米上院与党トップのシューマー氏、ネタニヤフ首相を非難 イスラエルでの選挙を求める

米議会上院の与党・民主党のトップ、チャック・シューマー院内総務は13日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を、国事より「政治的延命」を優先していると非難し、イスラエルで新たな選挙が開かれるべきだと主張した。イスラエル側は強く反発し、米政府はこの発言と距離を置いている。

アメリカでは、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区での軍事行動などをめぐり、ネタニヤフ政権に対する批判が強まっている。

アメリカのユダヤ系の公人で最も高位にあり、長年イスラエルを支持してきたシューマー氏の今回の発言は、そうした批判が急速にエスカレートしたものといえる。

シューマー氏はこの日、上院で演説し、ネタニヤフ氏について、「イスラエルの最善の利益より自らの政治的延命を優先」するようになったと厳しく批判。「道を誤った」と述べた。

また、ガザでの民間人の犠牲が膨大な人数に上っていることで、イスラエルは友好国から見放され、世界的な「のけ者」になるリスクを抱えていると警告した。

そして、イスラエルには「軌道修正」が必要であり、ガザ住民の保護策を改善しなくてはならないと述べた。

シューマー氏はさらに、「イスラエルは民主主義の国として、自国の指導者を選ぶ権利があり、私たちはそれを見守るべきだ」、「しかし大事なのは、イスラエル国民が選択肢を与えられることだ。イスラエルの将来について新たな議論が必要だ」と主張。

「個人的な意見だが、それは選挙によって最もうまく達成されると思う」と続けた。

イスラエルでは次の総選挙が2026年10月までに実施される予定となっている。

シューマー氏はまた、和平交渉を前進させるには、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長(88)の辞任も必要だと述べた。

アッバス氏は現在の紛争が起きてから、ほとんど姿を見せていない。イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区を拠点とするパレスチナ自治政府は、2006年を最後に選挙を実施していない。

同政府に対しては、米政府も改革を迫っている。アッバス氏は13日、自身の元顧問を首相に任命したと発表した。

米政府は発言に距離置く

ジョー・バイデン大統領はじめ、米政府関係者はおおむね、ガザでの紛争をめぐってネタニヤフ氏を直接批判するのを避けている。

しかしここ数週間で、バイデン氏がイスラエルに対し、ガザ南部ラファへの侵攻拡大は「レッドライン(越えてはならない一線)」だと警告するなど、両国の関係に亀裂が生じ始めている。

ただ、今回のシューマー氏の発言が出ると、ホワイトハウスはすぐに距離を置いた。ジョン・カービー戦略広報調整官は、シューマー氏には意見を言う権利があるが、米政権はイスラエルの防衛に関して同国と協力していると述べた。

米上院の野党・共和党トップ、ミッチ・マコネル院内総務は、シューマー氏の40分間にわたった演説を「グロテスク」で「類例がない」と批判した。

マコネル氏は、「自国の民主主義への外国の干渉には激しく反応するアメリカ人が、民主的に選ばれたイスラエル指導者の解任を求めるのは偽善的だ」と主張した。

イスラエル側は反発

シューマー氏の発言を受け、ネタニヤフ氏が率いるイスラエルの政党リクードは声明を発表。ネタニヤフ氏について、「国民の大多数に支持されている」と主張した。

さらに、「シューマー上院議員には、イスラエルの選挙で選ばれた政府を尊重し、それを弱体化させないことが期待されている。これはいつものことだが、戦時中はなおさらだ」と付け加えた。

イスラエルのマイケル・ヘルツォグ駐米大使も、シューマー氏の発言を攻撃。「民主的な友好国の国内政治情勢」にコメントするのは「助けにならない」、「逆効果だ」とXに書いた。

バイデン氏とネタニヤフ氏の溝

アメリカはイスラエルにとって、最も近い友好国で、最大の軍事支援国であり続けている。しかしこのところ、バイデン政権内で、ガザでの戦争をめぐって、イスラエルに対する懸念が強まっている。バイデン氏は7日の一般教書演説で、イスラエルのガザでの対応は「行き過ぎ」だとした。

バイデン氏はこのところ、より多くの人道支援がガザに届くよう要求を強めており、イスラエルの「言い訳は許されない」としている。

これに対しネタニヤフ氏は、自らの政権と政策は国民の支持を得ていると反論。両首脳の間で溝が深まっていることを示した。

先日も、バイデン氏がネタニヤフ氏について、「イスラエルを助けるより傷つけている」と非難。ネタニヤフ氏は、その見方は「間違いだ」と言い返した。

イスラエルでの世論調査によると、同国民の大多数が戦争を支持している。だが、1月に発表された調査では、紛争の終結後もネタニヤフ氏の続投を望むとした有権者は15%にとどまった。

ハマス発表の死者数に反論

イスラム組織ハマスが運営するガザ保健当局は先月、戦闘が始まった昨年10月7日以降、ガザで3万人以上のパレスチナ人が殺害されたと発表。その大半は子どもと女性だとした。

ただ、実際の死者数ははるかに多い可能性が高い。イスラエル軍の空爆で倒壊した建物の下敷きになって行方不明となっている何千人もが含まれていないためだ。

一方、ネタニヤフ氏は10日、3万人という死者数は受け入れられないと発言。イスラエル軍がガザで殺害したハマス戦闘員は1万3000人で、民間人の死者と戦闘員の死者の比率は1対1.5だと推定していると述べた。

こうしたなかアメリカは、ヨルダン川西岸の安定を損なっているとして、イスラエル人の入植者3人と、イスラエル入植地の前哨基地2カ所を制裁対象に追加すると明らかにした。

国連によると、昨年10月7日から今年1月31日までに、イスラエル人の入植者がパレスチナ人を攻撃した事案が約500件あった。

国際社会の大多数は、イスラエルの入植地と前哨基地を国際法違反とみなしている。しかしイスラエルとアメリカは、この解釈に異議を唱えている。

(英語記事 Top Democrat Chuck Schumer calls for new Israel election

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