被疑者取り調べ中のメモ禁止「根拠なし」 衆議院法務委員会で明らかに

質疑に応じる小泉龍司法務大臣(3月13日の国会中継より)

3月13日に衆議院法務委員会で行われた質疑の中で、警察・検察からの取り調べ中の「メモ禁止」には根拠がないことが小泉龍司法務大臣の発言から明らかになった。

国際NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の調査によれば、都道府県警察の通知では取り調べ時の被疑者のメモ取りについて、認めないとする運用を明記しているものが複数あるという。

たとえば、兵庫県警の「被疑者の取調べにおける弁護人立会い要求等に対する対応要領」では、「任意被疑者から、取調べに際してメモを取りたい旨の要望があっても、これを認めるのは適当ではありません」と記されている。

取り調べ中のメモ「集中してしまう」からNG…

質疑では、立憲民主党・寺田学議員が小泉法務大臣に対し、取り調べ時に被疑者がメモを取ってはいけないとされる理由を追及した。

小泉法務大臣は、前提として「刑訴法(刑事訴訟法)上は、任意の取り調べや逮捕後の取り調べにおいて、メモを取ることは禁止されておりません」と回答。

しかし一方で、メモを認めないと明記する都道府県警察の通知があるように、取り調べ中のメモは実質的に禁止されている。

この現状について小泉法務大臣は「検察官による取り調べ時に、メモを取ることを認めるかどうかは取り調べを行う検察官において、取り調べの機能に対する影響等も考慮して、事案に応じて適切に判断しております」と説明。

続けて、「検察官による取り調べにおいて自由にメモをとることを認めた場合、検察官の問いに答えることよりも、メモを取ることに集中してしまうなどして、必要な説得・追及を通じて、被疑者からありのままの供述を得たり、その供述態度をつぶさに観察することによって、真実に真相を明らかにするという機能が難しくなることがある」と述べた。

さらに、取り調べには捜査上の秘密や関係者の名誉、プライバシーにかかわる言及をするとして、「それを詳細にメモすることを認めれば、そのメモが流出することによって取り調べ中に示された捜査情報がそのままの形で外部へ流出する可能性が高くなるなどの影響が考えられる」と発言した。

「強制的には止められません」明言

その後も質疑は「なぜ実質的なメモ禁止となっているのか」や「強制的なメモ禁止の根拠」を問う寺田議員、立憲民主党・米山隆一議員に対し、小泉法務大臣と松下裕子刑事局長が「個別に判断している」などと回答する押し問答が続いた。

しかし最終的に、小泉法務大臣が米山議員の質疑に答える形で、「ご本人の意思を通されるということであれば、強制的には(メモを)止められません」と明言。

米山議員はこれに対し「国会での質疑ですから非常に重要です。私も弁護士ですので、弁護士会にご報告させていただきます。今後(被疑者に)メモを禁じられないです」と述べて本件の質疑が終了した。

大川原化工機社長も「最低限変えて」

一連の質疑を受けヒューマン・ライツ・ウォッチは、根拠のない「メモ禁止」の対応を全国の警察・検察が行っている状況を改めるため、法務省・警察庁および各都道府県警は取り調べ時のメモ取りは禁止できないとする通知を即時に出し、実務を変えていく必要があると主張している。

なお取り調べ中のメモをめぐっては、大川原化工機の冤罪事件で逮捕・勾留された大川原正明社長も、国賠訴訟一審判決後の会見で、任意の取り調べのあり方を問われ「取り調べを受ける側はメモも取らせてもらえない。最低限、そういうところを変えてもらいたい」と訴えていた。

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