『不適切にもほどがある!』小泉今日子がまさかの本人登場  思わず頬が緩むエンタメ回に

KYON2こと小泉今日子がまさかの“ご本人登場”してくれたことに驚かされたのも束の間、ムッチ先輩(磯村勇斗)が2024年では彦摩呂になっていることに笑い、「これぞエンターテインメント!」と頬がゆるんだ金曜の夜だった。金曜ドラマ『不適切にもほどがある』(TBS系)第8話。サブタイトルは「1回しくじったらダメですか?」だ。その題が示す通り、描かれたのは踏み外した人に対する、令和の風当たりの強さだった。

今回、昭和のおじさん・市郎(阿部サダヲ)のもとに相談にやってきたのは、過去に不倫スキャンダルを起こしたことで干されてしまったアナウンサーの倉持(小関裕太)。妻にはすでに許され、子宝にも恵まれて家庭は再構築された様子。そして、仕事面では謹慎明け後も“禊”とも言える裏方業務を続けること2年半、さらに定期的に反省文を提出し、コンプライアンス講習も受けたのだが、それでもテレビに出ることを世間が許してはくれないと頭を抱える。

「不倫が悪いことはわかってる。でも、たった1度の過ちで……」と市郎はその厳しすぎる世間の風当たりに納得がいかない。しかし、今やリスクマネジメント部の部長となった栗田(山本耕史)は頑として復帰を許可しようとしない。なぜそこまで強く反対するのか。その理由は栗田自身が、過去に不倫をした張本人だったため。そして、その「たった1度の過ち」から17年経った今でも、妻の友人たちから責められ続けているという。

神妙な顔をしていても「辛気臭い」と叩かれる。ネタにすれば「調子に乗っている」と叩かれる。ほとぼりが冷めれば、誰かが必ず蒸し返す。もはや当事者同士で解決していたとしても、それを良しとしない空気がある。それが令和という時代なのだと誰よりも知っているからこそ、栗田が倉持の復帰を反対してきたのだ。そうした背景がわかると、「たった1回だぜ」とは思いつつも、「今はダメなんです」という栗田の言葉に「はい」と頷くしかない市郎だった。

SNSの発展によって、小さな声が広く届くようになった。そのなかには昭和の時代にはかき消されていたであろう声もある。たった1人の声が大きなうねりとなって、社会を動かすことも今や珍しい話ではない。それ自体は昭和に戻った純子(河合優実)が言うように「最高じゃん」な未来と言えそうだ。しかし、ツッパリが絶滅した理由が不満がなくなったからではないように、令和でも鬱屈としたエネルギーがあちらこちらで噴出しているように思う。

昭和の時代にツッパリが睨みをきかせながらツバを吐いて歩き喧嘩をして回った反抗心と、令和の時代に目くじらを立てながらネットの世界をパトロールし気に入らない誰かを叩かずにはいられない制裁欲。それは一見「不良」と「正義感」という真逆に感じられるが、もしかしたらエネルギーの発散という点では重なるところがあるのかもしれない……なんてことを考えてしまった。

どれだけ便利になっても、どれだけ多様性を認め合おうという風潮が広まっても、誰も不満を持たない世界にはならないし、そうして生まれた行き場のない感情が爆発する場所が必ず出てくる。だからこそ、叩く人も叩かれる人も少しの間だけ、そんな現実から解放されるエンターテインメントが必要なのかもしれないと、KYON2と彦摩呂のサプライズ出演で感じた。この2人が登場した瞬間、「なんて言ったらいいかわからない」けれど笑顔になってしまったのは筆者だけではないはず。

思わず「おー!」と心が動かされたり、「あはは」と吹き出さずにはいられなかったり、そんな感動や笑いの感覚は真っ先に時代の変化を反映しているといってもいい。だから、ときには行き過ぎたり、ちょっと踏み外すこともあるかもしれない。そんな定まらないラインを「今の感覚だとOK? ダメ?」と、定期的に確認していく必要があるのだろう。

そして、このドラマ自体がその確認作業をしているようにも感じた。市郎の「けど今の時代、俺みたいな異物が混入してないとダメだと思うんだよな。不適切なやつ」という言葉も、本作が生まれた意味に聞こえた。そして、世の中が少しでもマシになって、若い連中が幸せになるために……。市郎が令和に残り続ける理由も、このドラマが作られる願いそのものなのかもしれない。
(文=佐藤結衣)

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