ヨーロッパ企画・上田誠が手掛ける舞台で主演に大抜擢! 俳優・中川大輔の挑戦

『八月の御所グラウンド』で第170回直木賞を受賞した万城目学のデビュー作である『鴨川ホルモー』。“ホルモー”と呼ばれる謎の競技をめぐる京大生たちの青春群像劇が、ヨーロッパ企画・上田誠の脚本・演出により舞台化する。

主人公の安倍役で主演を務めるのは俳優・モデルの中川大輔。メンズノンノの専属モデルとしてデビュー後、『仮面ライダーゼロワン』や『連続テレビ小説 舞いあがれ!』に出演するなど、俳優として目覚ましい活躍を見せる。今作が初主演だという中川に初主演舞台への想い、俳優としての現在地を聞いた。

どうなるのか今から楽しみです!

――中川さんにご登場いただくのは今回で3回目。最初の取材では趣味の「ラジオを聴くこと」についてお話しいただきましたが、今も変わらずラジオがお好きなようですね。

中川 ラジオはずっと聴いてますね(笑)。今まではお笑い芸人さんのラジオが大好きで聴いていたんですけど、最近は『コテンラジオ』っていう、歴史をひたすらずっと話してるラジオもよく聴いてます。

――そんなラジオがあるんですね!

中川 ポッドキャストのランキングで毎回上位に入るような番組で、歴史好きの2人と、歴史を全く知らない1人の3人で歴史の話をするんですけど、それが本当に面白くて。毎回、歴史上の偉人を1人テーマに選んで、そのことについてひたすらずっと喋り続けるんです。話す内容もすごく深いんですよ。毎回、何十冊も本を読んでノートにまとめて、まとめた内容をラジオで話されていて。ベッドで横になりながら聴き入ってます。

――歴史がお好きなんですか?

中川 特に日本史が好きで、一人で鹿児島とか、高知とかに史跡巡りするぐらい。でも『コテンラジオ』のテーマは世界史が多いので、名前は知ってるけれど何をした人だっけ? という人のことを話したりすることが多いので勉強にもなりますし、すごく面白いです。

――そんなラジオ好きな中川さんですが、ニッポン放送開局70周年記念の舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』で初主演を務められるということで、おめでとうございます!

中川 ありがとうございます! 本当に光栄です。思ってもみなかったことなので、“こんなこと起こるんだ……”って衝撃を受けましたね。舞台をやれるといいなと思っていたタイミングで、このお話をいただいたのでびっくりしました。

――それもヨーロッパ企画の上田さんが、脚本・演出を手掛けるということで。

中川 ヨーロッパ企画さんの舞台には、いつか出たいと思っていたんです。以前、同じメンズノンノモデルの(鈴木)仁に「よかったら観に来てよ」って誘われて、『たぶんこれ銀河鉄道の夜』を観に行ったことがあって、それがすごく面白くて。それに仁がその現場と作品が好きなんだろうなと、とても感じたんです。いつもとは違う雰囲気の仁を見て、人が変わるぐらい楽しい劇団なのかと、僕もどうなるのか今から楽しみです!

――今回は原作の『鴨川ホルモー』『ホルモー六景』をもとにストーリーが構成されるということですが、原作についてはどういうイメージを持ちましたか?

中川 歴史のロマンも詰まっていますし、“ホルモー”が実際にあるんじゃないかと思わせるような、現実とファンタジーがギリギリのラインにある怪しい感じがワクワクさせて、純粋に面白かったです。著者の万城目さんが本当にその光景を目の当たりにしてたんじゃないかって思いました(笑)。この奇妙さを舞台にどう活かせるかを考えていて、リアリティーを持って演じることで、僕が原作を読んで感じた“これ本当にあるのかな?”という部分が皆さんに伝わればいいなと思っています。

原作とはまた違う姿が見られる気がします

――演じる安倍はどんな人物でしょうか?

中川 かなりひねくれた人ですよね(笑)。京大に入れる頭の良さは持っていて、でも物事を見る視点がちょっと変わってる。このひねくれた人間性をどうすれば表現できるか……すごく難しそうだなと思っています。

僕自身は京大に入れるほど頭脳明晰ではないし、そこまでひねくれていないと思うので(笑)、安倍の人物像だったり、考え方だったりを想像することは難しいですが、それこそヨーロッパ企画の皆さんは頭脳明晰ですし、ちょっとひねくれたことに対しても、たくさんの引き出しを持っている方々だと思うので、“この人たちを参考にしたら安倍に近づけるんじゃないか”と気づいて(笑)。

――思わぬところにヒントがあったんですね(笑)。

中川 はい(笑)。特に上田さんは視点がすごく鋭いじゃないですか。そこは原作者の万城目さんとも通じるところがあって、参考にできたらいいなと。あとは『鴨川ホルモー』は映画にもなっていて、映画版の山田孝之さんが演じる安倍の人間不信な感じもうまく取り入れて、自分なりの安倍を表現できればと思います。

――ちなみに、中川さんの学生時代はどうでしたか?

