「そこそこ頑張る人」がベスト…“会社が求める人材”と“職場で好まれる人材”が乖離するワケ【同志社大学教授が解説】

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チャレンジ精神溢れる人材を求める企業は多いでしょう。しかし、そのような人は、同僚としてはあまり歓迎されないようで……。本記事では、同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授の太田肇氏による著書『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP研究所)から、調査データから職場の人間関係について解説します。

会社全体のためには「チャレンジ精神あふれる人」が必要だが…

「2022年ウェブ調査」の結果を見てみよう。

[図表1]チャレンジ精神あふれる新人に入ってきてほしいか

まず「自分から新しいことに挑戦するチャレンジ精神にあふれる新人に入ってきてほしいですか?」という質問に対しては、「どちらかというと、そう思う」という回答が70.9%を占める(図表1)。

会社全体のためには、チャレンジ精神のある人が必要だと考えている人が多いのだろう。

[図表2]同僚としてチャレンジする人と調和を大事にする人のどちらを好むか

ところが「同僚として積極的にチャレンジする人と、周りとの調和を大事にする人のどちらを好みますか?」という質問には、「どちらかというと周りとの調和を大事にする人」という回答が68.2%と7割に迫る一方、「どちらかというと積極的にチャレンジする人」は31.8%にとどまる(図表2)。

そこで「どちらかというと周りとの調和を大事にする人」を選択した人に、その理由を述べてもらった。すると、つぎのような回答が返ってきた。

「もめ事を起こしたくないから」(35件)

「面倒を起こしたくないから」(17件)

「楽だから」(16件)

「何となく」(33件)

そのほか「仕事がやりやすい」「付き合いやすい」「楽しく仕事をしたい」「巻き込まれたくない」「空気を乱されたくない」「ストレスを感じない」「付き合いやすい」という回答もそれぞれ複数、計33件あった。

チャレンジする人材を求めるはずが、個々人としては歓迎していない状態

これらの回答は、いずれも個人的な損得や感情を表していると解釈できよう。

要するに回答した456人のうち約3割(29.4%)に当たる134人が、個人的な理由からチャレンジする人を歓迎していないわけである。そして、その大半が相手から受ける迷惑を理由にあげていることがわかる。

会社にとってはチャレンジングな人材が必要だが、同僚としてはあまり歓迎しない。いわゆる「総論賛成、各論反対」なのだ。

「がんばりすぎ」がよくない本当の理由

職場の人間関係に関する有名な古典的研究として知られているのが、「ホーソン研究」「ホーソン実験」である。

アメリカのウェスタン・エレクトリック社ホーソン工場で行われたこの研究(実験)では、職場のなかに制度として定められた公式組織とは別に仲間どうしの非公式な組織が存在し、そのなかで形成される暗黙の規範が生産性を左右していることが明らかになった。

その規範とは、サボってはいけないが、がんばりすぎてもいけないというものだ。だれかがサボると、ほかの仲間の足を引っ張るので迷惑をかける。逆にがんばりすぎても、ほかの人が同じようにがんばらなければならなくなるので迷惑になる。

したがってサボりもがんばりすぎもしない、「そこそこ」の働き方が要求されるわけである。

これはアメリカで行われた研究だが、仕事を進めるうえでも、イデオロギーの面でもいっそう集団主義的な性格が強い日本企業では、暗黙の規範による束縛はいっそう強いと想像される。

太田 肇

同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科

教授

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