デジタルを使わずに核実験の視覚化に挑戦!『オッペンハイマー』に見るノーラン組の並々ならぬこだわり

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第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞を含む最多7部門受賞に輝いた最新作『オッペンハイマー』が間もなく公開になる映画監督クリストファー・ノーランは、CGの力を可能な限り借りず、実物を撮影することで知られている。ホイテ・ヴァン・ホイテマが撮影賞に輝いた本作でも数々の場面がアナログな方法で撮影され、スタッフはロケ地を探すだけでなく、“撮影方法を考える”ところから制作を始めた。

かつてノーラン監督は『ダークナイト ライジング』で核爆弾が爆発するシーンを登場させている。そのときはCGが使用されたが、本作に登場する“トリニティ実験”のシーンは最初からデジタルを使用しないで撮影しようと決めていたという。

「初めから私たちは、トリニティ実験の撮影方法を考え出すのが肝になると知っていた。CGでは、トリニティ実験のような現実の出来事の実際のフッテージを観たときのような恐怖を観客に与えることができないと分かっていた。あのフッテージには本能的な感覚がある。触覚的なもので、恐怖だけでなく畏怖のような感覚もあるんだ。だからこれは挑戦だった」

そこで『インターステラー』『TENET テネット』にも参加した特殊効果のスーパーバイザー、スコット・フィッシャーと、『TENET』に続いて参加するアンドリュー・ジャクソンは、スタッフと共に“デジタルを使わない撮影方法”を挑むことになった。

彼らは撮影前に様々な実験を行なった。ピンポン玉をぶつけ、ペンキを壁にぶつけ、発光マグネシウム溶液を作成し、それらを距離やフレームレートを変えながら撮影してみる。最終的な視覚効果は400以上の要素を複雑に組み合わせて作り上げられたが、“どうやって撮影されたのか?”については秘密のままだ。

中にはどう考えても撮影が複雑になるであろうシーンもあった。たとえば原子核内で動き続ける素粒子を描くシーンだ。しかし、それらは絶対に描かれる必要があった。ジャクソンは振り返る。

「原子核内で絶え間なく動く素粒子を描かねばなりませんでしたが、それはオッペンハイマーの複雑な精神状態を表現するために絶対に必要だったのです。あの当時は素粒子の動きの完全な理解はありませんでしたから、それを正確に描き出すことはできません。かといって、解説用のコンピュータ画像も、私たちが望んだ深みには達しません。

だから間を取って、ノーランの脚本と、オッペンハイマーの複雑な内面からアイデアを受けて、芸術的に解釈された素粒子の視覚化を試みました」

本作で描かれる恐ろしい光、炎、その内部で動き続ける素粒子は、実験の成果でも、歴史の再現でもない。すべてが主人公オッペンハイマーのドラマと深く結びついている。そして、それらはすべてが“実物”である必要があったのだ。

本作ではどんな映像が大スクリーンに描き出されるのだろうか? まだ誰も観たことのない“新たなイメージ”の出現に期待したい。

『オッペンハイマー』
3月29日(金)公開
公式サイト

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