【最新Q車事情「レストモッド最前線」国産車編】TOM’Sが取り組むトヨタ・ヘリテージモデルの「転生」に期待大!レースとカスタマイズのノウハウが、新たな価値を生む

多彩なコンプリートカーが並んだ東京オートサロンTOM’Sブース。ひときわ異彩を放っていたのが、鮮やかなグリーンボディにTRD 3000GTスタイルをまとったJZA80スープラでした。トムス創業50周年を記念した新たな挑戦は、果たして今後、どんな展開を見せてくれるのか。旧車好きには興味津々な「これから」について、株式会社トムス 代表取締役社長 谷本 勲氏にお話をうかがいました。

Restore×Modified=レストモッドという新潮流

「ちょっと古いあの名車を、今さらだけど乗ってみたい」と思ったこと、ありませんか?旧車生活への憧れは、クルマ好きにとってもしかすると宿命的「恋煩い」みたいなもの??「IT化」「スマホ化」が進むデジタルな最新モデルたちとは違う、ほどほどアナログならではの「一体感」や「操っている感」に、たまらなく惹かれてしまうのかもしれません。

装着されているエアロパーツは、1994年の東京オートサロンで発表されたTRD仕様のコンプリートモデル「TRD3000GT」を復刻させたもの。圧倒的な存在感とともに、「規格外のロードゴーイングカー」を謳っていた。レストモッド車両は、エンジンなど主要メカニズムはノーマルにこだわっている。

ひとくちに旧車趣味と言っても、昨今は多様化が進んでいるようです。雑誌由来の「オールドタイマー」的には、70年代以前のモデルを中心に楽しむのが一般的。一方で、80年代から90年代ごろの名車を楽しむトレンドもまた定着し、「ネオクラシック」とか「ヤングタイマー」などと呼ばれているようです。

そんな中でも数年前から注目度が高まっているのが、「レストモッド」です。可能な限り忠実にオリジナリティを追求する「レストア」から一歩踏み込んで、現代の技術や素材、スタイルなどを採り入れたモディファイとして、新たな潮流を生みつつあります。

2024年初頭に開催された東京オートサロン2024において、TOM’Sブランドでおなじみの株式会社トムス(以下、トムス)は創業50周年記念事業として、「レストア事業」に取り組むことを発表しました。

トヨタ車の車両の状態に合わせて、独自のチェックメニューで信頼性の高い修復、調整などクルマづくりを行う取り組みですが、そのメニューには「レストア」とともに「レストモッド」も用意されています。

KP47スターレット以来、初めての市販モデル転生プロジェクト

株式会社トムスは、1974年に創業した「TOYOTAオフィシャルチューナー」です。レーシングドライバーだった舘 信秀氏が大岩湛矣氏とともに立ち上げ、約半世紀に渡りレース事業、自動車用品事業、デザイン事業、新規事業を展開してきました(舘氏は現在、取締役会長/ファウンダー)。

1973年にレースデビューしたDOHCスターレットを、トムスが2018年に完全復元した。ボディのベースは市販車だ。

2023年シーズンは、国内最高峰のスーパーGTシリーズで総合優勝。コンシューマー向けには「クルマに乗る喜びと、人生を楽しむきっかけづくりを提供する」をビジョンに、GR86、スープラといったスポーツカーのみならず、レクサスLMなどのラグジュアリーレンジ向けにもコンプリートモデルをリリース、ファンを沸かせています。

そんなトムスがスタートさせるレストアプロジェクト第一弾として展示されたのが、1993年から2002年にかけて販売された「80スープラ」のレストモッド車両でした。

このマシンは、TRDが1994年に東京オートサロンで発表したコンプリートカー「TRD 3000GT」のスタイルを復刻しています。しかもその仕様をコンプリートモデルとして販売することも計画しているそうです。

トムスは2018年、70年代にレースで活躍した「KP47 スターレット」のレストアプロジェクトを行っています。しかし市販された名車・旧車の復刻を手掛けるのは、実質的には初めてとなります。

積み重ねてきたヘリテージで「お悩み」の解消に挑戦

約6年前、株式会社トムス 代表取締役 社長に就任した谷本 勲氏に、トムスが取り組むレストア事業の目的、展望についてお話をうかがうことができました。

等々力にある株式会社トムス本社において、代表取締役社長 谷本 勲氏に単独インタビュー。自動車産業そのものに対する「熱愛」を感じさせる、様々なお話をうかがうことができた。今度はぜひ、御殿場のテクニカルセンターの作業風景を、取材させてもらいたい。

