簡単、安い、早い「オーダースーツ」復活の兆し 各社に特色「まんまパジャマ」「健康スーツ」...最新スーツ事情は

ビジネスシーンでのファッションといえば、ここ最近はビジネスカジュアルも好まれていたが、いま紳士服のスーツが復活しつつあるようだ。

帝国データバンクが2024年3月11日に発表した「上場『スーツ・紳士服7社』動向調査」によると、「オーダースーツ」の売れ行きが好調だという。最新スーツ事情を調査担当者に聞いた。

超老舗「麻布テーラー」を買収した「洋服の青山」

帝国データバンクの調査は、上場する紳士服関連企業7社が対象だ。「青山商事」(広島県福山市)、「コナカ」(横浜市戸塚区)、「AOKIホールディングス」(横浜市都筑区)、「はるやまホールディングス」(岡山県岡山市)、「グローバルスタイル」(大阪市中央区)、「タカキュー」(東京都板橋区)、「銀座山形屋」(東京都中央区)の7社である。

7社の2023年度業績をみると、スーツ事業の売上高合計は前年度比約4%増の3600億円に上る見通しだ。営業利益合計も5年ぶりに100億円を超えるとみられる。店舗数は2023年度末時点で2300店舗前後になるとみられ、コロナ前で最も多かった2017年度末(2997店)の8割前後まで縮小する【図表1】。

(図表1)上場紳士服7社のスーツ事業の売上高合計(帝国データバンク作成)

背景として、コロナ禍に行った大規模な店舗整理が影響した。そして、コロナ前に比べると、スーツ需要が回復の兆しが見えてきた。また、冠婚葬祭向け礼服需要の回復したことと、オーダースーツの人気が高まり、「ビジカジ」(ビジネスカジュアル)ウェアの販売拡大が各社の業績アップを後押しした。

◆「洋服の青山」「コナカ」「AOKI」「はるやま」...各社の特色は

業界首位で「洋服の青山」を展開する青山商事は、自社のオーダースーツブランド「Quality Order SHITATE(したて)」を全店舗に導入した。仕立てのノウハウを吸収しようと、2022年には老舗「麻布テーラー」を買収している。「麻布テーラー」は、1964年の東京五輪日本選手団のブレザーを手がけたほどの名門中の名門だ【図表2】。

(図表2)主要4社は2023年度で増収を確保(帝国データバンク作成)

2位の「コナカ」もオーダースーツブランド「DIFFRENCE(ディファレンス)」を立ち上げた。こちらは実店舗とEC(電子商取引)やアプリとの融合だ。ショップで直接に注文したり、家で家族と一緒にアプリ画像の中から自分にフィットした1着を選んだりできる。

3位の「AOKI」は高価格帯の「金のスーツ」が好調なほか、文字通りパジャマ感覚で着られる「パジャマスーツ」も人気だ。こちらはパジャマのようにリラックスできるうえ、洗濯機で洗うことできる。

4位の「はるやま」は「健康」をテーマに他社との差別化を図る。完全ノーアイロン「ishirt(アイシャツ)」がヒット。衣服圧を感じさせない「ストレスフリースーツ」や、着て動くとカロリー消費を促す燃焼系ビジネスウェア「スラテクノスーツ」を出している【図表2】。

デジタル画面でオーダースーツを選べる

J‐CASTニュースBiz編集部は調査を担当した帝国データバンク情報統括部の飯島大介さんに話を聞いた。

――ズバリ、スーツが復活してきた理由は何でしょうか。特にオーダースーツは、かつて団塊世代が最大のボリューム市場といわれましたが、若い人の間にも増えてきたのはなぜですか。

