「将来的には聡が腕章を託されるべき」キム・ミンテが語る若手組への期待「自分の技術を盗んでほしい」【インタビュー後編】

2023年7月に鹿島アントラーズから湘南ベルマーレに期限付き移籍すると、3バックの中央で抜群の存在感を発揮。同クラブへの完全移籍を決断し、キャプテンに就任した今季、さらなる覚悟を背負って戦う30歳が胸中を明かしてくれた。

本記事では、現在発売中の「サッカーダイジェスト24年4月号」に掲載したロングインタビュー「キム・ミンテ“熱さの根源”」の未公開エピソードを紹介する。

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並大抵でない覚悟を持って戦うキム・ミンテをサポートするのが、副キャプテンの舘幸希、田中聡、鈴木雄斗の3名だ。なかでも、新主将から山口智監督へ副将就任を推薦した選手がいたという。

「舘には絶対にやってほしいと思っていたし、キャプテンをやってほしいと言われた場で監督にそれを伝えました」

昨季から選手会長も務める舘は、ピッチ外でも大きな影響力を持つ。「外国籍選手として、プレー中以外のキャプテンの仕事に対して、最初は不安があった」というキム・ミンテにとって、自身の不安を解消してくれる存在だと見ているのだろう。

また、21歳の田中についても「副将をやってほしかった」と語る。

「監督に言ったわけではないけど、聡も年齢は関係なく、リーダー的存在になっていかなければいけない選手だと思っていました」

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田中は2020年の湘南U-18時代に2種登録でプロデビューを果たすと、高卒1年目から主軸として躍動し、22年夏にベルギー1部のコルトレイクへ期限付き移籍。昨夏に同クラブから帰還し、再びレギュラーとして存在感を放っている。キム・ミンテの言う通り、今後のクラブを背負っていく存在として期待される選手のひとりと言える。

ただ、「あまり向いていない気がしますが」という副将就任時のコメントも含め、田中には言葉の端々から自信のなさを感じさせる側面があるのも事実だ。

キム・ミンテには、田中にひと皮剥けてほしい想いもあるのだろう。

「聡のキャラや性格的にそういう部分もあります。でも、だからこそやった方が良い。今は僕や鈴木雄斗、舘がいれば、聡が腕章を巻く機会はあまりないかもしれない。でも、声を出したりだとか、チームを引っ張るという自覚が芽生えればさらに良い選手になれると思いますし、将来的には聡がキャプテンマークを託されるべきです。聡はもう一度ヨーロッパへ行くべき選手だとも思っていますが、いつかは主将として湘南を牽引してほしいですね」

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田中への想いと同様に、キム・ミンテは「多くの選手に自分の経験を還元し、成長してほしい」と強く願う。理由は、キャプテンになったからではない。自身が札幌時代に抱いた苦悩によるものだと語る。

「自分は元々センターバックの選手ではなかったので、守備の感覚を分からないままやっていたんです」

超攻撃的フットボールを掲げる札幌のペトロヴィッチ監督のもと、ほぼ未経験のCBを任された当時24歳のMFは、自らの力で技術や知識を身につけていったという。

のちに在籍した名古屋や鹿島で、守備に独特の理論を持つマッシモ・フィッカデンティ監督や岩政大樹監督に師事したキム・ミンテは、改めて「教わる重要性」を実感した。

「マッシモ監督から“グループの守備戦術”を、岩政監督から“個人の守備技術”を学びました。彼らの教えが今の自分の身になっているのは間違いありません」

過去の経験をもとに、キム・ミンテは自らの知識や技術などを、昨季以上に伝えているという。

「若い選手、特に同じポジションの選手には、教える機会を増やしたい。今のチームで言えば、髙橋直也選手や舘幸希選手には、自分の技術を盗んでほしいので、練習から自分のプレーを見せたり、一緒にやることもあります。自分は本来、そういう性格ではないんですけどね(笑)」

主将という立場を意識しすぎるわけではない。今の自分を評価されたからこそ託された腕章を誇りに、これまで通りのリーダーシップでチームを牽引する。

「自分らしく、いつも通りやりたいなと思っています。変に真面目になったり、チームのことを考えすぎたりはしたくない。いつも通り、クールで、ちょっと適当で、サッカーには集中しながらやっていきたいです」

ピッチ内では熱く、ピッチ外では冷静に振舞うキャプテンが先頭に立つチームには、どんな未来が待っているのか。47番が見据える「新しい景色」へ、始まったばかりの旅の行方が楽しみで仕方がない。

PROFILE
キム・ミンテ/1993年11月26日生まれ、韓国出身。18cm・84kg。シンイル小―ヌンコク中―富平高―光云大(プロ以降はキャリアレコード参照)。J1通算172試合・7得点。今季でプロ10年目を迎えるCB。23年夏に鹿島から湘南へ期限付き移籍すると、3バックの中央で抜群の出来を見せてチームのJ1残留に貢献。完全移籍に移行した今季は、主将としてさらなる覚悟を背負い戦う。

取材・文●岩澤凪冴(サッカーダイジェスト編集部)

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