桐谷健太「俺の場合、SNSはしないし、ほとんど見ないです」信じるのは自分が気持ちいいと思うもの

桐谷健太 撮影:有坂政晴

2002年に俳優デビューを果たした桐谷健太。ドラマ「ROOKIES」の平塚役で知名度を上げ、2015年から始まったauのTVCMソングで歌手デビューも果たした彼は、今年で俳優生活22年を迎える。40歳を過ぎてからは主演作も多数こなし、3月3日から放送スタートのWOWOWドラマ「連続ドラマW 坂上の赤い屋根」では、実直な書籍編集者を演じることでも話題に。彼の俳優人生におけるCHANGEを聞く。【第5回/全5回】

桐谷健太さんの主演ドラマ『連続ドラマW 坂の上の赤い屋根』が、3月3日に第一話放送を迎えた。“イヤミス”の名手の一人、真梨幸子さんによる同名小説を、桐谷さんをはじめ、豪華俳優陣で実写ドラマ化した作品だ。人間の孤独や嫉妬、裏切りが入り混じるシリアスなストーリーで、じわじわと感じられる衝撃のラストが待ち受ける。このミステリー作品との出会いや、作品を作り上げる上での発想の転換となったのだろうか。

物語は、編集者・橋本のもとに「女子高生両親殺害事件」をモチーフにした小説の企画が新人作家の小椋沙奈(倉科カナ)から持ち込まれたことを発端に始まる。小説にリアリティを持たせるために、当時者たちと一人ずつ会って取材を進めていく橋本と沙奈。そこから登場人物たちが抱える嫉妬や孤独など、過去の闇部会感情が浮き彫りとなり、事件の真実が明るみになっていくミステリー。桐谷さんは、本作の主人公で轟書房編集者の橋本涼役を演じる。

「最初にお話をいただいた時に、魅力的で刺激的なお話だなと感じましたし、自分がこの橋本を演じるとどうなるのかっていうことに興味が湧いたんです。 読んですぐマネージャーに電話しました。この作品は登場人物それぞれの視点によって、真実が変わる。視聴者ひとりひとりの視点でもそれが変わる。そこにとても魅力を感じました」

出版社の書籍担当編集者。副編集長として活躍する真面目な人物像。桐谷さんが演じる橋本は、あまり表情を変えず、一見、落ち着いていて真面目そうな編集者である。この役を演じるためにこだわったのは、自身の直感だとインタビューでは語ってくれた。

「彼の過去にあったことやバックボーンを深め、染み込ませる作業をしながら台本を読んで自分の中にすっと入ってきた感覚を大切にしました。たとえば橋本は編集者だから編集者らしい動きや言葉遣いを…ということではなくて、なぜ橋本が編集者になる運命を選んだのかということに重きを置いていました。
物語が進むたびに深い闇が浮き彫りになっていく中、橋本の人物像もどんどんと浮き彫りになってくる。その不気味さや悲しみを橋本と僕は共有しながら築き上げられたので、現場では何も考えずに演じることが出来たと感じています」

全5話で完結する濃密なミステリードラマ。橋本と沙奈の取材は、18年前の「女子高生両親殺害事件」で死刑囚となった男・大渕秀行(橋本良亮)と獄中結婚をした大渕礼子(蓮佛美沙子)、ホストだった大渕に惚れ込み貢いで破滅した元愛人・市川聖子(斉藤由貴)など多岐に渡る。複雑な人間関係の謎が解けるとともに事件の真相にたどり着くなか、人間という生き物の嫌な部分が露呈していく。

「原作は“イヤミス作品”と言われているものですが、この“イヤミス”の捉え方って人それぞれですよね。“嫌な気持ちになる”と捉える方もいれば、懐かしさや安心感を感じる方もいるかもしれない。俺はどちらかというと後者のほうで、この台本を読ませてもらったとき、不思議と嫌な感じがしなかったんですよ。人間の哀しみや孤独といった心情が、むしろ心地良さを感じます。
俺ってちょっとおかしいのかなと思いましたけど(笑)。物語をいろいろな角度から捉えて、人間という生き物の複雑さに触れられるこのドラマを楽しんでいただけたらと思いますね」

自分が気持ちいいと思うものを信じる

劇中では、殺人事件の真実をめぐる世間の論争がSNSで描かれる場面もある。事件の真偽がわからないまま、憶測で拡散されてしまう恐怖も描いているのが、「坂の上の赤い屋根」だ。

「俺の場合、SNSはしないし、ほとんど見ないです。ネットニュースも。いまのSNSにおける問題点も話題になっていますが、何を信じる信じないかではなく、自分にとって気持ちいいものを選んでいけばいいんじゃないでしょうか。SNSを信じるか信じないかの以前に、それが嘘か本当かそもそもわからないんだから。俺の場合は、散歩したり美味しいものを食べたり、体や自分の心に素直になれることが真実だと思って生きています。
それでいうと『坂の上の赤い屋根』の登場人物も、“自分が何を選んだか”が、キーになっていて。たとえば、“こんなことになったのも、すべてあいつのせい”という憎しみの感情があったとしたら、見方を変えれば、“あいつのせいと思っている自分”を無意識のうちに選んでいることでもあると。そんなふに考えると、物語の印象が180度変わってしまうところが、このドラマのおもしろいところでもありますね」

インタビュー:奥村百恵

桐谷健太(きりたに・けんた)
1980年生まれ、大阪府出身。02年俳優デビュー。07年、『GROW愚郎』で映画初主演。20年、ドラマ「ケイジとケンジ~所轄と地検の24時~」で民放ドラマ初主演。近年の出演作に、映画『ラーゲリより愛を込めて』(22年)、『アナログ』(23年)、ドラマ「インフォーマ」(23年)、「院内警察」(24年)などがある。

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