『相棒』右京の魅力が詰まった最終回SP これまでと違う周りを巻き込む新しい“相棒”の形

ベテラン政治学者の乙部(佐戸井けん太)が未成年に襲われる事件と、その事件のきっかけとなった乙部が政権批判をした討論番組のプロデューサーが殺害された事件を捜査している右京(水谷豊)と亀山(寺脇康文)。事件の裏には法務大臣、内閣官房長官、特捜部長の影が見え隠れしており、政界の闇が関係しているようだ。半年間続いた『相棒 season22』(テレビ朝日系)がついに最終回を迎えた。

「警視庁の名探偵」を名乗る右京が、「一連の事件の黒幕は武智内閣官房長官(金田明夫)に違いない」と断言した動画が拡散され、波紋を呼んでいた。右京自身は「身に覚えがない」と否認し、「生成AIによるディープフェイク動画だろう」と話してしたが、警視庁上層部から謹慎を言い渡されてしまう。亀山は、右京の潔白を証明しようと奔走するが、状況は好転する気配すらなかった。そうこうするうち、殺害されたプロデューサーのスマホに、下川元法務大臣(黒谷友香)からの着信履歴が残っていたことが判明。警察は下川に疑惑の目を向ける。

一方、下川が指揮権を発動したことで特捜部長の尾上 (甲本雅裕)は、左遷の憂き目に遭っていた。そんな中、“謹慎中”の右京は、乙部を襲撃して勾留中の少年や下川の夫にアプローチし、背後関係に迫ろうとしていた。同じ頃、亀山は、右京のフェイク動画が社(仲間由紀恵)を室長とする内閣情報調査室から発信されたという驚きの情報を耳にしていた。それぞれの思惑が交錯する中、一連の事件の核心に迫る“右京の動画”が再び発信される。

『season22』は右京と亀山がほとんど一緒に捜査を行い、どちらかが大きな活躍を見せるような、いわゆる“右京回”、“亀山回”というのが少なかった印象があった。ちょっと物足りなさを感じていたところに、これでもかとそれぞれの魅力を詰め込んできたのが最終回である。

通常、右京が受けた謹慎処分というのは、悪い行いをした罰、また、その償いとして家に閉じこもったり、行動に気をつけたりすることだ。だが、彼にとって謹慎とは、何も気にせず自由に動き回ることができるということ。犯人からの「警視庁の名探偵」というキャッチフレーズを気に入ったらしい右京は、シャーロック・ホームズを思わせる服を身に纏い、生き生きと捜査を進めていた。

最初の頃は、ひとり捜査なんてさせられなかった亀山も大活躍。もともと亀山は人の懐に入り込むなどして、情報を得るのが得意なのだが、いつも冷静な右京の隣にいると「ただの熱血漢」として周囲から思われがちだ。社も、フェイク動画が内閣情報調査室から発信されたと知り、話を聞きにきた亀山に「亀山さんに簡単に意図を見透かされたら内調もおしまいですよ」と笑っていた。でも実は、亀山が社を訪問したのには訳があったのだ。“謹慎中”の右京は亀山から内部の情報を得ていたのである。これには社だけではなく、角田課長(山西惇)までもが騙されていた。「僕には亀山くんがいますから」「持つべき者はよき“相棒”です」という右京の言葉に、これまでふたりが過ごしてきた長い年月と絆が表れており、グッときてしまった。

一方、『season22』で特徴的だったのが右京と亀山が周りを巻き込み、チームで事件を解決するケースが多かったこと。今回も伊丹(川原和久)、芹沢(山中崇史)、出雲(篠原ゆき子)の「トリオ・ザ・捜一」、右京にも“はじっち”と呼ばれて信頼されている土師(松嶋亮太)、そしていつも「暇か~?」と特命係のところにやってくる角田課長までもが右京と亀山の捜査に協力。そうして武智や下川、尾上ら、多くの人の、複雑に絡み合った思惑を一つひとつ明らかにしていったのだ。『相棒』には、右京と亀山2人だけでなく、彼らも、もはや欠かせない存在なのである。“チーム相棒”はこれまでとは違った、また新しい“相棒”の形と言えるのではないだろうか。

無事、事件を解決したが、独特なフェイク動画が世間に広まり、有名人となってしまった右京。道端を少し歩いているだけで一般人にカメラを向けられるようになってしまった。それでも「みんなすぐ忘れます」と動じていない。いつもの右京といえばその通りだが、その言葉は情報過多を超えて情報の洪水のようになってしまっている現代を表した一言にも聞こえる。最後の最後に耳の痛いお言葉である。でも右京や亀山のことはすぐには忘れらない。おふたりともまた会う日まで、どうかお元気で。

(文=久保田ひかる)

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