つよいその根は眼にみえぬ

 「星とたんぽぽ」という金子みすゞの詩がある。〈見えぬけれどもあるんだよ…/春のくるまでかくれてる/つよいその根は眼にみえぬ〉。詩人は花をめでる以上に、土の中の根っこを尊ぶ▲〈眼にみえぬ〉ものを重んじるのは、どこかしら日本人のものづくりの心に通じている。古い話だが、黒沢明監督は映画「用心棒」の撮影中、血まみれの宿場町の場面で、血ににおいを付着させたという▲「赤い塗料に重油かなんか混ぜてね」と回想している。においはフィルムに刻まれない。見えない部分にも神経を注ぎ、数々の名作が生まれたらしい▲その心は今と一続きのように思える。米映画界のアカデミー賞で視覚効果賞に輝いた「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」の制作過程を見てみると、〈眼にみえぬ〉ところをどう描くか、心を砕くさまに目を奪われる▲映画には多くの軍艦が登場するが、実際のセットは船べりの一部だけで、ほかの大部分は視覚効果(VFX)の技術で埋めた。破壊される東京・銀座の街も、逃げ惑う人々も、小さな模型とデジタル技術が溶け合い、真に迫る▲加えられたのはにおいではなく、日本で半世紀を超えて脈々と続く、「特撮」に懸ける意気込みに違いない。目には見えない〈つよいその根〉が、美しい花を咲かせたのだと知る。(徹)

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