ウォリアーズの前GMが“ビッグ3誕生”となったトンプソンとグリーンのドラフトを回想「もしあのチームがトレードしていなければ、クレイはいなかった」<DUNKSHOOT>

ゴールデンステイト・ウォリアーズは2010年代以降、3ポイントシュートでNBAに新たなトレンドを持ち込み、バスケットボール界全体に多大な影響を与えたステフィン・カリーを中心とした布陣で大成功を収めた球団として知られている。

のちに“ゲームチェンジャー(変革者)”と呼ばれるカリーが2009年のドラフト全体7位で入団した当時、チームは直近15年間でプレーオフ出場は一度のみと低迷していた。07年以降で初めてプレーオフへと駒を進めたのは、カリーがキャリア4年目の2012-13シーズンのことだ。

2014年にマーク・ジャクソン前HC(ヘッドコーチ)の後任として、現在も指揮を執るスティーブ・カーHCが就任すると、チームは2015年から19年にかけて5年連続でウエスタン・カンファレンスを勝ち上がりNBAファイナルに進出。そのうち15、17、18年にタイトルを勝ち獲ると、22年にもリーグ制覇を成し遂げ、計4度のNBAチャンピオンとなった。

その黄金期を築くうえで不可欠な存在だったのが、GM(ゼネラルマネージャー)を務めたボブ・マイヤーズだ。2011年4月にアシスタントGM兼バスケットボール運営部副代表に就任し、翌12年4月にGMに昇格。その後バスケットボール運営部代表となり、昨年5月末までウォリアーズで舵取り役を担ってきた。
彼がGMを務めた期間、ウォリアーズはFA(フリーエージェント)戦線で将来の殿堂入りが確実なケビン・デュラント(現フェニックス・サンズ)との契約をはじめ、トレードで4度の優勝に貢献したアンドレ・イグダーラなど、チームにフィットする選手たちを獲得。

ただし、カリーとともに現在まで続く“オリジナル・ビッグ3”を形成するクレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンの入団・成長なしにチームの黄金期はなかったはずだ。現地3月13日に公開された地元メディア『95.7 The Game』の番組『The Morning Roast』にゲスト出演したマイヤーズは、2人を指名したドラフトを振り返った。

「あの時、ミルウォーキー(バックス)が10位指名権をサクラメント(キングス)にトレードしていなかったら、ミルウォーキーが10位でクレイを指名していたと思う。そうなれば、彼は他チームへ行ってしまっていた。クレイ・トンプソンはいなかったんだ」

ウォリアーズは2011年のドラフト1巡目11位でトンプソンを指名。翌12年の1巡目7位でウイングのハリソン・バーンズ(現キングス)、30位でセンターのフェスタス・エジーリ、2巡目全体35位でグリーンを指名した。

「もしあのチーム(バックス)がトレードしていなければ、クレイはいなかった。我々のひとつ前にミルウォーキー・バックになっていたんだ」とマイヤーズが回想したように、トレードがなければ、トンプソンを獲得できていなかった可能性が高かったという。 トンプソンの前の10位で指名され、直後の3チーム間トレードでキングスに入団したのはジマー・フレデッテ。ドラフト当時はシュート力のある大学界屈指のガードとして注目されていたものの、NBAキャリア6年で平均6.0点に終わっている。

勝負の世界に“What if…”(もしあの時〇〇だったら…)という“たられば”の話は付き物だが、ウォリアーズがもしかするとトンプソンを指名できていなかったというのは興味深い。この男が入団していなければ、リーグを震撼させたカリーとの“スプラッシュ・ブラザーズ”はもちろん誕生していなかったことになる。

また、グリーンもミシガン州大の4年間でオールラウンダーとして台頭していたものの、NBAのフロントコートでプレーするには198cmのサイズ面がネックとなり、どっちつかずの評価だった。

2012年のドラフト当日をマイヤーズはこう振り返る。

「ドレイモンドについては、30位で我々が指名する時にはどこかのチームが指名していると思っていた。ただ、私たちはフェスタス・エジーリのポジションを必要としていた。当時の我々はドレイモンドよりも前にフェスタスを選んだんだ。彼(エジーリ)と一緒にやってみて、私は彼のことが大好きになったよ」
ところが、2巡目がスタートしてもグリーンは指名されず。結局ウォリアーズは全体35位の指名権で将来のコアメンバーの獲得に成功した。

「ドレイモンドが指名されずにいるとわかった時、私たちは部屋の中で喜んでいたよ。『なんてことだ。我々がドレイモンド・グリーンを獲得できるのか?』とね。我々はラッキーだった。もしどこかのチームが指名していれば、絶対に起こることじゃなかったのだから」

こうしてウォリアーズは、カリーとともに“不動のビッグ3”となる2選手を迎え入れた。トンプソンはルーキーシーズン途中、グリーンはカーHC就任後から先発に定着し、オールスター選手へと成長していった。

その過程で、ジャクソン前HCは早いうちからカリーとトンプソンを “リーグ史上最高のシューティングバックコート”と絶賛し、グリーンについてもルーキーシーズンからローテーション入りさせるなど、その能力を買っていたことも見逃せない。

カリーは14日に36歳を迎え、トンプソンとグリーンもそれぞれ34歳のベテランとなったが、現在もウォリアーズの主力として活躍を続けていることは、NBAにおける最高級のサクセスストーリーと言っていいだろう。

文●秋山裕之(フリーライター)

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