『フリースタイル日本統一』#21ーー日本統一を果たすのは神奈川か、呂布カルマの東海か 

2023年10月より放送中の『フリースタイル日本統一』(テレビ朝日/ABEMA)。同番組では、全国16地区で活躍するラッパーが3名1組となって、それぞれの地元の威信を賭けてフリースタイルバトルに挑戦。勝利チームは敗退チームから好きなラッパー1名を吸収し、最終的に日本統一を果たすと、その暁として賞金100万円が贈られる。

以下より、3月12日に公開された【#21】のハイライトを振り返っていく。細かなネタバレもあるためご注意いただきたい。

・CIMA v.s. MC☆ニガリ、日本語ラップ独自の“気持ちよさ”を詰め込んだライン合戦に

この番組も、いよいよ最終局面に。数々の東日本チームを制し、ひと足早く決勝(百万石の戦い)進出を決めたTEAM神奈川(FORK×句潤×SANTAWORLDVIEW×輪入道×崇勲×MC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻)。そんな彼らが迎え撃つは、九州勢をはじめ、こちらは西日本エリアを掌握してきたTEAM東海(呂布カルマ×泰斗a.k.a.裂固×楓×KANDAI×歩歩×CIMA)。結果的に、ほとんど東西対決となった天下分け目の頂上決戦に勝利し、日本統一を果たすのは? その火蓋がいま、切って落とされた。

大事な初戦。準決勝(五十万石の戦い)を終えたばかりで、両チームとも体力回復をしたいところ。だが、戦いは待ってくれない。お互いに思考を巡らせ、ステージまで1番手のラッパーを送り出したに違いない。選ばれたのは、TEAM神奈川からMC☆ニガリ、TEAM東海からCIMA。先攻は、CIMA。ビートは、ZORN「Rep feat. MACCHO」。ハイライトは次の通りとなる。

CIMA:兵庫 to da 東海で火をつけに来た 気をつけな 気いつけ礼も出来ない俺なら不適合 背後に見せるぜ 不敵の笑み やりづらいぐらいがちょうどいい お前はもう若手ではなくてオッサン お産並みの言葉数 おじゃんになるぜ コイツのプラン

MC☆ニガリ:おじゃんになるはずならない オッサン 若手 歳関係ない 逆にオッサンと呼ばれたって 若手と同じマインドで戦う それが大事 初志貫徹 さっき輸入道も言ってた話

CIMA:でもいつも俺は地下現場 悪いが俺から仕掛けるわ 千葉県と【コンプラ】【コンプラ】 お前よりもジャンバリ フィーバー 揃えるぜ777 赤ランプ点灯でMother 【コンプラ】 Holla 見せるゴーゴーランプ 誰が相手でも上等じゃ

MC☆ニガリ:ちゃっちぃライムで仕掛けるが 関西弁で言ってやる 効かへんわ Everybody put your hands up どっちが持ってくのかなここの現場 崇勲が俺をほぐしてくれた SANTAが俺に火をつけてくれた 輸入道にブッ飛ばされ 目が覚めたら 優勝はチーム横浜

CIMA:でもお前 昔と比べたらデカなる横幅/今は進む 東海道の道の上 悪いが一騎当千

MC☆ニガリ:逆に痩せてんね 夏バテか? 俺は俺でファットにやるだけさ 今日はいただくキングの座 俺に勝ちたきゃ呼べ BIG-MOOLA

CIMAはとくに、誇張抜きで本当に先ほどまでの5連戦を終えたばかりの状態。MC☆ニガリを含めて、どちらも声が枯れ始めているあたり、満身創痍な様子が手に取るように伝わってくるが、最終バースに向かうにつれて声に油が乗ってくるのもさすがベテランといえる。

筆者は個人的に予想していたのだが、やはり決勝戦ともなると、エモーショナルなラインが数多く生まれてくる。そんな“エモ”を生み出す根源のひとつが、ネームドロップ。わかりやすい例でいえば、MC☆ニガリの〈崇勲が俺をほぐしてくれた SANTAが俺に火をつけてくれた 輸入道にブッ飛ばされ〉など、過去の対戦相手の名前を盛り込み、ストーリー仕立てにしたラインは、連戦を重ねたいまだからこそ繰り出せるものだ。

ヒーローアニメやスポーツ漫画ではないが、俗にいう“男の子”であれば、誰もがブチ上がるほかない“戦いのコンテクスト”が、ここにはある。かつての敵が、今日の味方にーーなんて展開も胸を熱くする鉄板の設定だが、今回のMC☆ニガリも、TEAM神奈川からしてみればその例に漏れない。

対するCIMAも〈今は進む 東海道の道の上 悪いが一騎当千〉と、“日本統一”の番組ネタを絡めて対応。こちらもまた、“エモ”を生み出す要素のひとつ。そのほか、CIMAの〈揃えるぜ777 赤ランプ点灯でMother 【コンプラ】〉、MC☆ニガリであれば〈ちゃっちぃライムで仕掛けるが 関西弁で言ってやる 効かへんわ〉など、日本語ラップの“気持ちよさ”が特段に光った今回のバトル。

日本語の特徴として、英語に比べて単語ごとの区切りが明確で、発音を崩しにくいことが挙げられる。ただそのぶん、一語ごとの存在感がハッキリと立つといったメリットも。CIMAとMC☆ニガリにおいては、フロウの滑らかさを重視しつつ、こうした言葉の“立ち”……よく言われる“声に出して気持ちのいい日本語”として、一級品のラップをいつだって叩き出してくれる。

内容、ライム、フロウの三位一体ーーそして、またしてもヒーローアニメやスポーツ漫画の話に繋がってしまうのだが、相手よりも自分の方が“カッコいい”と示すボースティングが合わさることで、自分でも声に出して、真似したくなる流暢なラップが生まれるのだ。結果としては、4-1でMC☆ニガリが勝利。ただ結果以上に、全チームメンバーの心にさらなる燃料を投下するうえで、これ以上ないほど初戦に相応しいバトルだった。

MC☆ニガリはその後、KANDAI、楓と3連勝まで成績を伸ばした末、4番手のベテラン・歩歩に敗退。とはいえ、歩歩戦では相手の土俵に乗り、全身運動が必須なパフォーマンス対決を繰り広げたことで、彼の体力を削った点でも、1番手として十分すぎるほどの活躍ぶりを見せてくれた。

また順番は前後するが、KANDAI戦のビートが、東海エリアのフッドスター=TOKONA-Xのクラシック「知らざあ言って聞かせやSHOW」だったことから、〈知らねぇ奴には言って聞かせるぜ My flow now 東海チーム この音なのに 東海の奴が蹴らねぇってどういう事だよ〉というエグすぎるパンチラインをお見舞い。実際のところ、ビートが選ばれるのは両チームの対戦ラッパーが出揃った後なのだが、それすら“関係ねえ”と思わせてくれるあたり、言葉の強さがものすごい。

この流れを受けて、楓が次戦で〈さっきのXの話 出てきてからビートが流れるのに お前 矢の方向間違えんじゃねぇよ アジで 俺は出来る 東海 まだ奉公 間違えんなよ あんまり矢の方向〉と正論を返し、ベンチのCIMAをブチ上げるも、〈別にさ さっき確かに お前の言う通りなんだけど そういう事じゃない テメェがまず かかって来いよ〉と、本番組の最若手であり、今回のバトルで唯一の10代である楓の気概を試すラインを放つなど、初戦だけではないハイライトを数多く演出してくれた。

そんなMC☆ニガリの想いを引き継ぎ……次週、2番手・句潤がステージに立つ。

(一条皓太)

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