中学生の論文、公開へ キバネツノトンボ生態研究 茨城・小美玉の内山さん 分布域に問題提起

キバネツノトンボに関する研究論文を発表する内山旬人さん=小美玉市内

茨城県小美玉市の中学2年生、内山旬人さん(14)が筆頭著者を担ったカゲロウの仲間「キバネツノトンボ」に関する研究論文が今月、公開される。内山さんは4年前から研究を始め、ほとんど知られていなかった生態を調べ、コンクールで受賞を重ねてきた。論文では、キバネツノトンボに精通する「研究者」として、分布域に関する通説に疑問を投げかける。

キバネツノトンボはアミメカゲロウ目ツノトンボ亜科の昆虫で、トンボではなく、ウスバカゲロウ(アリジゴク)の仲間。茨城県を含め分布するが生息地は限られ、東京や埼玉を含む15都府県で絶滅危惧種などに指定されている。

10歳上の兄の影響で昆虫に興味を持った内山さん。兄の背中を追って小学生の時から研究を始めた。2020年春、所属する市民団体「小美玉生物の会」の調査会で、キバネツノトンボの生態や生活史がほとんど解明されていないことに関心を持った。コロナ禍に伴う休校の機会を使い、市内に点在する生息地で成虫の生息期間や食べ物、産卵などを毎日のようにフィールド調査した。翌年以降に数値データを得て調査内容を裏付けていき、21年度の小中学生向け自然科学観察コンクールで文部科学大臣賞を受賞した。

今回の論文では、図鑑で生息地が「本州、九州」とされるものの、九州に生息したことを示す確かな記録が見当たらないことを報告する。図鑑を読みあさった20年、分布域について疑問を持ち調査を開始。九州大をはじめとした全国の大学、博物館に九州産キバネツノトンボの標本の有無などを問い合わせた。

それをきっかけに、北九州市立いのちのたび博物館の蓑島悠介学芸員が、追加調査や論文の執筆、推敲(すいこう)に協力。20世紀初頭まで文献をさかのぼったり、図鑑の監修者や研究者らに聞き取りしたりした。結果として、「九州」の表記が初めて加わったとみられる文献は特定したが、生息の証拠となる九州産の標本は発見されなかった。

内山さんは「100年後に調べようとしても、たどれないかもしれない。今分かったことを論文に残せば、未来の研究の役に立つと思った」と話す。蓑島学芸員は「論文が目指したのは問題提起。読んだ人が『うちに九州産の標本あるよ』と手を挙げてくれるかもしれない。新しい事実が出てくるのか、反応が楽しみ」と期待を込めた。

論文は同館が近く発表し、ネットでも公開される。4月になると、キバネツノトンボの成虫が出現する。研究5年目の今年、内山さんは飼育個体の羽化を目指す。「僕の研究をきっかけに、身近な自然に興味を持つ人が増えてくれたらうれしい」と話している。

キバネツノトンボ=2020年5月、小美玉市内(内山さん提供)

© 株式会社茨城新聞社