「必ず複数得点できるのはポジティブ」と霜田監督は言うが...悲願のJ2復帰へ、J3で3年目の松本山雅に求められる失点減

2021年のJ2で最下位に沈み、J3降格を強いられて以降、毎年のように「J2復帰」を目標に掲げている松本山雅FC。J1経験クラブとしてはいち早く上のカテゴリーに戻ることは最重要課題だ。

だが、22年はJ3で4位、23年は9位と順位を下げている。これはクラブにとって大きな誤算だった違いない。

23年に就任した霜田正浩監督は昨季のチーム編成に関わっていなかったというが、勝負の24年に向けては自ら補強に乗り出し、山本康裕、高橋祥平、馬渡和彰というJ1で経験豊富なベテランを獲得。他クラブで実績を残した浅川隼人、安藤翼といった選手も加えて、新シーズンに突入。開幕のテゲバジャーロ宮崎戦を2-1で勝ち、力強いスタートを切ったはずだった。

しかしながら、リーグ戦はそこから2戦ドローで現在7位。開幕3連勝のFC大阪、FC今治らの後塵を拝している状況だ。まだ序盤とはいえ、ここからギアを上げなければ、上位陣との差は詰められない。チーム全体の底上げを図る意味でも、3月13日のルヴァンカップ1stラウンド1回戦・レノファ山口FC戦は重要な一戦だった。

「複数得点を取って勝つ」という指揮官の哲学を実践すべく、山雅は気温1度の極寒の本拠地サンプロ・アルウィンで格上のチームを序盤から圧倒した。山口一真、山本龍平の左の縦関係を軸に敵陣に迫り、最前線の浅川に合わせる形が何度も見られ、セカンドボールを拾って二次攻撃を繰り出す場面も少なくなかった。

前半のシュート数は山口の2本に対し、山雅は12本。相手を大きく上回るなか、大卒3年目のボランチ住田将が23分に先制点をゲット。1-0で前半を終えた。

迎えた後半、立ち上がりは巻き返しを図ってきた山口に少しペースを握られたが、山雅は前線からのハイプレスとハードワークを継続。追加点さえ奪えれば、無難に90分で終わる流れだった。ところが、69分に昨季からの大きな課題であるクロスからの失点。延長戦に入った。

その延長前半は、82分に途中出場した山本康が異彩を放つ。左CKの流れから野々村鷹人のチーム2点目をお膳立てすると、さらに自身のFKから野々村が3点目を叩き出す。これで山雅は完全に勝ち切ったと思われた。

けれども、延長前半終了間際にまたもクロスからゴールを割られると、同後半にはパワープレーに出てきた相手の蹴り込み作戦に屈し、3-3に追いつかれてしまったのだ。

最終的には若き守護神・大内一生の活躍もあって、PK戦で勝ち切ることができたが、昨季からの「詰めの甘さ」や「隙」は依然として解消されていない...。そんな印象を色濃く残すことになった。

古巣対戦を制した霜田監督は「失点に関しては、チームの仕組みの部分と個人の質を上げていきながら解決していかなければいけない」と反省。一方で「必ず複数得点ができる、J2の相手に対してシュートを22本も打っているということも含めればポジティブな面もある」と自信をのぞかせた。

山口時代から主導権を握りながらの攻撃的スタイルを志向してきた指揮官にしてみれば、「1点取られても2点、3点を取って勝つチーム」が理想。就任2年目の今季はそこに近づいているという手応えがあるのかもしれない。

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確かに今季の山雅にはそれ相応のタレントがいる。J1のトップクラブである浦和レッズから赴いた馬渡も「山雅は個々の能力が高い。いろんなチームを経験してきた自分がそれを引き上げられるようにサポートしたり、チームをまとめられたらいい。『勝ち癖』を付ければいい集団、勝てる集団になっていく」と太鼓判を押していたほどだ。

J3屈指のタレント力を昇格につなげるためには、今回の山口戦のような試合を繰り返してはいけない。昨季も4月のアスルクラロ沼津戦、5月の鹿児島ユナイテッドFC戦など終盤の大量失点で逆転負けした試合があったが、守備の綻びが積み重なれば致命傷になりかねない。強固な守備組織の構築と失点減は、彼らの最重要テーマと言っていい。

「クロス対応に関しては、マークにつく意識を昨年よりも高めているけど、それが120分できたかというとそうではない。もっともっと修正しないと失点数も減らないと思いますし、それがシーズン最後の結果につながってしまう。優勝するチームというのは失点が絶対的に少ない。そこは真摯に向き合わなければいけない」と守備リーダーの常田克人は危機感を募らせた。

そこに取り組みつつ、得点力を上げられれば、山雅はJ2昇格争いをリードできるはず。昨季に奈良クラブで16ゴールを挙げているエースFW浅川も「チームを勝たせるのは自分の責任。僕が決めるか決めないかで勝敗が決まってくると思う。Y.S.C.C.横浜戦(3節、1-1)でようやく初ゴールが取れたので、ここから得点を増やしたい。そうすれば自ずとチームも上に行けると思います」と力を込めていた。

少なくとも彼には、昨季J3得点王の小松蓮(現・ブラウブリッツ秋田)が奪った19点を上回る結果が求められるところ。他の得点源を作ることも重要だ。現時点では“リスタートからの野々村”というのが1つのパターンになっているが、他のアタッカー陣も決定力を引き上げるしかない。

いずれにせよ、良い面と悪い面の両方が出た今回の山口戦を今後に活かすことが肝要だ。「しぶとく泥臭く勝ち切る」というクラブの流儀を取り戻すべく、彼らにはここから隙のない戦いを具現化してほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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