15周年イヤーのさかいゆう、進化続ける音楽観について訊いた

新旧のソウル~ファンク、ポップス、ジャズ、ゴスペルなどを高度に消化した音楽性で支持され、2023年10月にはデビュー15周年イヤーに突入したさかいゆう。

デビュー15周年イヤーとなる、さかいゆう

NHKで放映中の朝の連続テレビ小説『ブギウギ』の主題歌『ハッピー☆ブギ』で、EGOーWRAPPIN’の中納良恵、主演の趣里とともにボーカルをつとめ、2023年12月には初のベスト・アルバム『さかいゆうのプレイリスト[白と黒]』をリリース。これまでの歩みを2枚のCDに凝縮した集大成的内容となっている。

改めて幅広い層からの注目を集める彼に、『ハッピー☆ブギ』参加へのエピソードやベスト盤の意図、最近は海外の名プレイヤーたちともコラボを重ねながら進化を続ける音楽観などについて語ってもらった。

取材・文/吉本秀純

■「服部さんならではの組み合わせ」ハッピー☆ブギ

──最近のトピックといえば、やはり服部隆之さんが作詞作曲した『ハッピー☆ブギ』への参加だったと思います。ドラマで主演をつとめる趣里さんが自ら歌っているのも貴重ですが、EGOーWRAPPIN’の中納さんとの男女リード・ボーカルという顔合わせも意表を突くものでした。

服部さんならではの組み合わせですよね。意外と僕は、中納さんとは今までそんなに接点がなくて。もちろん曲も知っているし、尊敬するボーカリストの1人だったんですけど、今回は全然関係のないところからお話をいただくことになって「うわっ、EGOーWRAPPIN’か」みたいな感じでしたね。

『ハッピー☆ブギ』フルバージョン

──そもそも、さかいさんが参加した経緯はどういうものだったんですか?

たぶん、服部さんチョイスだと思います。何年か前に服部さんがアレンジを手がけた『オフコース・クラシックス』のアルバムに参加させていただいて、その後にコンサートにも結構な頻度で出させてもらったんですよ。そのときの関係とかコンビネーションが今回の参加に繋がったと思います。

──そうだったんですね。

服部さんとはなんかウマが合うというか・・・って、大先輩なのでそう言うと失礼ですけど(笑)、面白いんですよね。僕からしたら、服部さんというか服部家といえば日本のポピュラー音楽の歴史そのものなんですけど、先日は『ブギウギ音楽祭』(NHKで2月8日に放映済み)で初めて人前で『ハッピー☆ブギ』を披露して、服部さんからも歌のことを褒めてもらって楽しかったですよ。

『ハッピー☆ブギ』について話をするさかいゆう

■ さかいゆうのいろんな側面を楽しめるアルバムに

──そんなさかいさんのことを改めて知った聴き手も多いタイミングで、2023年12月にリリースされたCD2枚組のベスト・アルバム『さかいゆうのプレイリスト[白と黒]』は、ポップな側面とコアな側面を持ったさかいさんの魅力が凝縮された聴きごたえのある内容となっています。

さかいゆうのいろんな要素、入口というか顔になる曲を選んでいます。『ストーリー』『薔薇とローズ』『ジャスミン』しか知らない人には、『桜の闇のシナトラ』みたいな海外のミュージシャンと一緒に録った曲も聴いてもらいたいなと思ったり、逆にそっち側の僕しか知らない人にはポップな面も聴いてもらいたいなと。で、プレイリストなのでDJ的な感じで曲を並べました。

──どちらの盤も、最後まで一気に聴かせてしまう曲の並びがまた良いですよね。

そうです。普段『ジャスミン』みたいな曲しか聴かない人に、いきなりジャズのジャム・セッションみたいな曲がバーンって来たら、それはそれで楽しいかもしれないですけど、今回はそうではなくて聴きやすい感じに並べて。でも、どっちとも同じアルバムのなかに入っていて、両方のさかいゆうを知ってもらいたい、というのがありました。

──いい意味での両面性を持ったさかいさんの魅力や本質が、しっかりと味わえるベスト盤になっていると思います。

でも、結構その多面的なところが離れていたりもするかもしれないですね。僕のなかのマイルス(・デイヴィス)、ダニー・ハサウェイ、スティーヴィー・ワンダー、小田和正、山下達郎、小谷美紗子みたいな、いろんな自分が培ってきたものが「さかいゆう」となると一個になるんですけど、聴きやすそうで聴きにくい一面もあるみたいなので。

だから、急に景色が変わったり、大きいホールで聴いていたと思ったら、急に小さなジャズ・クラブで爆音でドラムが鳴ってたみたいな音楽もあるので、今回はその両極を(白と黒に分けた2枚組で)出したっていう感じです。

2枚組のベストアルバムを発売したさかいゆう

──そうですね。流れも良く2枚にまとまってますが、気が付けばかなりディープなところまで連れて行かれる聴き手が多いでしょうね。

だいたい初期の頃はインディーズっぽい濃い音でやっていて、売れてくると音像もキラキラした感じになってきてそのまま進んでいくというのが、多くのアーティストが大きくなっていく道筋だと思うんですけど。でも、僕はそういう進み方はしていなくてグチャとカオスになっているので(笑)、それをできるだけ聴きやすくまとめたアルバムがあればいいなと思っていました。

初のベストだったし、15周年イヤーでアメリカで自分の好きなミュージシャンたちと録音する機会もいただけたので、それを最新のさかいゆうとして据えて、これからのさかいゆうと一番古いさかいゆう、「黒さかい」と「白さかい」をギュッと1枚にまとめて、コレを聴くとさかいゆうのサワリの部分は全部聴けるアルバムにしたかったんですよね。

■「死への向き合い方を大事にしている」曲制作の根本

──それにしても、黒盤(CD-2)のラストに収録された新録の3曲はメンバーが豪華ですね。ギターがロベン・フォード、ベースがモノネオン、ドラムにネイト・スミス、挟間美帆がアレンジを手がけている大所帯のホーン・アンサンブルにも現代ジャズ・シーンで注目を集めている実力派プレイヤーの名前がちらほらと確認できて、思わず「おおっ!」と声が出るほどでした。

でしょう?

