ちょっと変だけど、毎日がちょっと豊かになる ― YUの「愛車のある暮らし」#09:シトロエン・アミ8との出会い

私の愛車遍歴において最後に語るクルマは、フランスの隠れた名車「シトロエン・アミ8」。

70’s伝説の女優シトロエンDSさんと人気俳優2CVくんの影に隠れて忘れがちになる個性派俳優アミ6兄さんの弟として、ひっそりと脇役キャラを演じるのがアミ8だ。

うらぶれた深夜の街に響くギャングたちの足音、煙草の煙、モダンジャズ的な暗黒のフレンチ・ノワール映画には、確かにアミ8のルックスはお茶目が過ぎる。どうみても牧歌的なのんびり屋さんタイプだから、監督も使いづらくてどうしようと困っただろう。

そんな妄想はさておき、このアミ8との出会いは2021年初夏。夏本番を前にアルファ・スパイダーのオイル交換をしようと世田谷のコレツィオーネさんを訪れた時だった。お店に入庫してきたばかりと思しきその車は数々の高級車の中で、なんだか申し訳なさそうに一階ガレージにちょこんと停まっていた。動物園で人気者のパンダやライオンの間になぜか配置されてしまった、名もなき珍獣みたいな構図。おそるおそる近寄ってみたら後ろから「これはアミです……」って声が聞こえてきて私のテンションは高まった。「あなた、アミっていうのね⋯⋯!」

(左) 変なクルマ発見!  (右) ロックオン

カワイイ⋯⋯!と、私の目を既にハートマークにさせながら、「アミ、こういう顔、私 好きなんです!」とグイグイとその距離をさらに縮めて覗き込む。ここまで積極的なアプローチをされると思わなかったアミ8は、新手の“段付き”のような、ボンネットが閉まりきっていない半開き状態でボーッとはるか遠くの一点を見据えながら、我々の会話に耳を傾けていた。

ジー。悟りの境地に達した者だけが醸し出すこの表情。

私が予想外に興味を示して騒がしいものだから、整備士さんが私を運転席に座らせ てくれた(子供か)。

中をじっくり見させてもらうと、外からは想像できなかった古き良き70年代のフランスの香りがたっぷりに車内にたちこめているではないか! 彼らフランス人が車に求める在り方は、ディテールや質感など見えるものから、または佇まいやムードなど見えないものなどを通して色濃く表現されている。はぁ、なんだか哲学書を一冊手に取ったような気分。でも私のようなゆるーく車を愉しんでい る人間はそんなことお構いなし。

「なんてフワフワなシート! まるでソファ!?(むしろうちのソファより柔らかい)」と感動したり、癖のあるシフト操作をガチャガチャとレクチャーしてくださるのを見て面白がった。フランス車、癖つよ〜!

その時の映像はコチラ

(左)1本スポークの独特なこの位置がまさかの正ポジション! (右) フッカフカなシートに身を委ねたら気分はフランス貴婦人!

私にとってはどれもこれも新鮮で、近頃なんだか忙しかったせいかとても癒される時間だった。歴代のオーナー様がどんな風に扱ってきて、どんな理由で手離したか分からないが、きっと大切に愛されてきたに違いない!(断言)

この手のクルマには魂が宿るから、手放された時はさぞ寂しかったであろう。今や独り身となったアミ8さんもどこか悲しそうでアンニュイな表情を浮かべているしね(いや、元から)。

「素敵なオーナーさんに出会えるといいね!」と心の中でつぶやいて、その場を後にした。まさか半年後、私が契約書にサインするなんて、この時は夢にも思わなかった。

<つづく>

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