“宇宙船地球号”を次世代へ 独自の微生物培養土壌で“超循環社会”目指す

Day2 プレナリー

西田宏平・TOWING 代表取締役 CEO
西田亮也・同 取締役 CTO

西田宏平氏、西田亮也氏は“宇宙船地球号”という言葉を使って未来の農業への希望を語った。両氏は兄弟で、共に創業したスタートアップ、TOWING(トーイング)では、NASAが計画する月面基地で食糧生産を行うユニットの開発を手掛け、その技術を活用して、地球での持続可能な農業を実現するための土壌づくりを行う。宇宙と地球の両方を見据えて掲げるミッションは“サステナブルな次世代農業を起点とする超循環社会の実現”だ。

西田宏平氏

講演の冒頭、宏平氏は「月面基地を作るのに何が必要でしょう?」と問いかけた。空気、水、次に食べ物と答えを挙げた後、しかし月への輸送には「1キログラム1億円」というコストがかかることを説明し、「できるだけ現地のものを使う必要がある」と話をつないだ。

では月で植物を栽培するにはどうすれば良いのか。「実は氷があることが分かった。窒素、炭素もある」。しかしそれらが存在するだけでは植物はできない。「地球だと、たとえば窒素、アミノ酸、タンパク質、動物の死骸は土壌の微生物が分解して植物が吸収できる形に変えてくれる」と宏平氏。月の砂には微生物が存在しないとされているので、月で農業をするには微生物が住める人工土壌が必要になる。

このため、TOWINGでは、人口的に再現した月の砂に、地球上の微生物を設計して付加した土壌を作る、世界初の技術によるプロジェクトを進行中で、2年前にはこの土と有機肥料を使って植物の栽培に成功したことなどが宏平氏から報告された。

西田亮也氏

続いて亮也氏が「宇宙ではエネルギーや物質を循環させながら食べ物を作ることが求められているが、それは地球でも同じであり、より難しい課題が存在する」と地球上の問題に引き寄せて説明。20世紀に起きた“緑の革命”と呼ばれる農業の近代化によって、それまでとは桁違いに多くの人口を支えることができるようになった半面、化成肥料などを多く用いるその手法に2つの限界が生じていることを指摘した。

1つ目は「資源」の限界だ。植物には窒素、リン酸、カリウムという3つの主要な元素があるが、リン鉱石はあと100~300年でなくなるし、化石燃料由来の窒素はコストアップが続いている。既に、中東やアフリカでは化成肥料の調達ができずに飢餓につながった例もある。2つ目は「環境の限界」で、食関係のプラネタリーバウンダリーは大きく崩れ、窒素とリンの一方通行が土壌汚染、水域の富栄養化を引き起こしている。世界の全産業のGHG排出量のうち12%は農業由来のものだ。スクリーンには次々と近代農業の限界を示すデータが映し出された。

では有機農業に切り替えればいいのかというと、必ずしもそうではない。亮也氏は、慣行農業に比べて有機農業が20~34%の収量減となるメタ分析を紹介し、現行の有機農業では人口を賄えない可能性を説明。その上で、 “サステナブルな次世代農業を起点とする超循環社会の実現”をミッションに掲げるTOWINGの事業が解決策の一つとなり得ることを示唆した。

TOWINGが開発する土壌改良剤は、地域の未利用バイオマスで作った炭に独自の技術で微生物を培養したもので、有機肥料と合わせて使用することで収量をアップすることができる。また従来は3〜5年、場合によっては10年かかることもある土づくりを1カ月で達成することも可能だという。

GHGの削減に関しては、「地域の未利用バイオマスを炭に変え、それを土に返してあげることで炭素を固定することができる」。亮也氏によると、土壌を中心とした循環型社会を実現しようという流れは今、世界で盛り上がっているという。

「月面基地を展開して人々の生活圏を拡大していくために、宇宙船地球号を次の世代につなげていくために、次世代の『緑の革命』を起こすべくアクションを起こし続けたい」。そう締めくくり、兄弟で笑顔を見せた。(依光隆明)

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