「家政婦(夫)さん」は労働基準法適用外?家事使用人契約時の留意事項とは

法整備や働き方改革などが進んだことで、私たちはさまざまな権利を守られながら、安全に働いています。
しかし、労働基準法による保護の対象を外れてしまう職種があることをご存じでしょうか。
そのうちの一つが「家政婦(夫)さん」(家事使用人)です。
家事使用人とは 家政婦(夫)紹介所を経由するなどして、家庭と直接労働契約を結んだ雇用関係の下において家事業務を行う人を指し、労働契約法の適用は受けますが、労働基準法が適用除外とされており、業務内容や就業時間などが不明確であるため契約をめぐるトラブルが発生する、また、就業中のケガに対する補償が十分ではないなどの問題が一部にあることがわかっています。
そこで厚生労働省では、2024年2月6日に家事使用人が働きやすい環境の確保がなされるよう「家事使用人の雇用ガイドライン」を公開しました。
以下では、「家事使用人の雇用ガイドライン」をわかりやすく解説してきます。

家事使用人を取り巻く環境

現在、雇用主や家事使用人には、「労働契約法」、「職業安定法」、「労働者災害補償保険法(の一部)」などが適用されており、家事使用人への安全配慮や雇用管理は雇用主が保障するべきと定められています。
一方で、一般の労働者に適用されている「労働基準法」や「最低賃金法」、「労働安全衛生法」などは、家事使用人は適用外です。
そのため、各雇用主がこれらの水準を意識しつつ、家事使用人が働きやすい環境を整えていくことが重要です。

家事使用人を雇用する際に気を付けること

家事使用人と契約する場合、紹介業者を介する方法と、各家庭で直接雇う方法の2つがあります。
しかしながら、紹介業者を仲介した場合も家事使用人との直接の調整は必要不可欠なため、今回は各家庭が配慮すべき項目を記載していきます。

労働契約の条件を明示しましょう

以下のような条件を明確にし、書面やメールなどに残しておきましょう。

① 雇用主の氏名、所在地、連絡先、実際の業務指示者
② 就業場所
③ 労働契約の期間(開始日と終了日)
④ 試用期間の有無・期間
⑤ 業務の内容
⑥ 就業時間等(始業・終業時刻、休憩時間、深夜勤の有無・回数・想定される時間数、残業の有無・想定される時間数、泊まり込み・住み込みの有無・日数・睡眠時間を含む)
⑦ 休日・休暇
⑧ 報酬等(報酬等の額(基礎的な報酬、時間外手当・深夜 手当、報酬の増額に関する事項、交通費、諸手当の有無を含む)、支払日、支払方法)
⑨ 退職に関する事項
⑩ 受動喫煙防止対策

業務を行う上で求める水準や、複数人から依頼れた際に誰の指示を優先すべきかなど、一見細かいような事柄もあらかじめ定めておくと、トラブルを回避することができます。

労働契約の条件を適正にしましょう

報酬

報酬は、地域の最低賃金を下回らないように留意し、家事使用人の能力や依頼する業務内容などに応じて設定しましょう。
支払いは、家事使用人に対して直接行うことが原則です。
毎月の期日を定めて、一定のサイクルで支払いましょう。

労働時間

労働時間は、1日に8時間、1週間に40時間を上限とすることが望ましいです。
また、就業時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上を休憩時間として設定しましょう。
泊まり込みでの勤務の場合は、仮眠時間を設けたり、稼働時間を12時間までに収めたりと、過重労働にならないような配慮が必要です。実際に就業する際には、始業・終業時刻の記録を残して適正に管理し、万が一残業が発生した場合には追加の報酬を支払うなどの対応をとるようにしましょう。

労働環境を整えましょう

設備

家主が働きやすい就業環境を整備しておくことも重要です。
室内温度は適温を心がけ、必要に応じて冷暖房を使用しましょう。
トイレはもちろんのこと、泊まり込みの場合は就寝場所やシャワールーム等も、家事使用人が自由に使用できるように準備をしておきましょう。

人間関係

業務を円滑に進めるためには、家事使用人が雇用主に相談しやすいような雰囲気作りも大切です。
万が一苦情を受けた場合も、家事使用人としっかりと話し合い、解決できるよう雇用主から働きかけましょう。
あらかじめ相談役を一人決めて置き、家事使用人に共有しておくのも一つの手です。

その他の注意事項

いわずもがなですが、家事使用人へのハラスメントは絶対に行ってはいけません。
また、高価なものについては事前に共有しておいたり、施錠できる場所に保管しておくなど、トラブルを回避するための自己管理も大切です。
就業中に家事使用人がけがをした場合の補償についても事前に取り決めておき、加入している保険も確認をしておくとよいでしょう。

契約終了時の注意点

万が一、家事使用人との契約を打ち切ろうとするときは、30日前までに伝えるか、30日分以上の予告手当を支払うよう配慮しましょう。
また、家事使用人を期間の定めのある労働契約で雇っている場合、自動更新の労働契約を結んでいなければ基本的には労働契約の期間の満了日に契約は終了しますが、労働契約の期間を5年を超えて更新する際は、家事使用人が希望すれば、期間の定めのない労働契約にすることができます(無期転換ルール)。
有期労働契約の家事使用人が、雇用主に対して無期転換の申込みをした場合に、無期労働契約が成立し、雇用主は断ることができません。

さいごに

家事使用人には労働基準法が適用されませんが、一般企業同様の水準で労働環境を整えていくことが大切です。
本記事に記載した留意事項は他の業種でも同様かと思いますので、ぜひ参考にしていただき、雇う側も雇われる側も気持ちよく過ごしていきましょう。

<参考>
・ 厚生労働省「「家事使用人の雇用ガイドライン」を策定しました」
・ 独立行政法人労働政策研究・研修機構「家事使用人の実態把握のためのアンケート調査」

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