年金24万円の88歳父、10キロ先の自宅へ徒歩で逃げ帰り、「高級老人ホーム」をまさかの3ヵ月で退去…「驚愕の脱走理由」に62歳長男、絶句【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

ホテルのような豪華な造りで人気の高い「高級老人ホーム」。終の棲家として申し分ないように思えますが、なかには入居してすぐに去ってしまう人もいるとか……。一体なぜでしょうか? 本記事では、金井さん(仮名)の事例とともに老人ホーム選びの失敗理由について、FPの小川洋平氏が解説します。

夫だけ先に老人ホームへ入居

金井史子さん(仮名/62歳)は夫の秀夫さん(仮名/62歳)と暮らし、自宅で義父の正さん(仮名/88歳)、義母のサキさん(仮名/85歳)の世話をしながら生活しています。小学校の教員をしていましたが、子供達が独立したのを機に早期退職し義父母の世話のために専業主婦となりました。

当初は金井さんが日々の世話をしていましたが、義父の衰えを特に顕著に感じるようになり、義父だけ先に老人ホームへの入居を考えたのでした。

義父の正さんは地元の企業で長年役員を務めていた経験もあり、金融資産は88歳になろうとしているいまも1,500万円を超える金額を残し比較的余裕のある老後を送っていました。また、正さんはプライドも高くグループホームへの入居を拒否していたため、保有資産で対応できると考えて地元でも有名な高級老人ホームに入居することにしたのでした。

ホテルのような豪華な造りで、入所金は1,000万円。5年毎の更新、毎月30万円が必要でしたが、年金で24万円も受取れるし、88歳という年齢からそこまで長期間入居はしないだろうし、もう少し身体が衰えてきたころにほかの施設に移ればいいし、と入居を決めたのでした。

まさかの脱走

しかし、それから2ヵ月が経過したある日、金井さんのもとへ施設から電話があり、義父が行方不明になってしまったと連絡を受けたのでした。

驚いた金井さんでしたが、その後になんと施設から10キロほど離れている自宅に歩いて戻って来たのでした。

「なんで急に逃げ出したりしたの!?」と、夫の秀夫さんは正さんを問い詰めたのですが、詳しく事情を語ろうとはしませんでした。

その後、スタッフが正さんやほかの入居者の方に話を聴いてみると、施設内で同じ入居者の男性と1人の女性の入居者を巡りトラブルになってしまったことがきっかけだとわかりました。

正さんは入居している女性と仲良くなっていたが、ほかの男性入居者がその女性と仲良くしていることに対し嫉妬してしまい、その男性とトラブルになってしまい飛び出してきたということでした。

10キロもある道のりですが、よほど悔しかったのか老人ホームにはもう居られないと思い誰にも言わずに歩いて戻ってきてしまったというのです。

秀夫さんは絶句しました。――いい年してなにを考えているんだ。母さんもいるのに……。衝撃を受けます。

ホームに戻るようにスタッフや家族に促されましたが、正さんのプライドが許さないのか断固として戻ろうとせず、それから1ヵ月が経過したころに退去を決めることにしました。

父のわがままで道連れ老後破産危機

しかし、家に戻ってこられても金井さんがついていないと不安な状況で、すぐにほかの老人ホームを探すことにしました。

そうはいっても、すでに1,500万円の資産のうち1,000万円を入居費用として使ってしまっており、前の老人ホームのように高額な入居費用が必要になるところにはもう入居させることができません。

そして、プライドの高い正さんは通常のグループホーム等では嫌だとわがままを言い、断固として施設に入居してくれません。

史子さんも常に自宅にいる正さんを気に掛けていなければならない状況が続き、イライラを募らせ、夫の秀夫さんとも度々口論するようになり、秀夫さんは仕方なく、自分の老後の資金として貯えていたお金のうち1,300万円を使い、前のホームと同様の少し離れた場所にあるホームに入居させることにしたのでした。

秀夫さんは60歳で退職して以後再就職して働いており現状収入に困るようなことはありませんが、老後の資金として貯えておいたお金を使い果たし、今後自宅の修繕費用など掛かる予定のお金も不足が想定されますし、まだサキさんも今後施設に入居することが想定されます。

今後出費は想定されるなかでの親の介護のために資産のほとんどを使い果たしてしまい、金井さん夫妻は不安な日々を送ることになってしまったのでした。

身の丈に合わない老人ホームへの入居

金井さんのケースでは、正さんの保有資産に対し入居した老人ホームが身の丈に合っていなかったことが一番の問題です。

年齢から考えてさほど長生きはしないだろうという理由から決断したことですが、入居時に1,000万円もの費用が掛かる施設を安易に契約するべきではなかったといえるでしょう。

また、脱走して戻って来てしまったあとも、わがままを聴いて自分達の老後の資金を使ってまで再度入居させる必要はありませんでした。問題は、妻の史子さんに両親の世話を任せきりにしてしまい、史子さんのストレスが溜ってしまったことです。秀夫さんが仕事を調整しながら夫婦で分担すれば、わざわざ大金を支払って高級老人ホームに入居させる必要もなく、状況が変われば一般のグループホームなどへの入居も可能だったことも考えられます。

また、誰しも身体の衰え、認知機能や判断力の衰えはやってきます。正さん自身も、自分の衰えを予見し、準備をすべきだったといえます。身体が衰えるとともに認知能力や判断力も衰えてくるものですので、そんなときに家族の負担にならないように対策を考えておくことも重要です。

老後にいつ、いくらくらいのお金が掛かるかを事前に想定し、年金の受給額を含めて自分の家計がどうなっていくかをシミュレーションし、適切な方法で資金を準備しておくことで息子夫婦の老後の資金までも使わせてしまうような事態にはならなかったでしょう。

運用しながら取り崩していればもっと多くの資産を残すこともできたでしょうし、生命保険等を活用して運用すれば介護が必要な状態になった際には保険金という形で有利に受取ることができるプランを考えることもできます。

「まだ早い」と思っているうちが考え時です。なかなか考える機会もありませんが、自身の将来のこと、家族の将来のこと、じっくり向き合い、自分がどう在りたいかに合わせてお金の計画も考えてみることが大切です。

老後の人生設計に「介護になった場合」の項目は必須

今回は思わぬ理由で老親が高級老人ホームを脱走してしまい、結果息子夫婦である金井さん夫妻が老後破産することになってしまった事例をご紹介しました。

内閣府の令和2年の調査によると、要支援の認定を受けている人は、65~74歳では1.4%、75歳以上では7.8%。要介護の認定を受けている人は、65~74歳では2.9%、75歳以上では22.1%となっており、75歳以上においては4人に1人程度の割合いで要支援状態以上の状態に認定され、誰かの支援が必要と考えられる状態となっています。

また、その状態が長期化するケースもあり、なかには10年以上介護が必要な状態になっていることもあります。

これだけの高確率で誰かの支援が必要という状態になるのですから、老後の人生設計のなかには要支援、要介護状態になった場合に自分はどうしていきたいか、資金準備も含めて考えておく必要があります。

特に、高額な費用が掛かる老人ホームへの入居を希望されているならばそれなりな資産を準備し、家族にもその旨を伝えておく必要があります。

ご自身のことやご家族のこと、いつかは必要になるものと考えて事前に準備を行っておきましょう。

小川 洋平
FP相談ねっと

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