研究者による同判決を引用すべきとした意見書をまとめ提出した。それを受け東京高裁は、17年判決には従わなければならないと認めた。

吉田弁護士は「(合憲と判断されたが)『厳しい基準』で判断すべきだ、というところまでは勝ち取った。その上で、受刑者が選挙に参加するとこの国の選挙の公正に傷がつくのか、そういう心配があるのか、ということに争点が絞られたと思う。最高裁では十分に議論し、正しい判決に導きたい」と語った。

また、吉田弁護士は選挙の公正のためには以下3点が重要だと説明。

①個人が自由で自立的な判断で投票行動ができる
②選挙権があまねく行き渡っていて、なるべく多くの人が参加する
③公職選挙法に書かれているような不正行為がないこと

その上で、「選挙に参加する資格や適性があるかどうかによって選挙人を区別することは、選挙の公正とは全く無関係。むしろ選挙の公正を害する」と力を込めた。

「次のターゲットは別の誰かかもしれない」

たとえ刑務所内にいても、国政選挙に参加したい、意思表示をしたい、そう願う受刑者は少なくないだろう。

会見では、原告である男性からも「訴えが認められなかったのであれば、非常に残念。全ての受刑者のために最後まで戦います」とコメントが寄せられた。男性は、2019年に詐欺罪で懲役7年の実刑判決を受け、長野刑務所に服役中。選挙権を停止され、21年の衆院選などで投票ができなかった。

吉田弁護士は、受刑者には、凶悪な犯罪者以上に窃盗や薬物使用など軽微な罪の犯罪者が多いと説明。その上で、「(受刑者は)十分な環境や教育などに恵まれず、社会に居場所がなかったのではないか。そういう人たちを選挙からも排除していいのか」と訴えた。

令和4年末の刑事施設の収容人数は約4万人、うち受刑者は3万5843人に上る(令和5年版犯罪白書より)

さらに、「選挙に参加する資格・適性がないと疑うに足りるやむを得ない事由がある」とする判決文について、「選挙に参加する資格・適性の有無は誰が判断するのか。国会が判断する。抽象的で緩やかな“あいまい基準”で人から選挙権を奪えるのであれば、受刑者だけの問題ではない。次のターゲットは受刑者ではなく別の誰かかもしれない」と語った。

受刑者の選挙権をめぐっては、2013年に大阪高等裁判所が「憲法違反」と判断。2017年には広島高等裁判所が「合憲」とするなど判断が分かれている。

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