ロッド・スチュワートは過去の人じゃない!芸歴55年をしっかり現代にアップデート  スペシャルな声質と卓越した歌唱力!来日公演を控えたロッド・スチュワート

連載【リ・リ・リリッスン・エイティーズ〜80年代を聴き返す〜】vol.51
トゥナイト・アイム・ユアーズ / ロッド・スチュワート

ロッド・スチュワートは過去の人?

ロッド・スチュワートが日本にやってきます。3月20日、東京・有明アリーナでの1回きりですが、約2週間で7カ国を巡るアジアツアーのこれが最終日。1945年1月10日生まれの79歳にとっては、かなりハードなスケジュールではないでしょうか。お元気で何よりです。

60年代半ばにはシンガーとして頭角を現し、67年から “ジェフ・ベック・グループ”、69年からは “フェイセズ” のボーカリストとして活躍する一方、並行して69年からソロ歌手としても活動し、いずれにおいても話題作にしてヒット作を次々と送り出しました。ロックミュージックがいちばん勢いがあった時代に、中でもそのスペシャルな声質と卓越した歌唱力で、ロッドは唯一無二の存在でした。

だけど、やはりもう過去の人というのが大方の認識じゃないでしょうか。私も「マギー・メイ」(Maggie May / 1971)や6枚目のアルバム『アトランティック・クロッシング』(Atlantic Crossing / 1975)は大好きで聴きまくっていましたが、メガヒット・ディスコチューンの「アイム・セクシー」(Da Ya Think I'm Sexy? / 1978)以降は、“売れ線” に走った気がして興味が薄れ、2000年代になって、昔のポピュラーソングをいろいろカバーした『グレイト・アメリカン・ソングブック』(The Great American Songbook)シリーズが、やたらと売れているらしいことを耳にしながらも、やり尽くしたシンガーのありがちな展開などと思うだけで、聴こうともしませんでした。

だから、13年ぶりの来日というニュースを聞いても、「往年のビッグアーティストを手厚くもてなしてくれる日本への “出稼ぎ ”ライブだろう。ヒット曲を並べればシルバー世代は大喜びだよね。これもまたありがち…」なんて冷めた感想しか出てきませんでした。だけど一応、最近はどんな感じなのかなと思い、ググってみると、なんと、2010年代に入っても、約3年ごとにアルバムをリリースしていて、しかも少なくとも英国では必ずヒットチャートの上位にランクしているではないですか。

直近の今年2月23日にも、『スウィング・フィーヴァー』(Swing Fever)というアルバムを発表していて(今回はこれのプロモ―ショナルツアーなんですね、きっと)、タイトル通り、スウィングジャズの名曲カバー作なんですが、ジュールズ・ホーランド(Jools Holland)という、昔、“スクイーズ”(Squeeze)という英国のニューウェイブバンドにいたキーボード奏者とのコラボで、これもなかなかいい。

その後もケヴィン・サヴィガーは、90年代末までのロッドのすべてのアルバムに参加し、98年の18枚目のアルバム『ザ・ニュー・ボーイズ』(When We Were the New Boys)では、初めてロッドとともにプロデューサーとしてクレジットされます。

ロッド・スチュワートは今も現在進行系

2000年代は、クライヴ・デイヴィス(Clive Davis)の「J Records」に移籍して、クライヴ自らのプロデュースによる『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』(The Great American Songbook)シリーズの世界に入ってしまいますので、ケヴィンの出る幕はありませんでしたが、2010年代に入ると、前述のように、再びロッドの下に馳せ参じ、しかもさらにエンジニアとしての能力まで身につけて、ロッドにとってはもう欠かせない片腕として、彼の音楽を現在進行系で進化させているのです。

その名を知る人は多くないと思いますが、ケヴィン・サヴィガーは、たとえば作曲などに発揮されるクリエイティヴな能力と、アレンジやエンジニアリングに発揮される職人的マインドを兼ね備え、しかも現在67歳にしてなお向上心を失わない、素晴らしい音楽家だと思います。ロッド・スチュワートの2010年代の作品群をぜひ、聴いてください。

カタリベ: ふくおかとも彦

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