飯島大介さん コロナが収まってきて、リアルな出社を取り戻したからです。対面で人と会う機会も増えました。やはり、ラフな格好ではまずいということでしょう。

現在、オーダースーツは気軽に作れるようになっています。団塊世代が作ったような採寸して型紙をつくり、素材選びまで念入りに行う「フルオーダー」よりも「パターンオーダー」が中心です。こちらはサンプルのつるし(既製服)をもとに自分のサイズに合わせてウェストを少し絞り、袖を詰めるといった調整を加えるもので、簡単に、安く、早く作れます。

――団塊世代の私が30年ほど前、「管理職になったから、恥ずかしくないスーツを」と、銀座山形屋で採寸して作った時は1か月以上待って、店に取りに行ったものでしたが。

飯島大介さん 「パターンオーダー」なら1、2週間ほどですね。青山商事では「デジタル・ラボ」方式を使っています。店内にタッチパネル式のデジタルサイネージ(電子看板)が置いてあり、さまざまなスーツを「試着」した自分を見ることができます。

店側は店舗に商品がなくても、客に「試着」させられますから、在庫スペースを大幅に削減できます。素材の布のサンプルとデジタルサイネージだけがあれば、店舗の運営ができるほどです。

しかも、デジタル・ラボで購入したスーツはオンラインシステムの販売ルートに乗るので、客は店に取りに行く必要もありません。

まるっきりパジャマのスーツ、どこで着る?

――なんか味気ないですね。昔、「銀座山形屋」にできあがったスーツを取りに行った時は、店員さんとの会話が弾んだものですが。

飯島大介さん 店員との会話といえば、オーダースーツブランド「ディファレンス」を展開している「コナカ」の場合は、人気がありすぎてお客と対応できる店員が不足し、出荷が追いつかない状態だと聞いています。

オーダースーツの作成には知識やスキルが必要ですから、人材の育成が間に合わないようですね。嬉しい悲鳴といったところでしょうか。

――家で洗濯できて、まるっきりパジャマと同じ感覚で着られるという「AOKI」の「パジャマスーツ」ですが、どういう層がそのようなスーツを着るのでしょうか。

飯島大介さん まさに、いまブームの「ビジカジ」(ビジネスカジュアル)の代表的と言えるスーツです。たとえば、ベンチャーやIT企業の社員で、普段はスーツを着ない人でも、これ1着オフィスに置いておけば、突然の来客との打ち合わせや、重大な会議への外出の時も間に合うというスーツです。

また、汗をかきやすい夏場にも便利だし、雰囲気をちょっと替えたい時にジャケットとして羽織る使い方もできます。「AOKI」の場合は、今年(2024年)1月にジャケットを着る女性を応援する「ジャケジョ研究所」をスタートさせました。紳士服だけでなく、女性ウェアの商品開拓にも乗り出しています。

――そんななか、「はるやま」が独自に貫いている「健康路線」とはどういうものでしょうか。

飯島大介さん 「はるやま」はウェブサイトでも「はるやまは、スーツで日本を健康にします。」をスローガンにしている会社です。

もともとは、肌に触れてもストレスのない、ノーアイロンのワイシャツ「アイシャツ」からスタートして、動きやすいスーツの「アイスーツ」を出しています。伸縮性に優れた素材にこだわり、ストレッチ性に富んでいて、「着用中のリラックス効果が従来のスーツの2倍以上」と銘打っています。

ここぞという時の「勝負服」に1着

――各社、個性が豊かですが、今後のビジネススーツの展開はどうなるでしょうか。

飯島大介さん 若い世代が減っていますから、正直、昔のような勢いを取り戻すのは厳しいでしょう。在宅ワークが広がっていますし、スーツを廃止する企業も増えています。「スーツ文化」自体がなくなりつつあります。

その一方で、オーダースーツを持つ人が増えているのは、スーツの価値が変わってきているからだという気がします。スーツは何着も持つものではなくなり、1着、ここぞという時のための「勝負服」として身につける意味合いになってきました。

オーダースーツの敷居がものすごく低くなっています。自分のための1着とはどんなものか、気軽に一度試してみてはいかがでしょうか。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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