中川 学生生活はちょっと安倍と似ているかも。別にクラスの人気者でもなかったですし、イケてるグループにも属していなかったですし(笑)。めちゃくちゃ面白いヤツもいて、見るからにケンカが強そうなヤツもいて。そういう人たちに対して“僕は全然目立てていないな”って、ちょっと引け目を感じていたぐらいでした(笑)。そういう部分は安倍と共通する感覚だと思います。

――原作のなかで“ここはどう表現するんだろう?”って、気になるシーンはありますか?

中川 原作では“吉田代替わりの儀”といって、神社に舞を奉納するようなシーンがあるんですけど、そのときに全裸になるまで服を脱いでいくんですよ。そこはどうするのかと上田さんに聞いたら、「できるだけ原作通りにする」って仰っていたので不安です(笑)。

――ヒロイン・早良京子を演じられる八木莉可子さんとは初共演ということですが、八木さんはどんな印象ですか?

中川 八木さんはご一緒する前から作品を見ていて知っていて、すごい純粋そうで芯がある人だなと思っていました。初めてお会いしたときもそれを感じて、早良っていう役にぴったりだなと感じました。今作でのヒロインの立ち位置だったり、関係性だったり、そういうところは“ワンスモア”ということなので、早良の良いところも出てきたり、原作とはまた違う姿が見られる気がするので楽しみです。

――原作とは違うけど面白い、そこがヨーロッパ企画の魅力でもありますよね。

中川 そうなんです。例えば、原作では京大以外の他大学の人物描写が深く描かれているわけではないので、舞台ではその役の自由度が高くなってキャストの皆さんの個性が爆発しそう(笑)。今回の舞台では、演じる役的にも僕はあまり笑わないほうがいいと思っているんですけど、こらえられるか不安です(笑)。ヨーロッパ企画さんの舞台で笑わないのは逆に失礼かもしれないですけど、できるだけ我慢したいと思います!

この舞台のためだけに全力を出す期間にしたい

――現在の俳優活動についてお聞きしたいのですが、俳優としてデビューしてから現在まで、さまざまなジャンルの作品に出演されていて、そのなかで物語の重要な役を演じることも増えてきたわけですが、役を演じるうえで大事にしていることはありますか?

中川 演じる役の人物像だったり、背景だったりを自分の中で太くしていくことを大切にしています。

――太く、というのは?

中川 例えば、今回演じる安倍だとしたら、彼はさだまさしさんが好きだから僕もさだまさしさんの曲を聴いてみるとか、鼻フェチだから人の鼻に注目してみるとか、そういうセリフを覚えたりとかと比べると直接的には関係ない作業かもしれないけど、役の空気感とか、自分が五感で感じ取ったものをちょっとずつ体に蓄積させていく、みたいな感じですね。

ありがたいことに、ちょっとずつ演じる番手が上がってきて、作品に長く携わる機会が増えてきたことで、それまでのシーンごとに役の気持ちを考えて演じる方法だと、自分の中で役がすり減っていく感覚があって。これではダメだと思って、今は役にやんわりと近づいていくような役作りというか、人物像や背景を太くするようにしています。

――舞台での演技はドラマや映画とは異なる部分があると思いますが、舞台で演じるうえで意識していることはありますか?

中川 今は舞台での演技を意識してレッスンだったり、ワークショップを受けたりしているんですけど、そこでちょっと苦手な部分が見つかったんです。本来なら自然と相手役に向かって喋りたいんですけど、舞台ではまっすぐ相手役の方を向いてしまうと、客席から顔が見えなくなってしまうので、少し斜めに、お客さん側に向けてセリフを発しなきゃいけないんです。そういう、1つのことをしながらもう1つのことに意識を向けるっていうのがちょっと苦手なので、そこは意識的に練習しています。

――声の出し方も違ったりしますよね。

中川 そうですね。今回演じる安倍は、ぐちぐちと小言を言うような役なので、それでいてセリフを遠くまで届けなきゃいけない。僕自身、ただでさえ通る声ではないので、安倍を表現できてお客さんにも届く、ちょうどいい声を稽古期間に探していきたいです。

――主演舞台を無事完走した暁には、どんなふうに俳優の道を進んで行きたいですか?

中川 今回、舞台で初めて主演を務めさせていただくので、この勢いに乗ってドラマや映画でも主演をできるような俳優になりたいと思っています!

――目標の方はいますか?

中川 僕が良いなと思う方は、松下洸平さん、中村倫也さん。お二方が演じているような、優しさで相手役を包み込むような役を、同じ年齢になったときに任されるような役者でいたいです。

――最後に、主演舞台への意気込みを聞かせてください。

中川 今回の舞台では、ヨーロッパ企画さんというお笑いの猛者たちのなかに入っていくので、もう全力でやるしかないなって、シンプルにそれだけを考えています。この舞台のためだけに寝て、ご飯を食べて、稽古場に行って、全力を出してっていう、そういう期間にしたいです!

舞台なので日によって全く違うシーンになることもあると思うんですけど、そういう生の笑いがヨーロッパ企画さんの魅力だと思います。僕自身も、ヨーロッパ企画さんの舞台を一人で観に行ったのに、いつの間にか声を出して笑っちゃってたりした経験があって、今回もそういう舞台にしたいと思いますので、ぜひ笑いに来てください!


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