「話し方」本を読んで勉強したのに...なぜか残念? そんな人に必要な「考え方」。

ちゃんと考えて話しているつもりなのに、相手になかなか伝わらないこと、ありませんか。しかし「どれだけ考えても、伝わらなければ、考えたことにならない」と、『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)の著者・安達裕哉さんは言います。

本書には、話す前に意識するだけで「知性」と「信頼」を同時に獲得できる「7つの黄金法則」「5つの思考法」が書かれています。話がうまく伝わらない原因を、本書より一部抜粋してご紹介します(第2回/全3回)。

「話し方」だけうまくなるな

■話し方で心は動かない

問題4

「好きです。付き合ってください」
「ごめんなさい」

あなたの友人が、好きな人にこのように告白して、
フラれてしまったとします。
友人がフラれた原因は、どちらにあるでしょう?

1 告白の仕方にある
2 告白するまでにある

よほどのことがない限り、答えは2でしょう。

にもかかわらず、「告白の仕方が悪かったんだ」と思い、必死に、「上手な告白の仕方」や「ラブレターの上手な書き方」を学んでる人がたくさんいます。

想いが強いほど、「自分の想いを伝えたい!」と必死になる気持ちはわかります。

しかし、ロマンチックな告白や感動的なラブレターを書いても、答えは

「ごめんなさい」

のままだと思いませんか。

素敵な告白をして、「ありがとう、気持ちは嬉しいです」とか「あなたが悪いわけではない」というフォローが加わる可能性はあります。

ただ、仮に想いが伝わったとしても、相手の心は動かない。結果は変わらない。

■型を覚えれば伝わるのか?

このように、恋愛にたとえると多くの人が納得してくれるのですが、恋愛以外になると、とりわけビジネスシーンにおいては、

"なぜ伝わらないんだろう"

と告白の仕方、つまり「話し方」を一生懸命良くしようとしている人が少なくありません。

書店のビジネス書コーナーには、たくさんの話し方本が並んでいます。真面目な人ほど、これらの話し方の本を読んで、話し方を変えようとします。

私も、話し方や雑談力、説明力の本を買って読みましたが、これらの多くには"型"や"ルール" が載っています。

この型に当てはめるだけで、伝わりそうな気がします。

オシャレな言い回し、頭のよさそうな説明ができます。同じ内容でも話し方を変えるだけで伝わりそうな気がする......。

でも、実際にやってみると、伝わらない......。

仮に伝わっても、心は動かない......。

ということがよく起こります。

型に当てはめると、ちゃんと考えたような気になります。

しかし本当のところは、型に当てはめるだけでは考えたことにならないのです。

"型に当てはめるだけで伝わるようになる"という謳い文句は、"型に当てはめるだけでいいので、考える手間が省けます"という意味だと思っていいでしょう。

■真面目な人ほどハマる「テクニックのジレンマ」

近年、口がうまいだけでは、通用しなくなったとつくづく思います。

中身のない政治家の発言はSNSで嘲笑され、「何か言っているようで、何も言っていない」とネタにされてしまいます。

一昔前なら表に出なかった、芸能人や企業幹部の失言も目立つようになりました。小さな講演会のジョークのつもりで言ったひと言が、SNSで瞬く間に拡散され、謝罪する羽目になる。そんなシーンをニュースなどで見たことがあるでしょう。

炎上しているのを見て、「なんでそんなことを言っちゃったんだろう?」と思った人もいるかもしれません。人間は常に緊張感を保つことは難しいので、どれだけ気をつけて話そうと思っても、考えていることが露呈してしまう瞬間があります。それがSNSによって拡散され、我々の目に入るようになったのです。

ビジネスもプライベートも、だれかと長期的な関係を築くには、信頼感が不可欠です。社会人になって求められる頭のよさは、信頼を伴う頭のよさなのです。

私も新人のとき、周りから、賢く思われようと、必死で賢いふりをしていた時期がありました。正確には、賢いふりと賢いふるまいの違いもよくわからず、必死でした。

しかし、あるときクライアントからこう言われたのです。「安達さん、そういうのはいいからさ、ごまかさないではっきり言ってよ」と。

賢いふりをすればするほど、残念ながら、バカに見えてしまいます。誤魔化せたと思っているのは本人だけで、とくに頭のいい人には、すぐに見破られます。話し方だけでは、信頼を得ることはできないのです。

これはのちに気づいたことですが、テクニックに頼ることで陥ってしまう「ジレンマ」にこのときの私はハマりかけていました。

たとえば、話し方や会話、聞き方の本でよく書かれているのは、「オウム返し」のテクニックです。これは、相手に「話を聞いている」「共感している」ことを示す、とても大事なテクニックです。

しかし、想像してみてください。そのつどオウム返しをされるとどう感じるでしょうか?

この人、ちゃんと話聞いているかな? 私をバカにしているのか?

と思うのではないでしょうか。

話を聞いていると示そうとしたのに、逆に「聞いてない」と疑われてしまう。賢いと思われようとして、逆に、バカに見えてしまう。これが真面目な人ほど、陥りがちなテクニックのジレンマなのです。

繰り返しになりますが、話す前にちゃんと考えるということは、型に当てはめることでも、テクニックで賢いふりをすることでもないのです。

とはいえ、型に頼りたくなるときもあるでしょう。大事なのは、「型」はあくまで、考える"きっかけ"ととらえることです。型に当てはめて、自分の考えの欠点に気づくことができれば、より思考を深めることができます。

そして、相手に伝わらなければ、話し方が悪かったのではなく、考えが浅かったと考える。

これが、実際に頭がいい人のマインドであり、思考の質を高めるポイントです。

黄金法則 その5 伝わらないのは、話し方ではなく考えが足りないせい

■安達裕哉さんプロフィール
あだち・ゆうや/ティネクト株式会社 代表取締役。1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が"本質的でためになる"と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。

画像提供:ダイヤモンド社

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