──『Freedom Freeway』は新曲で、『よさこい鳴子踊り』『君と僕の挽歌(New York Ver.)』の2曲はリメイクですが、新録曲はどういうものにしたいと考えていましたか?

まず『よさこい~』は日本語を喋れない米国のゴスペル・シンガーの人達の「よっちょれよ」を聴いてみたいというのと、わざわざマンハッタンまでいって「よさこい」を録る意味も結構あるかなと思ったので(笑)。

──3曲とも向こうのゴスぺル・シンガーたちが日本語詞でコーラス・パートを歌っているのも印象的でした。

『君と僕の挽歌』を録り直したのは、ゴスペル・ヴァージョンを作りたかったというのと、この曲はミュージシャンになりたかったけど亡くなった友だちに向けて書いた曲で、「自分はミュージシャンになったんだけど、お前にはどういう風に見えてる?」と問いかけるように2012年の時点で書いたものなんですけど。そこからさらに11年が経って、「今はどういう風に見えてる?」って気持ちで録音しました。そこに意味があるのかな、と思って。

──『君と僕の挽歌』のオリジナル・ヴァージョンは白盤(CD-1)のラストに収録されていて、その対比が今回のベスト盤の大きな聴きどころにもなっています。

両方とも別モノとして入れたくて。テンポは一緒なんですけど、どちらも最後にこの曲があるところはコンセプチュアルにしました。

──『君と僕の挽歌』は、さらに歳を重ねて歌ったときにまた違う響きを帯びそうな曲ですね。

コーラスの人たちにも歌詞の意味を伝えて、日本語で歌ってもらいました。ま、自分の大事な知人を亡くすという感覚は、宗教などを越えて同じようなことだと思うし、うれしい人は誰もいないはずですから。

「寂しい」を「悲しい」と捉える人もいますけど、昔のネイティヴ・アメリカンや日本人たちは「悲しい」という感覚ではなかったんじゃないかなとも僕は思っていて。ひとつの死を受け入れて、彼ら(故人)の考えていたこととか植えた木を守るとかで繋がっていくというか。

──なるほど。

とにかく、死への向き合い方という点でもこの曲はとても大事なものだったりするし、それが一番僕にとっては音楽をする大事なモチベーションだったりもしますね。恋愛の曲だろうが何だろうが、死をちゃんと匂わせるというか。

別れイコール死だと思うし、それを「悲しいこと」という理由付けにしたくないので、『君と僕の挽歌』の歌い出しでも「寂しさは続くだろう」で「悲しさは続くだろう」とは言ってないんですよね。そして「でも、あなたが残した記憶はちゃんと僕に受け継がれていて」という宣言でもある歌だから、何回でも歌い直す意義や意味があるものになっているのかなと。

音楽制作について話すさかいゆう

──実は、僕自身もこのベスト・アルバムを聴いていて強く思ったのは、たとえばラブソングの体裁を取っていてもそれだけじゃないことが歌い込まれているように感じる楽曲が多いことで。だからこそ、聴き手の深いところまで刺さってくるような感覚があるのかなと。

普段はそんなこと思わないんですけど、曲を書いているときに「あ、オレいつか死ぬんだろうなぁ。死んだらコレ(曲)しか残んないなぁ・・・」と思いながら書いているときが結構ありますね。

で、誰かが僕が死んだ後にそれを聴いて喜んでいたとしても、オレは今それを聴いて喜んでいる人を見て喜んでいるのと同じ感覚でいられるかの保証はないな・・・とかブツブツ考えながら曲を書いていると、それが1曲になるんですよね。でも、全然暗い気分とかじゃなくて、めちゃくちゃ明るい気分で。

──シリアスで重い感じになりそうなところでも、そうはならないというか。

暗く重くはならないですね。(死について考えているのに)「明るく」と言ったら不謹慎かもしれないですけど、深く、広く、強くという感情になりますね。曲を書いたりするときには。

──そんな15年の歩みで培ってきたさかいさんのエッセンスが詰まったベスト・アルバムのリリースを経て、3月14日からは全国4カ所を回るホール・ツアー『さかいゆうTour 2024~プレイリスト[白と黒]』が開催されます。

昔からよく知っている、僕の大好きなベスト・メンバーと呼べるミュージシャンたちに集まって演奏してもらうので。張り切ってちょっと長いライブになるかもしれないですけど、黒から白からちょうどいい感じに織り交ぜてお届けしたいと思います。

『さかいゆうTour 2024~プレイリスト[白と黒]』の大阪公演は3月24日・夕方6時から、「国際交流センター」(大阪市天王寺区)にて。チケットは全席指定6600円(小学生以上有料)。

『さかいゆうTour 2024~プレイリスト[白と黒]』

日時:2024年3月24日(日)・18:00〜
会場:大阪国際交流センター(大阪市天王寺区上本町8-2-6)
料金:6600円(全席指定)
電話:06-6882-1224(GREENS)

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