技術力はピカイチなのに、パンフに載せる自社製品がない! 祭りどころ播磨、井沢鉄工所の挑戦

ステンレス製屋台を見つめる(左から)井沢鉄工所の神野裕矢さん、井澤竜一社長、赤木伸駿さん=高砂市北浜町北脇

 兵庫県高砂市の金属加工メーカー、井沢鉄工所が昨年、ステンレスを材料にした10分の1サイズの祭り屋台を製作した。実物と同じ構造で、約70点に及ぶパーツは細部までこだわり抜いた。さらには、一般消費者向けのキャンプ用のたき火台も商品化。1949年の創業以来、大手に部品を納める同社が、ここにきてなぜ、自社製品づくりに挑むのか。取材すると、意外な理由があった。(足立 聡)

 同社は姫路市大塩町で創業。65年に現在の本社所在地に移転した。三菱重工業や川崎重工業、神戸製鋼所などを取引先とし、発電用のガスタービン部品の加工などを請け負っている。従業員約250人。ステンレスなど非鉄金属の設計や加工を得意としている。

 2022年末、社内で自社のパンフレットやホームページを刷新する話が持ち上がった。「自分たちの技術力を発信しよう」と意気込んだものの、ある事実に気付いた。自社が手がける製品は大手向けの部品ばかり。守秘義務があり、外部に明かせない。「パンフに載せる自社製品がない…」

 本社や工場が「祭りどころ」の姫路や高砂にある同社。井澤竜一社長が社内で自社商品のアイデアを募ったところ、提案されたのがミニ屋台だった。

超リアル、ステンレスのミニ祭り屋台

 リーダー役の赤木伸駿工務課長(36)は祭りの役員を8年間務めた経験があり、屋台の構造をよく知っていた。ただ、肝心の設計図がない。総務課の神野裕矢さん(32)が住む姫路市大塩町東之丁地区の協力で、実物を採寸。10分の1サイズに置き換えた設計図を作り、職人らが100分の1ミリの精度でステンレスを切削したり曲げたりした。

 最難関は、屋台の四隅に飾る「伊達綱」だった。綱の丸みやねじれを金属でどう表現するか。赤木さんが先輩たちに相談すると、金属棒を焼きながらねじる▽旋盤で棒を削る▽溶接材料を棒に盛り付けていく-という案が出てきた。いずれも高度な技が必要だが、職人らは競うように制作に挑み、風合いの異なる3パターンの伊達綱が完成した。

 「職人たちの技術とプライドで、設計図以上のものができた」と赤木さん。東之丁地区で披露すると、住民から「よくこんなにすごいものを」と驚かれた。

キャンパー向け「たき火台」も開発

 屋台は非売品のため、次は一般向けの製品開発に挑んだ。赤木さんが提案したのは、まきを燃やした際に出るガスをさらに燃やすことで強力な火力が得られる「2次燃焼たき火台」だ。

 自身がキャンプ好きだったことに加え、「うちの技術なら、他社に負けないものが作れる」と思ったからだ。30~50代の中堅キャンパーの利用を想定し、組み立てや収納が簡単で耐久性が高い製品を開発。「サマル」と名付けた。

 赤木さんは「工場では自動化が進むが、今まで培った職人の熟練の技も欠かせない。それらを融合することが大事だと気づいた」と話す。

 こうした気づきこそが、井澤社長の真の狙いだったという。「完成品づくりをやり遂げることで、若手のモチベーション向上や社員間の連携につながり、考える力を高める機会にもなった」と井澤さん。「本業を大事にしつつ、今後も新たなことにチャレンジしていきたい」と意気込んでいる。

 「サマル」はクラウドファンディングサイト「マクアケ」で3月末まで予約販売。詳細はマクアケのサイトで。同社TEL079.254.0850。

© 株式会社神戸新聞社