なぜスーパーの一角に!?「コーヒーコース」が楽しめる大阪・東三国の『SPコーヒー』。

大阪・東三国の駅からほど近く。「ショッピングプラザ新大阪生鮮館」というローカルスーパーの中に、その店はある。名は『SP(ショッピングプラザ)コーヒー』。店頭には焙煎豆が並び、カウンターとテーブル席が設けられた小さなカフェだ。

「生鮮館」とは、関西一円の地元スーパーチェーンだ

スーパー部分との壁も境目もない店内は、オープン過ぎるほど開放的。目の前は総菜コーナー、レジのピッピッという音も丸聞こえで、実に生活感に溢れている。

本当にスーパーの売り場一角にある。買った総菜を持ち込む人もいる

メニューはホットコーヒー440円、カフェオレ550円など至って普通だが、月曜だけユニークな"コース"が楽しめる。それは、コーヒーだけが次々と出て来る「コーヒーコース」である。

1種類の豆を使い、「水出し」「ドリップ」「濃い珈琲」「カフェオレ」の4タイプで提供。ペアリング的に焼き菓子かパンが1品付く。豆は毎週変わり、「メキシコ イクスウアトラン ブルボン パープルハニー」「ミャンマー シュエチェリー農園 SL34 ナチュラル」などコーヒー通でも知らないようなマニアックな種類ばかり!

「コーヒーコース」は豆により1700円~2000円ぐらい

この日の豆は「ルワンダ ブゴイ ナチュラル」。名前だけ聞いてもさっぱり分からん。説明によるとルワンダのコーヒーは甘みが少なく、赤ワインのようなフルーティーな酸味が特徴とのこと。浅煎りすることで豆本来の香りが引き立つそうで、これを4種の淹れ方で飲み比べできる仕立てだ。

「コーヒーコース」を実体験してみた

水出しアイスコーヒー。一晩かけて水で抽出したもの

まず1杯目は水出しで。ワイングラスで供された液体は本当に赤ワインのようで、一口含んでびっくりした。これ本当にコーヒー? 確かにワインのようでもあるし、カカオのようなほのかな甘みもあるし、チェリーのような酸味も感じられる。深煎りしか好まない私の、「浅煎り=薄い」という既成概念を一気に取っ払った。

ドリップ。同じ豆とは思えない、アイスコーヒーとは違った重厚感が

続いてドリップ。ごく普通にペーパーで落とすが、しっかり豆の旨みが抽出され、ボディ感がしっかりした味わい。

次の「濃い珈琲」が面白い。豆32gを、100ccのお湯でじっくりと5分かけてドリップするのだ。ぽたぽたとケトルの先から1滴ずつ注いで、気長に落ちるのを待つ。いらち(せっかち)な関西人には至難の技だと思う。

飲んでみると、うわ~、にっが!でも苦いだけじゃなく、同等の酸味と甘みも口に広がり、一言でいうと〝円熟〟した味。ちびっと飲んだだけでも口の中がしばらくコーヒー香で満たされる。

パンチが効いた「濃い珈琲(左)」と、ミルクで割ったカフェオレ

最後のカフェオレは、この「濃い珈琲」にミルクを入れて。ホットでも良いが、「冷たい方が舌に来るダイレクトな味を感じられますよ」とのこと。

しかも浅煎りの豆はコーヒーチェリー本来の甘みや酸味が際立つので、ミルクに包まれることで「フルーツオレ」のような味になるとのこと。うっそだあと思ったが、飲んでみて「ほんまや…」と呟いた。単純だなあ、私。

なぜコースは月曜限定なのか。それは「濃い珈琲」を淹れられるのが月曜出勤の川久保さんだけだから

この摩訶不思議な「コーヒーコース」を始めた『SPコーヒー』のオーナーは、実はコーヒー業界の重鎮と言われ、ジャパン・コーヒー・フェスティバル主催者でもある川久保彬雅さん。近くで『珈琲焙煎研究所』という焙煎喫茶を営んでおり、生鮮館には食材の買い出しに来ていたそうな。

しかし高齢化などでスーパーの客足も減り心配になり、活性化を図るため支店を出したという。

その想いも徐々に実を結び、『SPコーヒー』にはコーヒーのみならず音楽、映画、アート、イベント、謎の文化人…と色々なジャンルの人が集まり、スーパーとは思えない客層が出入りするようになった。でも川久保さんは必ず言う。「スーパーで買い物もしてってね!」と。

生鮮館→SPコーヒー→アルル、が東三国の正解

「天然酵母パンは酸っぱい」という概念を変える、クランベリーとクリームチーズのカンパーニュ

ちなみに「コーヒーコース」に付くカンパーニュ(パン)が劇的に旨い。なんでも川久保さんがオーナーを務める『コーヒー&ベーカリー アルル』で焼いているもので、80年継ぎ足したルヴァン種で作ったカンパーニュだそうだ。

カンパーニュを塩で食べ比べるイベント。店内ではワインとパンを合わせて味わえる

『アルル』もなかなか面白い店で、ルヴァン種のカンパーニュを前面推ししており、「カンパーニュのピザを三種の塩で食べるイベント」なんかも開催しているので覗いてみて欲しい。スーパーから近いし。

『SPコーヒー』

住所/大阪府大阪市淀川区東三国1-24-8

※こちらの記事は、関西の食のwebマガジン「あまから手帖Online」がお届けしています。

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