今回の事業は、クルマとしてのヘリテージだけでなく、トムスそのものの「ヘリテージ」を象徴している、と思えます。それは、トヨタ車をベースとしたカスタマイズ&チューニングの歴史であり、さまざまなレースシーンで勝利を重ねてきた歴史に他なりません。

「2000年以降、私たちが手掛けてきたチューニングカーのオーナー様からメンテナンスの延長として、レストアに関する相談を受けることが増えてきました。一つひとつに是々非々で対応させていただきましたが、それとは別に、クラシックカーを大切に乗られている人たちのコミュニティから、トムスでレストアはやってくれないの?という問い合わせも実は多かったんです」(谷本氏)

国内の自動車メーカーとしては比較的、アフターサービスが行き届いていると思われるトヨタであっても、旧車に対するサポートは万全とは言えません。30年を超えたクルマたちのオーナーが、補修・交換が必要となるパーツを独自に、純正品で揃えるのはやはり至難の技です。

最近でこそ、マツダが初期のロードスター向け純正部品を復刻させたり、トヨタブランド向けに40ランクルや2000GTをターゲットとした「GRヘリテージパーツプロジェクト」が展開されるなど、情熱的なファンに対するサポートにも目が向けられ始めています。

それでもすべての部品が揃うわけではなく、オーナーたちはそれぞれに対応が必要になります。そんな悩みを、トヨタの準ワークス的位置づけにあるトムスなら解決してくれるのではないか・・・そんな期待感が向けられているそうです。

「ユーザーさんたちから見れば、トムスはやはりトヨタとの結びつきが非常に強い=安心感があるのだと思います。なにか(困ったことが)あってもトムスなら相談にのってもらえる、というイメージですね」

最新設備が整うコンプリートカー用ファクトリーで製作

とくに近年、力を入れているコンプリートカー事業で培われてきたノウハウ、ネットワークが生きている一面もあります、と谷本氏。

東京オートサロン2024に出展された、トムス・コンプリートモデルたち。スポーツカーのみならず、レクサスISやLMなど、ラグジュアリーカーのモディファイにも力が入っている。

「ピュアなレストアとともに、中身や外観を現代風にモディファイすることも可能です。たとえば内装系ならば、センチュリーやレクサスLMといった、ラグジュアリー系のコンプリートモデルを手掛けてきたことが、生きていますね」

走行性能面での安心感や室内空間の質感など、居心地の良さ、快適性をグレードアップできるのが、レストモッドの醍醐味。そこにもトムスのモノづくりに対するこだわりが、反映されています。

「取引のある職人さんや、そういう専門家集団は、みんな変わらず頑張っています。歴史の長い内装屋さんに頼むと、古い車両が現役だったころに手掛けた経験値を持っている場合もあります。トムスでも、エンジンチームのベテランが腕を振るうことができますね」

まずは「ネオクラ」世代からスタート

さて、それではどのような流れで注文を受け付けてくれるのでしょうか。

オートサロン出展車のレストア前の状態。コンディションとしては、かなり良好な個体だったそうだ。エンジン系のメンテナンスは、まさにトムス・エンジニアが得意とすることろ。ベテランのメカニックからは、「懐かしい!」と声が挙がったという。

ベースとなる車両はまず、80年代後半から90年代前半ごろまでのスポーツカーを想定しています。いわゆる「ネオクラシック」と呼ばれるカテゴリーでしょう。今回、東京オートサロンでお披露目した80スープラのほか、Z20ソアラといった上級ラインナップのほか、SW20 MR2、AE92 レビンなども相談に乗ってくれそうです。

車両は基本的に、トムスが探してくれますが、持ち込みでの対応も可能。レストアのレベルにはレストモッドだけでなく、最大限ノーマルにこだわるピュアなレストアや、エンジンのみ、足回りのみといった部分レストアの相談にも応じてくれます。

ベース車のコンディションや、消耗部品など部品の調達に時間がかかる場合もあることから、一概には決められないそうですが、製作には半年ほどかかるそう。作業は御殿場テクニカルセンターで2023年に稼働したコンプリートカー製作ファクトリーで行います。

気になるお値段は・・・と言えば、これもまたベース車のコンディション次第ということで、一概には提示しきれません。参考として今回、製作している80スープラは、2500万円の予価で受注を受付け、現在すでに4件の申し込みがあるといいます。

オートサロンには展示されなかったものの、こちらもまたファンには熱狂で迎えられそうな「美しい!ダルマセリカ」。トムス・ホイールの象徴的存在と言える「井桁」が、当時からこよなく「ダルマ」に憧れていたおじさん世代の物欲を、激しく刺激する。

