2024年興収首位『デューン 砂の惑星PART2』 ティモシー・シャラメの成長に感謝!待望の3作目は12年後!?

『デューン 砂の惑星PART2』© 2023 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

この春、公開が一番待ち遠しかった映画といえば、私にとっては『デューン 砂の惑星PART2』だ。待ち遠しさが高じて『PART1』の特別映像付きIMAX上映に行ってしまったくらいだ。この作品ほど大スクリーンで、砂漠の熱風に包まれて見るのにふさわしい映画はない。

では、2024年3月15日(金)に公開が迫った『PART2』公開を前に、『砂の惑星』前史をざっとおさらいしておこう。

「砂の惑星」映像化の険しい道

原作はフランク・ハーバート(1920-1986)が1965年に発表した「デューン 砂の惑星」(ハヤカワ文庫SF)で、世界中で最も読まれたSF小説の一つと言われる。ハーバートは1985年までにシリーズ6作を書き上げ、翌年他界した。その後シリーズは息子ブライアン・ハーバートとケヴィン・J・アンダースンによって書き継がれている。

ドゥニ・ヴィルヌーヴの映画化はシリーズ1作目「砂の惑星」をPART1とPART2に分けたもの。噂によれば、シリーズ2作目「砂漠の救世主」を『PART3』として映画化する構想があるというが、実現するかどうかは定かではない。

SF小説「砂の惑星」は発表以後、映像化が何度も企てられた。私が知る限り2作ある。最初は『エル・トポ』(1969年)で知られるチリの奇才アレハンドロ・ホドロフスキーで、1975年のこと。その顛末を2013年にフランク・パヴィッチが『ホドロフスキーのDUNE』というとびきり面白いドキュメンタリーにしている。

特撮にダグラス・トランブル、特殊効果にダン・オバノン、セット・デザインにH・R・ギーガー、そしてオーソン・ウェルズ、サルバドール・ダリ、ミック・ジャガーまで出演するという驚きの『砂の惑星』実写映画化は、当然のことながら資金繰りがうまく行いかずに頓挫。ホドロフスキーが関係者に配るために20冊ほど作った分厚い絵コンテ集(作画はフランスのバンド・デシネ作家メビウス)だけが残った。2021年、そのうちの1冊がフランスのクリスティーズで競売にかけられ、266万ユーロ(当時のレートで約3億4千万円)で落札されたという驚きの逸話もある。

続いて、1984年にイタリアの伝説的プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスが『エレファント・マン』(1980年)で世界的な注目を集めたばかりのデヴィッド・リンチを監督にして映画化。こちらは実現し、映画『デューン/砂の惑星』となった。

しかし、大幅にカットされたバージョンで公開されたためか、不評に終わる。私はリンチも主演のカイル・マクラクランも大好きだったので楽しんで見たのだが、原作ファンには物足りなかったかもしれない。その後、アメリカのケーブルTV局<SYFY>によるテレビシリーズ化を経て、今回のヴィルヌーヴによる映画化となる。

前作で首を傾げた人にこそ観てほしい!『PART2』のシンプルな面白さ

ヴィルヌーヴ版『デューン 砂の惑星』1作目のストーリーは、皇帝の命を受け、人の住めない砂の惑星アラキスに、皇帝の企みを知りつつ、レト・アトレイデス公爵(オスカー・アイザック)一行が赴任するところから始まる。それまでアラキスでしか採れない香料(メランジ)の採取を独占し、大儲けしてきたハルコンネン男爵(ステラン・スカルスガルド)は、アラキスを取り戻すために部隊を派遣し、公爵らを皆殺しに。公爵の息子ポール(ティモシー・シャラメ)とその母レディ・ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)は、かろうじて砂漠に逃げ、ポールの予知夢にたびたび登場するチャニ(ゼンデイヤ)と砂漠の民フレーメンに出会うところで終わる。

原作を読んでいないと、レディ・ジェシカが属する女性だけの精神的政治結社ベネ・ゲセリット、シャーロット・ランプリング演じる教母、皇帝との関係がよくわからないまま話が進んでいくので戸惑った人もいたかもしれない。が、ご安心。『PART2』ではフレーメンに受け入れられ、巨大な砂虫サンドワームを乗りこなしてみせたポールが、憎き敵への復讐に乗り出す話が軸になり、ストーリーラインは極シンプル。ハルコンネン男爵の甥っ子フェイド=ラウサ(オースティン・バトラー)との対決など、アクション・シーンも満載で、一応の大団円を迎える。

シャラメのハマりっぷりと成長・続編にも期待

見どころは(原作ファンには申し訳ないが)主人公ポールのティモシー・シャラメにある。『PART1』を見たときに最初に感じたのは、彼がポール役に間に合ってよかったということだった。容姿はもちろん、若さの持つ純粋さがぴったりなのだ。暗い未来を予見しながら、宇宙の運命を背負って生きていく若き貴公子役に、これほど似つかわしい人はいない。その思いは『PART2』を見て、さらに強くなった。前作から3年経って、その3年分の成長がスクリーンにしっかり刻まれていた。

いくらCGが発達しても、人間の肉体の力は何ものにも変え難いと私は思っている。ティモシー、間に合ってくれてありがとう。ヴィルヌーヴも、『PART3』の製作が実現するとしたらティモシーの成長を待ってから、と言っている(ただし、「砂漠の救世主」はポールが帝位について12年後から始まるのが気がかりではある。そんなに待てない!)。

ヴィルヌーヴ版『砂の惑星』には、皮肉なことに、原作が影響を与えた『スター・ウォーズ』(1977年)以後のSF映画、スペース・オペラの影響を強く感じる。また、全体に漂う終末感は、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』(1984年)を連想させる。9.11以後のアラブ社会との問題や、地球温暖化がクローズアップされた今の視点で見ると、また違った側面に気づくはずだ。キッチュでパンクロック的なホドロフスキー版とも、ゴシックロマン的なリンチ版とも違う、優れて同時代的な映画なのだと思う。

ともあれ、怒涛の展開の『デューン 砂の惑星PART2』を(できたらIMAXで)お見逃しなく。

文:齋藤敦子

『デューン 砂の惑星PART2』は2024年3月15日(金)より全国公開

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