岸田政権・異次元の少子化対策に立ちはだかる「不都合な真実」…出生率増に“成功したフランス”と“失敗した韓国”の決定的な差

出生率増加の成功事例として知られるフランスの少子化対策。しかし、同様の少子化対策を行ったはずの韓国は、失敗に終わったといわれています。この差は一体なんでしょうか? そしてこの差は、現在国会で進められている、岸田政権による異次元の少子化対策の不都合な真実にも大きく関連していると、ソフトバンク孫正義氏の元右腕である三木雄信氏はいいます。みていきましょう。

成功事例・フランスを真似た「異次元の少子化対策」

2024年2月16日、岸田政権は「異次元の少子化対策」を掲げて、児童手当の拡充など充実策と財源確保策からなる「子ども・子育て支援法(子子法)等改正案」を閣議決定し、3月に入り参院の予算委員会で質疑が行われています。

この改正案のポイントとしては、まず「児童手当の拡充」があります。すべての子育て世帯に、0歳から3歳未満は月額1万5,000円、3歳から高校生までは月額1万円を給付。第3子以降は月額3万円を給付するとしています。また、「出産育児一時金」を50万円とすることなど低所得の妊婦への助成を実施します。

また、就労要件に関わらず誰でも保育所などを利用できる「こども誰でも通園制度」を26年度から全国展開としています。加えて、「出生後休業支援給付」を25年4月に創設し、両親が14日以上の育休を取得する場合、10割相当に引き上げ(現在は8割)としています。男性育休取得率目標は85%に設定し、育児休業を気兼ねなく取れる職場環境を整備し共働き・共育てを推進するとしています。

これらの政策は少子化対策の成功事例として知られるフランスの少子化対策にもかなり近く、「スタンダードな少子化対策」のパッケージといえるでしょう。実際、フランスは、このような少子化対策を行うことで、1994年に1.65まで落ち込んだ出生率は、1990年代後半から回復し、2006年には2.0を達成したのです。

韓国で行われたスタンダードな少子化対策は失敗

しかし、このようなスタンダードな少子化対策を行ったにも関わらず失敗した事例がすでにあります。それは我が国のお隣の韓国です。

韓国は、2005年には出生率が1.08となり「1.08ショック」といわれるほど社会的に問題となりました。そのため、2006年には「第1次低出産・高齢社会基本計画」(2006~2010年)を策定、少子高齢化に本格的に対応を開始しました。

その内容は、児童手当(満8歳未満のすべての子どもに月10万ウォン(約1万300円))の支給、所得に関わらず保育料を支給する無償保育、男性の育児休業取得を奨励するための「パパ育児休業ボーナス制度」などスタンダートな少子化対策でした。

しかし、韓国の2022年の出生率は0.72(暫定値)となり8年連続で過去最低を更新しました。つまりこのようなスタンダードな少子化対策は韓国ではまったく効果がなかったのです。

では、フランスと韓国との差はどこにあったのでしょうか?

フランスの少子化対策が成功した理由は「移民と婚外子」

実は、フランスの出生率には移民の出生率の高さが大きく影響しています。2009年の出生率は2.00でしたが、非移民が1.91、移民が2.77でした。つまり、移民の出生率が全体の出生率を0.09高めていたのです。

2014年のデータですが、マグレブ諸国(アルジェリア・チュニジア・モロッコなど)出身者の出生率は、3.5前後、マグレブ諸国以外のアフリカやトルコ出身者は3.0前後、それ以外の国・地域の出身者では2.0前後だったとされています。

もうひとつ、フランスの出生率を高めている要素があります。それは婚外子の割合が高いことです。フランスは2020年ではなんと62.2%にも上っています。つまり、結婚することが出産の前提となっていないのです。これらの2つが日本や韓国と大きく異なる点といえます。

現在行われている日本の参議院の予算委員会でも指摘されていることですが、日本の少子化の最大の原因は結婚しない人の割合(未婚率)の上昇なのです。この点と合わせて考えると、フランスで婚外子の割合が高いことは、大きな意味を持つと筆者は考えます。

なぜならば、日本と韓国は、世界的にも突出して婚外子の割合が低く、日本が2.4%、韓国が2.5%と、フランスとは大きく状況が異なっているからです。

このように出生率が高い移民が少ないことと、婚外子の率が低いことにより、日本でスタンダードな少子化対策は効果が期待できないのです。これらのことはあえて議論されてこなかった「不都合な真実」と筆者は考えています。

おそらく儒教の影響に加えて宗教的な保守の影響力が強いことで日本と韓国は共通しているのでしょう。このことを考えると岸田政権の「異次元の少子化対策」が韓国同様に失敗に終わってしまう可能性が高いかもしれません。

「異次元の少子化対策」が成功するためには

実は、韓国はすでにスタンダードな少子化対策では効果がないことが認識され、次の段階に移っています。企業や自治体が子供1人当たり1億ウォン(約1,130万円)を出産時に支給する制度が導入されたり、移民を促すためにビザの発給の権限を知事が持つ制度を進めたりしています。これらの制度がそれぞれ妥当かどうかは別にして議論は始めるべきだと思います。

また、韓国はまだ着手していませんが、結婚を出産の前提としない社会に転換するということも検討するべきだと思います。これらの政策は国民の生活に大きな変化をもたらすと同時に財政負担の観点から広い社会的なコンセンサスが必要だと思います。

いずれにしてもすでに失敗が明らかになっている韓国の事例を無視して、日本の少子化を解決するため真に「異次元な」議論を停滞させてはいけないと思います。

三木 雄信

元日本年金機構 理事

トライズ株式会社 代表取締役社長

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