実は展示された80スープラとは別にもう1台、A20型セリカのフルレストアモデルがデモカーとして、ほぼ完成に近づいています。いわゆる初代「ダルマセリカ」は70年代のモデルですが、それなりにきれいな個体が見つけやすいのだとか。こちらは工賃、パーツ代を入れても1000万円程度の費用が目安となるそうです。

さまざまな「約束事」を明瞭にすることで、安心感を提供したい

旧車趣味を楽しむコミュニティや、顧客から寄せられる様々なお悩み相談をとおして谷本氏は、「旧車趣味の世界観を変えたいな」と考え始めたそうです。ヤングタイマーも含めて広義での「日本の自動車ヘリテージを安心して楽しむ」ためにできることを、目指しているといいます。

各パーツを徹底的に外して、ホワイトボディ状態まで戻される。

それではトムスとしてできることはなにか・・・谷本氏が考えた取り組みのひとつが、日本の自動車カルチャーに興味を持った若い層へのサポートでした。自動車ファンの卵たちが「乗ってみたい」と思った時の不安を払しょくすることが、夢の実現につながるはず。そのために、旧車の整備に関わる不明瞭な納期や費用観といった「曖昧さ」を、より明確にしたいと考えたそうです。

「レストア事業に寄せられた反響を見ていると、いわゆる古い世代に憧れていた50代ごろの懐かし世代とともに、最新のクルマにはない魅力に惹かれる20代頃の若者世代がボリュームゾーンになっています。そういう憧れ世代に対して、費用も納期も、しっかり約束通りに仕上げることで、信頼感というエビデンスを提供してあげたいんです」

足回りを装着しなおしているところ。フレーム全体がしっかり塗装(もちろん防錆処理も含めて)されているのがわかる。ここまでやってもらえるなら、安心感と満足感は文句なし。2500万円がリーズナブルに思えてきた。

同時に谷本氏は、そうした新世代系のネオクラシックカーファンたちが集い、自由に対話したり情報を交換したりできるコミュニティとなる場を、提供したいと考えています。実際に、御殿場テクニカルセンター敷地内に、新しいコミュニティスペースの開設を予定しているそうです。

「モノだけでなく、それを使った体験価値をセットで提供していきたいんです。それは日本の若者たちだけでなく、たとえば海外にも発信していくことができると思います。ワイルドスピードのように映画で使われたりすることもあるくらい、日本車は古くなってもカッコいい・・・そんな魅力が海外でも認知されているのではないでしょうか。だからこそ日本で自動車産業に関わっている者として、海外に日本の自動車文化を発信していく、そんな取り組みをより積極的に進めていきたいですね」

今回、作成されたのはTRDのキットを装着した仕様だが、トムス×80スープラと言えば80年代後半に活躍した「カストロールトムススープラ」イメージのレストモッドも期待したい。

そうそう、東京オートサロンと言えば、オートバックスの「A PIT AUTOBACS」ブースに出展されたガライヤEVは、トムスが制作を手掛けたものだそう。100年に一度と言われる変革の時を迎えている自動車業界ですが、それはカスタムやチューニングといったアフターの分野にも、新たなステップへの挑戦を促しているようです。

来たる3月16日(土)には、TOM'S、ARTA MEGHACICS、Central20の三社が史上初のコラボイベントを開催、コンプリートカーの体験会を行います。それぞれに個性的な最新作を見て、触れて、乗ってみて今、どんな変化が起き始めているのかを実感できる、ちょうど良い機会になりそうです。(写真:トムス/モーターマガジン社)

トムス レストア サービスメニュー

■レストア
上質な中古車を選定し、独自の基準により、車両状態に合わせてリフレッシュレベルからライトレストア、フルレストア施工にて修復するサービス。例えばボティー、内外装の修復(交換・板金・全塗装・状態によりホワイトボディー化)またエンジン含む機能パーツについても状態に合わせて機能を修復、ベース車両のパーツは新品交換また十分に使用可能な場合はメンテナンス後再使用し、旧車でも安心して走行できるコンプリートカーとして販売。
■レストモッド
レストアの施工に加え、現代の法規対応や技術を用いて安全性の向上と機能パーツのクレードアップとしてコンプリートカー専用パーツ(エアロパーツ、足回り、マフラー、ブレーキなど)のトムスブランドでカスタマイズし、パフォーマンスを向上させた、特別なコンプリートカーとして販売。
■パートレストア&ヘリテージパーツ
エンジンのオーバーホール(OH)に加え、パート別の補修や再生、専用パーツの復刻販売を行うサービス。トヨタ車でのレース経験&ノウハウを最大限に活かすレストアプラン。

株式会社トムス 公式ホームページ https://www.tomsracing.co.jp/

[TOM’S・ARTA MECHANICS・Central20 THE SUMMIT 3社合同試乗会-]

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